第62話 【2パーティ視点】聖槍一閃
☆★☆【side:ファーストペンギンズ】☆★☆
《ゴーストナイツ出現は貴方たちの仕業なんですか? 答えてください!》
《とりあえず通報しました》
「く……」
人マネしかできないカスである、レイトマジョリティどものコメントが増えてきた。
とりあえずは無視してやりすごしているが、このままだとどんどん数が増えていくだろう。
身の程知らずどもが。
これもみんな伊吹のせいだ。
「……何?」
伊吹をにらみつけると、冷たい視線が返ってくる。
無能のくせに。
伊吹は言った。
「このクリスタルは使用後3分で魔素になって消える。つまり、あいつらがゴーストナイツとの戦闘に専念しているうちに証拠はなくなるのさ」、と。
それが実際はどうだ?
やつらはゴーストナイツを1分程度で片付け、よりにもよって封印水晶をドローンで全国配信しやがった。
その結果が、この荒らしコメントだ。
たしかに、オレたちが渋谷でゴーストナイツと戦ったときは、討伐に10分はかかったさ。
【剣聖】のオレですら鎧の撃破に3分はかかったし、その後の霊体も後衛どもがなかなか倒せなかった。
だが、それは敵が万全の状態だったからだ。
モンスターも封印水晶に入ると、少しずつ力が衰えていくのだろう。
――「封印時の状態で保存されてるよ」?
は? バカを言うな。
本当にそうだとしたら、あのザコどもがゴーストナイツを倒せるはずがないだろうが。
それを計算できていない、伊吹が間抜けなのだ。
そのとき、バカ女の炎城がオレに話しかける。
「柳生さー、相手チームは19階層に入ったみたいじゃん。なんでアンタの言うとおりに進んでるのに離されてんだよ。マジだりぃ」
「うるさい!!!」
《こわ》
《イライラ》
《効いてるwww早く悪事を認めろwwww》
《怒っちゃやーよ?》
「チ……!」
――レイトマジョリティの有象無象が。
あとで弁護士に開示請求させて全員ぶっ潰してやる。
だが、今は。
「柳生、落ち着け。やつらも消耗しているはずじゃ。勝負は20階層のボス討伐。まだまだ勝負は決まっとらん」
「……んなこと、わかってる」
宇都宮ダンジョン20階層のボスは、ストーンガーディアンだ。
人型のゴーレムタイプのモンスターであり、外皮となる岩を砕いてからでないと、本体の核にはダメージが通らない。
うちの熊野田と同じ【防御貫通】スキルがなければ、まともにダメージが通るまで30分はかかるだろう。
「あのカスどもが外皮を処理したころに参戦し、ガーディアンのコアをオレたちが破壊する」
「……うむ。まだ勝負が決まったわけではない」
夏目はオレよりもザコだ。
クソカスどもの中には、夏目の方が強いとかほざいているやつもいるが、それは低レベル探索者ゆえに正確な実力が測れていないだけだろう。
夏目がストーンガーディアンの守りをはがしたころ、オレがトドメをいただく。
「はは……! クソカスが……!」
貴様に教えてやる。
最後に勝つのは、計算高い人間だと。
☆★☆【side:チーム秘密基地】☆★☆
ゴゴゴゴゴ……。
「わ……」
20階層に入った瞬間、広間の中央にある岩が動き出した。
岩は形を変え、巨人の姿になる。
「夏目くん、ストーンガーディアンだよ!」
「デカイな……」
前に倒したグリーンドラゴン亜種よりも、少し高さがあるようだ。
《うちの実家よりデカい》
《つよそう》
《かたそう》
《イナゴじゃ食えないな……》
《どうするんだ?》
「こーちゃん、このモンスターを倒せばあたしたちの勝ちだよ!!」
「うむ……。ちょうど心臓の場所に、赤い核がある。それを砕けば討伐完了よ」
「……なるほどな」
《砕くって、どうやって?》
《岩から発掘するってことだろ?》
《タマちゃんの水の刀で削る?》
《ハーミットの光魔法か?》
《かなり時間かかるな》
「こーちゃん、あたしが引きつけるね」
「我は光属性の弱点付与を行う。夏目、トドメは頼んだぞ」
「――ああ」
そして、おタマちゃんはストーンガーディアンに向けて走っていった。
「てりゃー!」
ガチィィィィン……!
『判定、ストーンガーディアンに1のダメージ!』
「ブオオオオオオォォォォ!!!」
「わわ!」
ドシィィィィン!!
《意外と速い!》
《パワーも強いな》
《よく避けた》
《岩割らないとダメージ通らないな》
《刀と相性悪すぎ》
《大剣とかハンマーとかの破壊武器が欲しいな》
「たまちゃん、大丈夫!?」
「まかせて! しーちゃんはこーちゃんを集中させてあげて!」
「わかった!」
しーちゃんは、大きな盾をかまえて俺に寄り添う。
「夏目くんには、絶対に手出しさせない。だから安心して準備して!!」
「ああ……。ありがとう、しーちゃん」
――そして、俺はスキルを起動する。
「――虫相撲・カブト」
俺の右横にゲートが開き、体だけで俺の腕の長さほどもあるカブトムシが出現した。
さらに。
「《応援》で、俺の魔素をすべて、カブトムシに……!」
俺とカブトムシの間に魔力の回路を作り出し、力を送り込んでいく。
「夏目、温存していた力を解放するときだ。……深き闇よ、対象を堕落へ導け! コラプションッ!!」
ハーミット様の手からは黒い煙が生まれ、渦となって巨人に巻き付いていく。
「ブォォォオオォォ……!」
『判定、ストーンガーディアンに0のダメージ。追加効果、攻撃・防御低下。光属性弱点を付与』
《ハーミット様、支援もできるのか》
《光属性弱点付与?》
《ハーミット、後ろに下がっちゃったぞ》
《ハーミットの魔法で削るんじゃないの?》
《みんな、こーちゃんを囲んでいるな》
《まさか、こーちゃん光属性の攻撃もできるの?》
「さあ、準備はできたぞ」
「夏目くん!!」
「こーちゃん、お願い!!」
「――ああ」
このひと月、俺は誰よりも強くなれるように遊んできた。
その結果、驚くようなスピードで成長できた。
俺の全魔力《MP》、約200。
そのすべてを、カブトムシに注ぎ込む――。
「悪いな――。俺は少しばかり強くなったんだ」
右手を伸ばし、攻撃対象を指し示す。
「行け、カブト!! 全魔力集中!! 聖槍……一閃ッッ!!!」
「ブォッッ!?」
カブトムシは天井近くまで飛び上がると、流星のような速度でストーンガーディアンに突っ込んだ。
ズガァァァァァン!!
「ブ、ブォ……」
カブトムシはストーンガーディアンを貫き、岩の胸に大きなトンネルを開けた。
トンネルの中では、赤い球体の一部がえぐり取られ、バチバチと電気のような音を立てている。
「核をとらえたな」
バチバチ、バチ……。
「ブ、ブォォォ……」
コアは白く発光し――。
ズドォォォォォォンッ!!
――ストーンガーディアンは爆発し、岩のかけらとして砕け散った。
カン! コロコロ!
俺の足元にも、ガーディアンのかけらが転がってる。
それを見て、少しやりすぎたかなと反省した。
「――全力を出すまでもなかったな」
『判定、ストーンガーディアンに8971のダメージ! ストーンガーディアンを撃破!!』
《うおおおおおお!!》
《8000ダメージ!?》
《こーちゃん、強すぎる!!!》
《ハーミットより火力出てる!!》
《ドローンのバグをうたがうレベル!!!》
《Aランクパーティ妥当すぎ!!》
《Aランク確定!!!》
《てか、Sランクに近いだろ!!》
《おめでとう!!》
《おめ!!!》
《こーちゃんチームよかったです!!》
《いえーい!! ペンギンさんチーム見てるー? ねぇねぇ今どんな気持ち?》
《ペンギンより明らかに強かったです。Aランク納得です》
《ペンギン、いま11階層www》
《こーちゃんどうすんの? 待っててやるの?》