第60話 【2パーティ視点】妨害一蹴
☆★☆【side:ファーストペンギンズ】☆★☆
オレたち《ファーストペンギンズ》は宇都宮ダンジョン4階層に到達していた。
「こんなふうにステップを踏みながら攻撃すれば、スピードを殺さず敵を撃破できますので、ぜひやってみてくださいね!」
《そんなのできるかwww》
《強すぎwww》
《このパーティに入れる対戦相手、幸せすぎる!》
《負けた方が幸せなんて、最初から勝負になってないよぉ……》
リスナーの同時接続数も8000を超えてきた。
この勢いなら、1万は余裕だろう。
事前告知なしだが、この数字が集まるのもオレたちの実力ゆえだ。
「このままだと楽勝かもしれないから、少し縛りプレイしてみましょうかね。たとえば、次のフロアは素手で戦うとか……」
《なめすぎwww》
《それでも勝てちゃうんだろうけどな》
《RTA(舐めプ)》
《そんなことしてる時間ないよ! 相手は12階層にいるんだから!!》
「は……?」
一瞬、わけのわからないコメントが見えた。
「またまたー、ウソはダメですよ。みなさんには情報ないでしょうし、僕たちは最短ルートで来てるんですから。相手チームは2階層くらいじゃないのかなー」
後ろを振り向き、国の探索官を確認する。
当然ながら、オレには相手チームの状況を教えてもらえるように手配している。
試験のルールも、国の課長補佐に事前に提供してもらっている。
なぜならば、オレたちは試験官側の人間であり、受験者ではないからだ。
それくらい、当然だろう?
「リスナーさんの情報、本当ですかー?」
すると、国の探索官は。
――こくり、と頷いた。
「は……?」
《相手チームも配信してる。てか、こーちゃんがいるぞ!》
《Aランク最強格の月虹のハーミットもいる》
《こーちゃんとハーミット、同じパーティなの!?》
《豪華すぎ》
《ハーミット初配信だよな?》
《こっちがのんびりしてる間に、今12階層後半》
《空間転移?》
《違う。裏ルートでショートカットしてた。ダンジョン知識ヤバい》
《裏ルートは、水の上を進めるスキルさえあれば誰でもできる》
《オレ、そっち見にいこうかな。ためになりそうだし》
《こーちゃん見にいこ》
「あ……」
みるみるうちに、同時接続が減っていく。
8000人のリスナーが、いつの間にか4100人になっていた。
「あのヤロウども……!」
ショートカットの情報は、国がくれた地図には載っていなかった。
本当に使えない。
それに月虹のハーミットだと?
Aランク探索者の間では、あのブログアカウントは経歴詐称というのが共通認識だ。
あの【空間転移】しか取り柄のないザコが、詐欺師と組んで、ハッタリをかましているのだろう。
「調子にのりやがって……!」
「どうする? 戻る?」
気づけば、パーティメンバーの伊吹が声をかけてきた。
こいつのバリアを転用すれば、おそらく水の上を歩くことは可能だろう。
しかし、戻ったところで11階層への移動時間の短縮はわずか。
むしろ、ルート発見に余計な時間がかかる可能性が高い。
「このまま行く。本気を出すぞ」
「りょーかい」
オレたちは速度を上げ、地図に基づく最短ルートを進んでいく。
ついてこれないやつがいれば置いていくつもりだったが、国の探索官も含め、同じ速度で移動できている。
《速いけど……》
《でも、空間転移からしたら、ね……》
《おい、よその話題は出すなよ》
《こーちゃんは空間転移禁止されてるらしいからな。向こうの配信で言ってた》
《ファーストペンギンズ手加減してもらってんじゃんwww》
《有利なルールでも勝てないの?www》
《こーちゃんパーティのひとりも戦闘を禁止されてるんだって》
《向こうは実質3人パーティか》
《これで負けたら恥ずかしいな》
《少し縛りプレイしてみましょうかね(キリッ》
《僕たちは最短ルートで来てるんですから(無知)》
「く……!」
コメントも荒れてきた。
早くやつらの勢いを止めなくては。
5階層にいたる階段を見つけたとき、オレは並走するドローンに向けて言った。
「このようなスピードで動いていいのは、僕たちのような訓練されたチームだけですからね。万が一、危険な罠とか異常事態とかあった場合、逃げられないと困りますから」
そう言って、【魔物封印】のスキルを持つ伊吹に目配せする。
【魔物封印】スキルは、世間には公表していない、伊吹の隠し玉だ。
この試験では、「持ち込み」は禁止されていないし、「事前探索」も禁止されていない。
そして、「スキルの解除」は、手元のクリスタルを割れば、任意のタイミングで可能である。
「先に行ったチームも、本当に、気をつけてほしいですね……」
――勝負は、15階層だ。
☆★☆【side:チーム秘密基地】☆★☆
「うわ、なんだこれ……!」
15階層の床を踏んだ瞬間、あたりに煙が満ち、5体の鎧騎士が現れた。
「ゴーストナイツだ……!」
しーちゃんによると、渋谷ダンジョンの24階層に出現するモンスターらしい。
ボスではないが、5体のチームとして現れること、鎧には魔法攻撃が効かないこと、鎧を壊したあとは物理攻撃が効かないゴーストモンスターに変身することから、「凶悪」として知られているようだ。
《なんでここに!?》
《イレギュラー!?》
《ヤバい逃げて!! 試験とかどうでもいいから!!》
《こーちゃん!! 太田の経験活かして!!》
《こいつらはマジヤバいよ!!》
《ファーストペンギンズですら本気出すレベルだよ!!》
《渋谷の悪魔!》
いつの間にか4000人を超えたリスナーから、嵐のようなコメントが来ている。
「渋谷ダンジョンって、たしかペンギンさんチームの……」
「……証拠はないがな」
鎧騎士はガシャガシャと音を立てながら近づいてくる。
「どうする? とりあえず、俺とおタマちゃんでいくか?」
魔法が効かないというなら、俺たち前衛チームが頑張らないと……。
だが、おタマちゃんとまなみんは。
「大丈夫、とりあえずあたしが倒すよ」
「うちの最大戦力は控えておけ。20階層では頼むぞ」
「え……」
《ふたりでやる気!?》
《逃げてよ、無理だよ!》
《Aランクなんて死んだら意味ないよ!! 意地張らないで!!》
《こーちゃん、タマちゃんを助けてよ!!》
おタマちゃんは、腰の刀を握りしめ。
「いっくよー! 【身体強化】アンド【水使い】合わせ技……。――暴れ川・居合斬り!!」
「お……!!」
【水使い】スキルで背後に水を噴射し、加速しながら敵へと斬り込んでいった。
――そして。
ガラガラガラッ!!
すべての鎧が、その場に崩れ落ちた。
「やたっ! こーちゃん、見てた!?」
「ああ。格好よかったぞ」
「わーい!」
『判定、ゴーストナイツ(鎧)に平均508のダメージ!! ゴーストナイツ(鎧)たちを撃破!!』
ドローンのダメージ判定でも、相当の火力が出ていたようだ。
「おい……たま。油断するな」
「ハーみん様、後はよろしく!」
崩れた鎧からは、黒い煙のようなものが立ち上る。
「――まかせよ。輝きの大剣よ、闇を斬り裂け! プリズムブレード!!」
まなみんの正面に、刃渡り2メートルはある光の大剣が現れ、水平に振り抜かれる。
「ギャアァァァ……」
『判定、弱点属性により、ゴーストナイツ(霊体)に平均852のダメージ!! ゴーストナイツ(霊体)たちを撃破!!』
「いえーい!!」
「ふ……」
パチーン!!と、おタマちゃんとまなみんはハイタッチをする。
《え、え!?》
《一瞬!》
《霊体は?》
《コメントが間に合わない》
《ハーミット様の火力ヤバすぎ》
《タマちゃんもすごい!! え、何があったらこんなに強くなれるの!?》
《成長すごい!》
《同接逆転した》
《ペンギンからこっちの配信に来てよかった!!》
《こーちゃん、これより火力あんの? マジなの?》
《こーちゃん、ハーミット様が認める強さ!?》
《スパチャ贈りたいけど贈れない。なんで!?》
《試験中だから?》
《金払いたい!! 課金させてよぉぉぉ》
《また同接1000近く増えたぞ》
《ペンギンから来ました》
「お……」
ゴーストナイツの鎧が消えると、大判のコインのようなものが5枚落ちていた。
《ダンジョンプラチナだ》
《高級素材》
《いいな、ほしい》
《魔素伝導性がめちゃ高い》
「こーちゃん、それ……」
「ああ。後で使おうと思ってな」
たぶん、プライベートダンジョン神社のお賽銭にピッタリなんじゃないか。
「さあ、いくか。20階層までもう少しだ」
「……待って」
そのとき、しーちゃんがダンジョンの壁ぎわにしゃがみ込んでいた。
「どうしたんだ? あれ……?」
よく見ると、小さなガラスのようなものがあった。
倒したゴーストナイツの鎧のように、黒い霧として消えていこうとしている。
しーちゃんは、ドローンを呼び寄せて、アップでその様子を映した。
しーちゃんは、みんなで悪戯をしたときのような笑顔を浮かべながら、人差し指で「ナイショ」の合図をした。
「あれれ〜? おかしいな〜。ゴーストナイツに透明の部分なんてあったっけ? とりあえず、ドローンで録画しとかなくちゃ」
「おい、しー。今は試験中ゆえ急ぐぞ」
ハーミット様もすごく悪い笑顔をしているので、しーちゃんの意図はわかっているようだが……。
「あ、ごめんね。夏目くん、急がなくちゃね。調査は後にして先に進もう」
「あ、ああ……」
《あれ何?》
《気になる》
《ゴーストナイツの剣の装飾じゃ?》
《あったっけ?》
《ハーミット様に見てほしかったよぉぉ》
《魔素化してたからダンジョン製なのは間違いない》
《封印水晶に似てるな……》
《知っているのか雷電!》
《そういえば聞いたことがある(大嘘)》
《モンスターを封じられるクリスタル。東迷大で教えてもらった》
《野生のエリートがいた》
《しーちゃん、封印水晶だと思います!》
《封印……。ゴーストナイツ……。渋谷……》
《あ!!》
《渋谷、ペンギンさんチームの活動地じゃん!》
《え、マジ?》
《意図的なイレギュラーってこと?》
《え、マジなら許せない!!!!》
《偶然だろ》
《証拠はないけど……》
《コメントで議論やめて》
《特定班いるかな》
《そういえば、3年前の動画で似たような風景みた記憶ある》
しーちゃんが、配信では聞こえない声でささやく。
「Aランクパーティにマスコミや企業の味方がいるならさ、わたしたちだけじゃ勝てないよ」
「――我らの仲間はこの国の全土にいる。夏目、たま。ぬしらが太田で戦ったおかげだ」
……しーちゃんがガラス片を映してから、一気にコメントが活性化していた。