第40話 第2回プライベートダンジョン内調査①
太田ダンジョンに関するヒアリング調査の翌日……。
俺たち、秘密基地メンバー4人は、再びプライベートダンジョン前に集合していた。
「うう……。昨日、あんなにセンチメンタルな雰囲気で帰ったのに恥ずかしい……」
しーちゃんは、気まずそうにもじもじしている。
「え、いーじゃん。あたし、しーちゃんとまた会えてうれしい!」
おタマちゃんは楽しそうだ。
「ア、アタシも……うれしいぜ……」
まなみんも喜んでいるようだ。
てか、まなみんは、俺とおタマちゃんのふたりとしーちゃんで扱いが違うな……。昔からあんな感じだったっけか?
……まあ、いいか。
「さて、今日はみんなでプライベートダンジョン内の探検だな」
――こんなふうに4人で集まれたのは、いくつかの偶然が重なったことによる。
ひとつ――。
昨日、4人でプライベートダンジョンに入ったタイミングで、ダンジョンが拡張され、日本家屋エリアが出現したこと。
ひとつ――。
プライベートダンジョン内の変化について、ヒアリング調査とあわせて栃木県探索者協会に報告したところ、すぐにおタマちゃんに現地調査の指示が出たこと。
ひとつ――。
しーちゃんがプライベートダンジョンの現状について国の上司に報告したところ、
「その秘密基地は君のために拡張した可能性もあるんだろ? せっかくだから、君も協会の調査に同行したら? 君にメリットがある可能性もあるし、夏目くんの調査という意味もあるし」
と言われたこと。
そして最後に――。
呼ばれてもいないまなみんが、ふらりと現れたためである。
「しーちゃんは2日連続で大変だな」
比較的東京に近い栃木県南とはいえ、90km程度は距離がある。
片道だけでも運転はたいへんだろう。
「明日も平日だし、今日も帰らなくちゃいけないのか?」
しーちゃんは、少しだけ微笑んで。
「うん。帰らなくちゃいけないんだけど、今日は直帰で大丈夫なんだ。だから、少しだけゆっくりできるよ」
「え、じゃあ、みんなで夜ごはん行こうよ! つもる話もあるでしょ!」
しーちゃんに飛びつこうとするおタマちゃんを、まなみんが引きはがした。
「ったく、たまたまは配慮が足りねーな。少しだけって言ってるだろ。明日も仕事なんだから、早めに帰してやれよ。お前、本当に働いたことあるんだよな?」
「ま、まなみんには言われたくないんだけど!」
「ふふ……」
しーちゃんは楽しそうに笑い。
「ごめんね、たまちゃん。今度またお休みの日に来るから」
「うん、楽しみにしてるね! わーい!」
おタマちゃんはしーちゃんに抱きついた。
うん、相変わらずみんな仲いいな。
俺も楽しいし、何より落ち着く。
「さ、そろそろ行くか。おタマちゃん、頼むぞ」
「うん! じゃあ、これから5号ダンジョンの現地調査を始めます!」
栃木県探索者協会・おタマちゃんの宣言とともに、プライベートダンジョンのドアが開けられた。
ミーンミンミンミンミン……。
ドアを開けると、田園風景と青空が広がっている。
「何度見てもすごいね……」
しーちゃんはあちこちをきょろきょろと見回している。
「地域特性反映階層……ご当地フロアの一種と見るべきなんだろうな」
まなみんは探索者協会の山田さんと同じようなことを言っている。
おタマちゃんは、まなみんを見て。
「てかさ、まなみんは来ない方がいいんだってば。【緑】免許があるって言ったってさ、もしもモンスターが出てきたらどうするの? 危険だよ」
「たまたま……アタシだけ仲間はずれにするのか? 最低だな」
「そ、そういうのじゃないから! 危険があるかもしれないって言ってるの!」
「大丈夫だろ。ここは1階層だし、何よりドラゴンを倒したこーちんがいるんだからな。それに、法律上、アタシの行動を制限はできないはずだぜ」
「でも……」
俺はおタマちゃんの肩に手を置く。
「せっかくだし、みんなで行けないか? あの家はまなみんとしーちゃんのために出現したものかもしれないし」
ふたり用の「何か」があるかもしれない。
「うーん、まあ、モンスターはたぶん出ないと思うけど……」
「ただし、まなみんは最後尾で、勝手に前に出ちゃいけないってところでどうだ?」
「むー、それなら大丈夫だと思うけど……。こーちゃんは甘いよ……」
「ふふ、たまちゃん。わたしも何かあったら戦うから。ね?」
「うーん、しーちゃんがそう言うなら……」
「ま、それくらいはガマンしてやるか」
よし、決まったな。
「じゃあ、あらためて行くぞ。目標はあの木造の家屋。現状を調査する!」
「おー!」
みんな片手をあげて応えてくれた。
ノリがいいな。
まなみんもやってくれたのは意外だった。
しーちゃんの手前、ノリを合わせてくれたのかもしれないな。
そんなことを考えていると、
ピコーン!
頭の中に声が響いた。
『実績――《ダンジョン内で、スキル【童心】所持者が、4人以上のパーティの共通目標を提案し、採択される》を達成。スキル【友愛の絆】を取得しました』
「あ……」
「ど、どうしたの? こーちゃん……」
「スキルが増えた……」
「え?」
「え!? 夏目くん! ほんと!?」
「――ああ」
俺はステータスを開き、覚えたばかりのスキルを確認する。
名前:夏目光一
レベル:32
経験値:1155/3169
HP:301
MP:129
攻撃:138(うちボーナス+23)
防御:114( 〃 +13)
速さ:189( 〃 +17)
賢さ:86( 〃 +2)
スキル:【童心】、【アイテムドロップ強化】、【水耐性(小)】、【睡眠技無効】、【水上歩行】、【斬撃強化(小)】、【蝶の舞】、【警戒】、【毒吸収】、【友愛の絆】
特技:魔生物図鑑、集団襲撃、魔生物捕獲ネット(Lv1)、虫相撲(クワガタ)、応援、ワームホール、糸(Lv1)
「うお、こーちん……。いや、パパ、こんな強えーのか……」
「パパじゃないっつの。てか、言い直すな」
てか、スキルが増えたのはいいが……。
「この【友愛の絆】っていうスキルが増えたんだが、誰か、使い方を知らないか?」
以前覚えた【ドロップアイテム強化】のように、名前だけでは詳細がわからないスキルである。
効果を推測するのも難しそうだ。
「ごめん、あたし、聞いたことない」
「わたしもです」
「アタシも知ってる方だとは思うんだけどな。これは……」
「……そうか」
マイナス効果はなさそうだし、とりあえずは様子見だろう。
「夏目くん、なんで急にスキルを覚えたの?」
「いや、急にと言うか……。【童心】スキル所持者が、4人以上のパーティの共通目標を立てたとかで実績を達成したらしい」
「実績……」
「なるほどねぇ……」
しーちゃんとまなみんは何か思うところがあるらしい。
「何か気づいたのか?」
「まあ。なんとなくの推測だけど……」
「たまたまが【レンタル】を覚えたのと同種のトリガーってことだろ?」
「え? え? あたし何もしてないよ?」
「たまたまはとりあえず聞いてろ。しーちゃんから頼む」
「あ……、うん」
しーちゃんは「当たっているかわからないけど……」と前置きを入れてから言った。
「たぶん、夏目くんが覚えたのは、パーティメンバーの支援スキル。取得条件を踏まえると、いま一緒にいるわたしたちを助けるためのスキルじゃないかな?」
「ああ。具体的なことはわからないが、今回に限らず『みんなで目標を達成するために役に立つスキル』なんだろうよ」
「そうか……」
具体的な効果はわからないけど、なんかうれしいな。
「こーちゃん、じゃあ、さっそく行ってみる?」
おタマちゃんは俺の横で微笑みかける。
「――ああ」
俺はプライベートダンジョンの拡張されたエリアを見た。
「あたらめて行こう。新エリアの探索だ」