第26話 【配信】太田ダンジョン現地調査
『群馬県探索者協会の城沼だ。これから、3月10日に異常事態が起きた太田ダンジョンの現地調査を行う』
「お、始まったな」
自室のパソコンで、俺は太田ダンジョン調査の配信動画を見ていた。
画面の中では、試験官をしていた城沼さんが、ダンジョン1階層・出入り口の階段前で話しているところだった。
「知ってる場所が画面に映るとうれしくなるな
……」
一昨日の夜、おタマちゃんからLINKメッセージが送られてきた。
たまき:あさっての9時から、2県の探索者協会合同で太田ダンジョンの本格的調査をすることになったの
たまき:ここ数日、群馬県の協会で低層の調査をしてたんだけど、ゴブリンの凶暴化も治まってきているみたい
たまき:今回の調査でダンジョンが安定していることが確認できれば、太田ダンジョンにまた入れるようになるの
たまき:そしたら、一緒に太田ダンジョン行こうね。しばらくは低階層で様子見になるけど
たまき:先輩のあたしがエスコートしてあげますよ
(キリッ!とスーツを着たクマのスタンプ)
せっかくなので、俺も配信動画を見ることにした。
これから挑戦するダンジョンの予習という意味もあるし、何よりおタマちゃんや山田さんの活躍ぶりを実際に見てみたかったからだ。
昨日の夕方、簡易書留で一般探索者免許(黄色の帯、Cランク)を受け取ったこともあり、ダンジョン探索の配信動画は、もはや俺にとっても他人事ではなくなっている。
『群馬県探索者協会の多々良ですわ。支援魔法を担当いたします。本日はよろしくお願いしますね』
《多々良さん!》
《いつも魔石の買い取りありがとう!》
《処理早くて助かっています》
《また「ずいぶんと小さい魔石ですわね」って蔑んでほしい》
今回の配信は、ダンジョンの現状説明会も兼ねているので、誰でも視聴可能となっている。
今の視聴者数は300人程度、コメントの傾向を見るかぎり近隣の探索者が多そうだ。
『栃木県探索者協会の山田です。今日は群馬県探索者協会と合同で調査に入らせていただきます。探索者の皆様につきましては、ダンジョンへの立入制限にご協力いただきまして、この場を借りて御礼申し上げます』
《山田さんーッ! 俺だー! 結婚してくれー!》
《お久しぶりです。調査お疲れさまです》
《お気をつけて》
《山田さんーッ! 俺だー! 結婚してくれー!》
《山田さんーッ! 俺だー! 結婚してくれー!》
《既婚者定期》
『栃木県探索者協会の思川です。今日はよろしくお願いします』
《タマちゃん! ドンマイ!》
《気にするな!》
《そのうちきっといいことあるよ!》
《今日はマジで気をつけろ》
《【¥1,000】タマちゃんに回復薬あげてほしい》
『な、なんでー!? あたしまだ何もしてないよ!』
『スーパーチャットありがとうございますね。思川さん、皆様に心配かけないように頑張ってください』
『うう〜、わかりました……』
『……と、この4人で探索する。今日は10階層のボスまで討伐する予定なので、ご理解いただきたい』
《城沼さんがいれば大丈夫かな》
《回復のできるゴリラ》
《単独討伐も可能なんじゃ?》
そう言って、4人はダンジョンの奥に進んでいく。
ドローンが撮影しているのだろう、後ろから全員の姿が映っている。
城沼さんが先頭、おタマちゃんは前から2番目を歩いている。
「おタマちゃん、かっこいいな」
おタマちゃんは刀を下げていた。
きちんと装飾も入っており、かなり高そうだ。
山田さんは大きな杖、城沼さんはハンマー、多々良さんはコンパクトな杖を持っている。
いかにもと言った探索者パーティである。
『城沼さん、次の部屋2時方向に敵影。おそらくゴブリンです』
『了解。思川の嬢ちゃん、やってくれるか?』
『まかせてください!』
《なんで見えてないのに敵の場所がわかったんだ?》
《山田さんは【気配探知】スキル持ち》
《一家に一台ほしい》
《タマちゃんがんばれ》
《本当にゴブリンいた》
《走ってきたぞ》
《少し興奮してる?》
『――秘剣・春雨ブレードっ!!』
スパッ!!
《おお!》
《キレイに両断したな》
《オーバーキル》
《つよい》
《ゴーレムくらいまで斬れそう》
『思川の嬢ちゃん、やるじゃねーか』
『へへ、【水使い】スキルと【刀術】の組み合わせです。山田さんに聞いた伝説の刀みたいな切れ味でしょう?』
《伝説の刀?》
《山田さん、頭を振ってるぞ》
《なんか違そう》
《春雨?》
《おそらく村雨の間違い。水が出る刀だし、八犬伝で足利氏由来の刀だとされてるから、栃木県南地区とゆかりが深い。さらに正確に言えばフィクションが原典だから伝説ではない》
《考察ニキ、サンクス》
《タマちゃん! ドンマイ!》
――こうして、4人は太田ダンジョンを進んでいった。
『うおおおおお!!』
ドカン!!
《あのスピードのリザードマンにハンマー当てられるんだ》
《さすが城沼さん》
『思川さん、そこの足元、気をつけてくださいね』
『足元って、ここですか?』
カチッ!!
シュッ、キン!!
『……弓矢の罠です。しゃがんでなければ当たってましたね』
《なんでわかったんだ?》
《山田さんは【空間把握】スキル持ち。ちょっとした出っぱりくらいならすぐ見つけられる》
《一家に一台ほしい》
《結婚したかった》
《タマちゃん! 切り替えていけ!》
『――パラライズ』
ビリビリ!
スパッ!
『サポートありがと、楓ちゃん』
『環さん、取らないでくださる! これは城沼さんのために……』
『合同なんだから仲良くやれ、な!』
《多々良さん、小回りきくな》
《強化・弱体化と状態異常付与できる》
《タマちゃんとふたりで探索する回が見たい》
こうして、4人は9階層・ボスフロアの直前まで到達した。
時間は11時前。
各階層くまなく調査しているので、かなり時間をかけてきている。
『じゃあ、これから10階層のボスフロアにいく。太田ダンジョンのボスはジャイアントサーペント、簡単に言うと巨大ヘビだ』
《知ってます》
《知ってます》
『これからボスを討伐し、その後出現する帰還ゲートで外に出る。本日はそれで調査終了とする。今のところは特段異常もなかったと思うが……。山田さん、どうだ?』
『ええ、私も同意見です。ひととおり確認しましたが、ダンジョン内に異変は認められませんでした。もしかしたら、探索者試験時には魔素のよどみのようなものが一時的に発生していたのかもしれません』
《知ってた》
《知ってた》
《よどみ……感じてた》
《うそつけw》
『いずれにせよ、ボスがいつもどおりなら、太田ダンジョンは異変なしと断定していいだろう。さ、いくか』
『了解ですわ』
『了解です!』
4人が階段を降りると、そこは大部屋になっており、中央には全長10〜20メートルはある黒いヘビがいた。
『キシャアアアアアアアア!!』
《初手毒霧!?》
《このパターン初めて見た》
《避けられないだろ!?》
『ブレスカウンター!!』
《山田さん!?》
《毒霧をはね返した!》
《何あれ!?》
《山田さんは【風魔法】が使えるからブレスなら吹き飛ばせる》
《便利すぎだろ》
『オフェンスアップ!!』
『ぬぅぅぅ、フルパワースタンプ!!』
ガコォォォォォン!!
《頭!!》
《直撃だな》
《頭ふらついてるぞ》
『秘剣・むささめブレードっ!!』
《なんか違うw》
《けっこう深く斬れてるぞ》
《片側のピット器官つぶしたな》
《タマちゃん、ナイス!》
『思川さん、すばらしい一撃でしたね。この調子でお願いします』
『はい! 任せてください!』
《ほめられた!》
《めずらしい!》
《たしかに良かった》
《ナイスだな》
……そうして。
危なげなく4人はボスを討伐した。
黒いヘビは少しずつ紫色の霧になり、消えていく。
『やったーっ!』
《おつ!》
《おつ!》
《おめ!》
《トドメもむささめか》
《タマちゃん回》
《みなさんお疲れさまでした。参考になりました》
『よし……。ダンジョンをクリアしたことがあるやつならわかると思うが、最終フロアのボスを倒すと、ダンジョン入り口に転移できるゲートが出現する。その動作確認ができたら、太田ダンジョンの立入禁止を解除する』
《待ってました!》
《助かります》
《三県境ダンジョンは難しすぎるから行けなかった。やっぱり太田ぐらいがいい》
《あそこはカオス過ぎるからな。栃木方面と群馬方面のゴブリンで戦争してるんだろ。埼玉が高みの見物》
《今回のドロップアイテムは何だろう?》
《装備品が出るといいよな》
《てか、帰還ゲートなかなか出ないな》
『あ、ヘビの中から魔石が出てきた。ちょっと取ってきますね』
『思川さん、ありがとうございます。よろしくおねが……あっ! 思川さん、止まってください!!』
『え……? きゃっ!!』
《落とし穴トラップ!?》
《落とし穴だ》
《オレもよくひっかかるw 最近は階段を降りる手間がはぶけたと前向きに考えるようにしてるw》
《穴っていうより、通りぬけフラフープに近いよな》
《タマちゃん、ドンマイw》
《作動後は穴がなくなっちゃうから階段から追いかけるしかない》
《早く助けに行ってあげて!》
《ちょっと待て……。下の階あるのか?》
《ボス部屋に階段ないぞ》
《は?》
《そもそも太田ダンジョンは10階層まで》
《タマちゃん、どこへ落ちたんだ???》