第51話 ふしぎなアメ玉②
――翌日。
俺たち、チーム《秘密基地》の4人は、プライベートダンジョンに集合していた。
「こーちゃん、アメまだ舐めてないんだよね?」
「ああ、まだ残ってるぞ」
結局、昨日みつけたアメは、舐めないでとっておいた。
ラムネの例もあるので、せっかくだから、みんなで一緒に楽しもうということになったのだ。
「アタシの分、売れるかな……」
「まなみん、売るつもりなの……」
「じゃあ、さっそく『家』にいくか」
「おー!」
俺たちは、「家」の「客間」へと向かった。
☆★☆
「客間」の座卓には、変わらず竹かごがあり、その中には4つのアメ玉が入っていた。
「ねぇ、パパ……。アタシ、毒が入ってないか怖い……」
「はいはい、毒味しろってんだろ」
まなみんに言われるがまま、【毒吸収】スキル持ちの俺は、アメ玉を手にとった。
透明なフィルムが両端でひねってあり、ビー玉のような球体をつつんでいる。
フィルムを両手でひっぱると、くるんっと球体が回転した。
「俺のは赤色だな……」
アメ玉は、4つとも異なる色のマーブル模様が入っている。
色は、赤、水色、黄色、緑だった。
「あたし、黄色にする! レモン味ならいいな!」
おタマちゃんは竹かごからアメをとった。
「おい、たまたま。勝手にとるなよ」
「え、まなみん、黄色がよかったの? じゃんけんする?」
「いや、色で効果が違うかもしれないだろ。一番高く売れるやつをアタシに……」
「そんなのわかるわけないじゃん。あたしは今日食べちゃうもんね。ぜったい美味しいんだから。選ぶのは次からにしたら?」
「ぐぬぬ……」
おお、めずらしく、まなみんがおタマちゃんに言い負かされている。
と思ったら。
「しーちゃん……。たまたまがイジワルしてきた……。なでなでして……」
「え、え? ほ、ほら、まなみん。わたしのぶんなら好きに交換してあげるから……。ね?」
「う、うん……。たまたま、ひどかったの……」
「ちょ、ちょっと! ひとを悪者にしないでよ!」
「はは……」
騒がしいやつらだ。
「じゃあ、さっそく舐めてみるぞ」
「ごめんね……夏目くん」
「ま、俺なら【毒吸収】もあるし大丈夫だろ。それにマイナス効果のあるアイテムとは思えないしな」
「またエリクサーだったらいいね! そしたら、どうしようかな?」
「ま、そのとき考えようぜ。いくぞ」
俺はフィルムからアメ玉を取り出し、口に含んだ。
コロコロと舌のうえで転がす。
「夏目くん……、どう?」
「これは……」
予想どおり……。
「すごく美味しい。いちご味だ」
「え、いいなー!」
アメの透明な部分は、淡い甘さ。
アメの赤い部分は、本物の果実のような瑞々しい甘さと酸味がある。
「毒はない。それどころか、力が溢れてくる感じがある。ただ、この前のラムネとは違うな。もっと、こう、じんわりと体に染み込むというか……」
「もしかして……! 夏目くん、ステータスを見せて!」
「え? ああ……ステータスオープン」
俺はステータスを表示させる。
名前:夏目光一
レベル:36
経験値:0/3997
HP:330
MP:146
攻撃:159(うちボーナス+28)
防御:136( 〃 +14)
速さ:238( 〃 +27)
賢さ:98( 〃 +2)
スキル:【童心】、【アイテムドロップ強化】、【水耐性(小)】、【睡眠技無効】、【水上歩行】、【斬撃強化(小+)】、【蝶の舞】、【警戒】、【毒吸収】、【友愛の絆】、【空中剣技】、【神速】
特技:魔生物図鑑、集団襲撃+、魔生物捕獲ネット(Lv1)、虫相撲(クワガタ)、応援、ワームホール、糸(Lv1)
「レベルアップシードだ……!」
「え……?」
言われてみると、レベルがひとつ上がっている。
昨日の時点では、レベル35に上がったばかりで、まだまだ経験値が必要だった。
「え、こーちゃん、こんなにレベルが上がってるの?」
「もうアタシは早期リタイアできるな……」
「早期リタイアどころか、まだ始まってないだろ……」
まなみんにも一般探索者免許をとってもらわないと困る。
「けけ、冗談だよ」
「……本当か?」
たぶん本気だったのではないか。
……まあいい、それより……。
「レベルアップシードって……?」
「あ、それはね……」
しーちゃんによると、ダンジョンでは、不思議な力を持つ木の実がごくまれに手に入るという。
それを食べるとレベルが上がったり、ステータスが上がったり……。
今回のアメも、シード系のアイテムと同じ効果があるのではないかということだ。
「あたしもレベルアップしたーい! アメ、舐めちゃうね」
おタマちゃんは、黄色い模様がはいったアメを口に放りこんだ。
「あ……」
「あ……」
「なに? しーちゃん、まなみん?」
おタマちゃんがアメを口に入れた瞬間、ふたりが同時に声を出していた。
「う、ううん、なんでもな……」
「てめー、たまたま、今のレベルと、レベルアップまでの経験値は把握してるのか?」
「え? 今のレベルは29で、レベルアップまでの経験値は覚えてないかな。あ、これ、レモン味だ! おーいしーっ!」
「このアホっ! あと経験値1でレベルアップするところだったらどうするんだ? アメがもったいねーじゃねーか」
「えー? あたしもレベル上がったばっかりだから、たぶん大丈夫だよ。なんかね、最近レベルが上がるのが早いんだよね」
それは【友愛の絆】の効果で、経験値を取得できているからだろうな。
「あー、おいしかった。さ、ステータスみてみよ!」
そう言って、おタマちゃんはステータスを開いた。
名前:思川環
レベル:29
経験値:539/2349
レベル:29
HP:227
MP:107
攻撃:150
防御:100
速さ:123
賢さ:58
スキル:【刀術】、【身体強化】、【愛嬌】、【水使い】、【レンタル】
「レベルは上がってないようだな……」
「な、なんでー!?」
てか、おタマちゃんのステータスを初めて見たな。
【水使い】を習得する前は、本当に、力押し一辺倒のタイプだったんだな……。
「ええーっ! おいしかったし、力がみなぎる感じもしたのにー!」
おタマちゃんのアメだけ効果がないとは考えにくい。
おそらく別の効果があるんだろうが……。
すると、しーちゃんは。
「た、たまちゃん! スキルの方!」
「え? スキル? いつもどおりだけど……」
「【身体強化】を見て!」
「前からあったスキルだよ……、あ」
すると、おタマちゃんは空いた口を片手で押さえて。
「(小)がとれてる……!」
「マジか……」
「やったぁーっ!! うれしーっ!!」
おタマちゃんによると、【身体強化(小)】が【身体強化】になったらしい。
【身体強化】は攻守に使える万能スキルである。
それが進化したということは、おタマちゃんにとってはレベルアップよりも恩恵があるだろう。
「スキルアップシードなんて存在するんだ……」
「おい、たまたま。やっぱりアタシも黄色がよかった。くれ。ベロチューしてでも分けてもらうぞ」
「や、やだよ! それにもうないよ! 食べちゃったから!」
「とりあえずベロチューだ。話はそれからだ」
「もうアメの効果が出ちゃってるから、ムダだってば!」
おタマちゃんは、ササッと俺の後ろに隠れた。
【身体強化】のせいか、やたらと動きが機敏である。
「ま、まなみん……、ほら、わたしたちの分もあるから。ね?」
「手遅れか……。ぐぬぬ……」
「まなみん、水色と緑、どっちにする? わたしはどっちでもいいよ」
「効果は運まかせ、か……」
そして、まなみんは緑、しーちゃんは水色のアメを選んだ。
ふたりともステータスを確認してから、アメを取り出す。
「あれ? まなみんは売るんじゃなかったのか?」
「たまたまを見てたら気が変わった。アタシも食べるぞ」
「うんっ、一緒に食べよ。いただきます」
「頼むぞ……、そらっ」
ふたりは同時にアメを口に含んだ。
「わたしの方はハッカ味だ。おいしい……。頭がすーっ、ってする」
「アタシはメロン味だ……。うまい……。効果も頼むぞ……」
しばらくして。
「舐め終わったから、ステータスを見てみるね」
「頼む……、たまたまにだけいい思いをさせたくない……」
「まったく、もう。まなみんは……」
「ステータス・オープン!」
まなみんとしーちゃんは、ステータスをじっと眺めた。
「あ……。わたし、賢さが4も上がってる……。インテリアップシードだ」
「ああ……、HPが5上がってる……。バイタルアップシードじゃねーか……。あぁ……」
「けっこう効果が高いな……」
永続効果だとすると、レベルアップシードより有用な気もするぞ……。
まあ、俺にとっては、虫の初回捕獲ボーナスがシードみたいなものなのかもしれないが。
「すごいよ、まなみん。普通のシードアイテムでは、ここまで能力値は上がらないよ」
「最大でも3、ってのは知ってる……。でも、たまたまを見てからだと……」
「えへへ……、今回のラッキー賞だね」
「やっぱりベロチューしかない……。たまたま! じっとしてろ!」
「や、やだよ! ちょっと!!」
おタマちゃんは玄関の方へ逃げていった。
やはり速度が速い。
まなみんは諦めたのか、その場に座り込む。
「お、おい、まなみん……」
「くそ……。しゃあない……」
まなみんはのそりと立ち上がり。
「家探ししてくる。まんじゅうでもせんべいでも何かないか調べてくる」
「寝室」へと続く襖を開けた。
「……まったく、まなみんはしょうがないな」
「たまちゃんのシード、たぶん世界初くらいのレアアイテムだったから。悔しくなっちゃうのもしょうがないのかもね。あの時じゃんけんしてれば、って気持ちもあるだろうしね」
「寝室」の襖の奥からは、ガラガラ、とか、ピシャンッ!といった音が聞こえる。
「今度、黄色いアメがあったらじゃんけんだな」
――しばらくして。
「……何も見つからなかった」
まなみんがガッカリした顔で帰ってきた。
「残念だったね、まなみん」
「今度アメ見つけたときも、みんながそろうまでとっておくからな」
「うう……。しゃあねぇ……」
まなみんは暗い顔のまま言う。
「……気分転換したい。ふたりとも、アタシの変身を見てくれ。プリティアのほかに、とっておきのヤツを試してみたい」