愛した貴方にさよならを。
前作『貴方の心が欲しかった。』
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前作ヴァイオルド視点『貴女の心は在ったのに』
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――遠くに聞こえる船の汽笛。
あれから5年。
私は、ある港町に居を構えていた。
ヴァイオルド様は宰相だったので、隣に立つために様々な地理や歴史、知識を学んだ。
そんな中でも、私が知らない土地に行こうと思った。
――色々と、思い出してしまうから。
そして見つけたのがこの港町だった。
初めは貴族然とした私の立ち居振る舞いや、感覚を目の当たりにして少し距離を置かれていたが、いつからか親切にしてくれる人が増えた。
大切な物が、
人が、
思い出が、
増えていった。
それに伴い、だんだんとヴァイオルド様の事を思い出す頻度も減っていった。
一人で住んでいる私は自力でお金を稼がないといけない。
貴族として30年余り過ごしてきた。料理や給仕等は上手くはできない。
人より出来る事といったら、せいぜい裁縫くらいだ。
どうしようかと悩んでいたが、運良くお針子の仕事があった為、何とかそれで生活することができていた。
お針子とはいえ、お店は小さかった為、商品は自分で作り、売る事もあった。
言うのは簡単だが忙しく、なかなか休む暇も無かった。
だが、そんな忙しさが当時の私にはとてもありがたかった。
そうして自分の作品が売れた時、嬉しかった。
貴族の時の仕事にやりがいを感じていなかった訳では無いが、今の仕事の方が私は好きだった。
働き始めて三年程経った頃からだろうか。
ある男性が通い始めるようになった。
年の頃は40代程。
聞けば漁師の仕事をしているという。
どうしてこのようなお店に来たのかというと、娘さんへの贈り物ということだった。
頬を掻き、すこし恥ずかしそうに『娘に贈り物がしたいんだが……店員さん、選んじゃくれねぇか…?』と、聞かれた事を覚えている。
その後、私が選んだものが娘さんに大層喜ばれたらしく、それからその男性、フィスカーさんはしばしば足を運んでくれるようになった。
そしてフィスカーさんと少しずつ話すようになっていた。
このようなお店に来るのは基本的には女性、フィスカーさんのような方であれば奥様が来られるのかなと思っていたが、どうやらフィスカーさんの奥様はご病気で亡くなられたらしい。
その為、男手一つで娘、フィリアちゃんを育てているとのことだった。
フィリアちゃんを直接お店に連れて来店してくれたこともある。
フィリアちゃんは物静かな子ではあったが、作品をじっくり見たり、私を質問攻めにしたりと、満喫してくれたようだった。
最後に小さい声で『こんなお母さんいたらなぁ…』と呟いていたが、私は聞こえないふりをした。
フィスカーさんにも聞こえていたのか、その後、フィスカーさんは慌てたように帰っていった。
後日、フィスカーさんからその時のお礼と謝罪を兼ねて改まってご飯に誘われた。
フィスカーさんからの好意に気づいていないほど鈍感ではないし、これはそういうことなのだと思った。
だからこそ悩んだが、行くことにした。
五年も経っていて未練がましいかもしれないが、まだヴァイオルド様の事を完全に忘れたわけではなかったし、フィスカーさんの事を好きなのかどうかも分からなかった。
――そもそも人に毒を盛るような女だ。
全部話そう。
それでフィスカーさんが受け入れてくれなくたって、
悲しくなんか、
辛くなんか、
ない。
――そうして迎えた当日。
フィスカーさんはやけに緊張していて、隣にいるこちらが、はらはらする程だったが、そんな女性慣れしていないところにも少し好感を覚えた。
一緒にいる程にフィスカーさんの事を好意的に捉えてる自分がいることに気付いた。
だからこそ、全部話さなくてはいけなかった。
私の事。
ヴァイオルド様の事。
――私が犯した罪の事。
最初から最後までフィスカーさんは、真剣に聞いてくれた。
そして言う。
『――それでも俺はアンタといたい。』と。
噴水が虹を咲かせている中央広場。
フィスカーさんが私と向き合う。
『俺とアンタでは人として釣り合わないかもしれない。
アンタの瞳が俺の知らない誰かを映している時が、これから先あるのかもしれない。
だけど、それでもッ…!俺はアンタが好きだッ!大好きだッ!愛しているッ!!
アンタが過去を気にしないくらい、思い出せないくらいに、俺と、フィリアでッ!これから楽しい思い出だらけにしてやるッ!
――だから俺を選んでくれ。ルミナスッ…!』
懺悔と後悔の日々だった。
ヴァイオルド様の事は少しずつ思い出すことはなくなっていっても、罪の意識だけは、ずっと、ずうっと抱えていた。
だけど二人と、フィスカーさんといる時はそんな気持ちも和らいだ。
犯した過ちは消えない。
きっと一生苦しむのだろう。
一生償うのだろう。
でも、それでも。
こんな私でも、
前に進んでもいいのかなッ…!
「――こんな私でよければ、よろしくお願いしますッ…!!」
そう言って、フィスカーさんに抱きつこうとした時、
ふと、後ろから懐かしい声が聞こえた気がした。
だけどもう、もう、後ろは振り返らない。
過去も、
罪も、
何もかもを全部背負って
私は生きる。
フィスカーさんと、フィリアちゃんと、前に進む。
――ヴァイオルド様。
愛して、ました。
――さようなら。
『愛した貴女にさよならを。』
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ヴァイオルド視点。