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第12話 古巣からの連絡、そしてクロスカウンター①

 翌日、俺は探索者協会の窓口へ2日分の魔石を換金しに来ていた。


 魔石をバッグから取り出して窓口の山田さんに渡すと、代わりに探索者カードと口座を紐付(ひもづ)けるようにと案内の紙を渡された。


「やっぱりその方が便利ですよね」


「便利というか……、そうですね、後で説明しますね」


 そう言って、山田さんはカウンターの奥にある(はかり)のような機械に、俺が持ち込んだ魔石を流し込んだ。


 ただ、黄金オオコガネとイワカゲウオ×3(魚は全部昨日おタマちゃんと獲ったものだ)の魔石だけは、クッションを()いたトレーのようなものに乗せて、事務スペースの奥へ持っていった。


「ん……?」


 別に機械があるのだろうか?


 とりあえず俺は、スマホで探索者情報と銀行口座の連携を済ませた。


 しばらくして、探索者協会の山田さんはA4サイズの紙を持ってきた。


「まずはこちらをご覧ください」


概算見積書(がいさんみつもりしょ)……69万8千円!?」


 そこには、見たことがない金額が書いてあった。


 前職の月給(残業代込み)の4か月分くらいはあるぞ。


「これは……?」


「今回お持ち込みいただいた魔石の買取価格です。ただし、確定ではありません」


「と、いいますと……」


「一定以上の大きさの魔石については、探索者協会で広くオークションにかけまして、買取価格を決定しています。夏目さんがお持ちくださった魔石は完全な球体に近く、使い勝手もよいので、この見積もりより高値で買い取れるかもしれませんね」


「マジか……」


 わずか2日の成果なのに。


 上司に怒られて、客先で頭を下げていた日々は何だったんだ……。


「ちなみに小さい魔石――探索者業界では“玉ジャリ”と呼んでいますが、こちらは含有(がんゆう)魔素量を測って機械的に金額を計算しています。今回お持ちいただいた分では、3万5千円相当になりますね」


「おお……」


 レア抜きでもそれなりの金額だ。


「先日よりもひとつひとつの魔石の質が上がっているようです。こちら、前に40円で買い取った魔石と同じくらいの大きさですが、今回は鑑定額が43円になっています。ダンジョン内に何か変化はありましたか?」


「いや……、ひまわりの花が咲いたとか、川の水位が変わったとか……。あ、そういえば……」


 俺は黄金オオコガネを捕まえて【アイテムドロップ強化】スキルを得たことを伝えた。


 山田さんは少し考えてから言った。


寡聞(かぶん)にして、そのようなスキルの存在は知らなかったのですが、もしかしたら、そのスキルのおかげで魔素量をあまり減らさずに魔石化ができているのかもしれないですね……」


「へぇ……」


 わかったような、わからないような説明だけど、とりあえずためになった。


 山田さんのように、一般のダンジョン探索経験があるからこそ、あのプライベートダンジョンについてわかることもあるのかもしれない。


「……まあ、そんなわけで、今回の代金のお振込みまでは少々お待ちください。オークション後、手続きをします。それに、この窓口もあまり現金の持ち合わせがありませんので、ご協力くださいね」


 そう言うと、山田さんは一礼した。


「わかりました。ところで今日、思川(おもいがわ)さんはいますか?」


「思川さんは今日は調査に出ています。なにか御用でしたか?」


「ええ、実は今日持ち込んだ大きめの魔石のいくつかは彼女の手助けがあってとれたものですから。高く売れたときには、メシでもおごってやろうかと思いまして」


「そうですか、ふふ」


 山田さんは楽しそうに笑い、


「それは思川さんも喜びますね。そうなると私も責任重大ですね。相場よりも高く売れるようにがんばらないと、思川さんにうらまれちゃうかもしれませんから」


「……? いや、別にそこまででは……?」


 まあ、任せてくださいと言いながら、山田さんは俺に改めて概算見積書を手渡した。



 ☆★☆



「69万8千円かぁ……」


 自宅に戻り、俺は協会でもらった紙をニヤニヤしながら(なが)めていた。


 幾分(いくぶん)かは、生活費として家に入れなくちゃいけないだろうけど、それでも自由に使えるお金が手元に残る。


 何を買おうかなぁ……。


 少し怖いけど、普通の探索者としても一度活動してみたいから、装備でもそろえてみるかなぁ……。


 そのように、夢見心地にひたっていると。


 ピコン!


 スマホの通知音がした。


「おタマちゃんからのLINKかな?」


 期待して、画面のロックを外すと。


「げ……」



 IYADA:元気か?



 前職の同僚、井矢田からの連絡であった。


 プライベートで話すことはなかった間がらだ。


 意図が読めなかったので「既読」にならないようにスマホの操作を控えていると、続けてメッセージが届く。



 IYADA:春のイベントで使うパネルとかぬいぐるみとかどこにあるんだっけ?



「うわ……」


 退職者に聞くなよ。


 井矢田に限らず、前の会社のやつらは、自分の評価につながらない雑務を全然しなかった。


 押しつけられるようなかたちで俺が全部やらされていたのだ。


 てか、備品の場所とかは適宜(てきぎ)伝えてたんだけどな……。


 無回答でアカウントをブロックしてもいいんだが、探索者協会での概算見積書の件で俺は機嫌がよかった。


 仕方ないから、素直に答えてやる。



 光一:営業倉庫には入らなかったから、文房具とかがある方の倉庫に入れてある



 ったく、面倒なやつだ。


 しばらくして、再度井矢田からLINKが届いた。



 ピコン!


 IYADA:サンキュー



 ピコン!


(画像)



 無駄にぬいぐるみの写真まで送られてきた。


 てか、ぬいぐるみが写真の中央に写っていない。


 写真の中央に写っているのは、表彰状と「金一封」と書かれた熨斗(のし)袋である。


 面倒なので無視していると、井矢田から再度メッセージがきた。



 IYADA:悪い悪い、余計なものが写っちまったな


 IYADA:今年も営業成績がよかったんで、年度末の社長賞をもらえたんだよ


 IYADA:副賞3万円で何食べるか考えてるところ。高級焼き肉はそろそろ歳だからキツイかな笑


 IYADA:お前も早く自分が活躍できる職場を見つけろよ。お前でも必要とされるところがきっとあるからな笑



 うわ……。


 退職者に業務の質問をするだけでなく、マウントまでとってくるとは。


 下劣な人間である。


 そう言えば、社長賞の自慢は去年もされたな。


 そのときは「俺はこいつみたいな人間にはなりたくない」「でも、周りの評価と3万円はうらやましい」と複雑な感情をかかえ、ひとり涙を流した記憶がある。


「社会人ってなんだろうって考え込んじゃったんだよな……」


 でも、今回は。


 手元の概算見積書を見る。


 ――69万8千円。


「……最初に仕掛けてきたのは、あっちからだしな」


 品がないかもしれないが、俺は概算見積書をスマホで撮影した。


 そして、LINKのトーク画面から画像を井矢田に送ってみた。


「信じてもらえるかな……?」

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