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タイタンへの襲撃計画のために、署内は班を超えて大忙しだった。コハクも騒がしい中であちこち走り回っていたのだが、その途中でアイヒとキタカを見かけた。


「こんにちは。班長達との打ち合わせはうまくいきましたか」

「ひとまず襲撃のポイントになりそうなことは伝えたよ。悪党のことは悪党にってね。あとはお巡りさん達に頑張ってもらおうか」


アイヒはかつての経験を活かして、タイタンの打ってきそうな手をアドバイスしにきたのだ。


「コハク君も忙しそうだね。作戦に参加するんだろう?」

「はい。でも俺は少年の保護が最優先ですから」


抱えた資料をちらっと見ながら、コハクは心配そうに顔を曇らせた。


「ウタハくん、というそうです。両親を亡くした時は5歳だったらしくて。泣いて通りすがりの人に助けを求めたって書いてありました」

「でも、それから5年だろ。ソイツがどんな状態かわかんねぇけど、自分から糸の毒で人を殺すことを望んでるかもしれねぇぞ」

「それは、そうかもしれないですけど。でも糸の毒がなければ彼は両親と普通に暮らしてたかもしれないんです。親に甘えたり、友達と遊び回ったり。だからその全てを失った彼と話がしたい。それができるのは毒を無効化できる俺だけだから」

「だけど確実に無効化できるとわかってるわけじゃないんだろ?コハク君が危険だ」

「それでも、俺はやりたいんです。セキトさんに俺の強みは適応力だって言われました。だから今回も土壇場でなんとかしてみせますよ」


ムンッと片手でマッスルポーズをとるコハク。兄弟は納得したように顔を見合わせた。


「わかった。俺達は君が少年を救えるように応援しているよ。でも君がいなくなったら悲しむ人がいることを忘れてはいけない。俺達も。もちろんキトラ君も」

「あんたに助けてもらった礼はまだ返しきれてないからな。勝ち逃げすんなよ」


2人のらしい応援にコハクが元気をもらう。

そうして、タイタン襲撃の日が刻一刻と迫ってきた。




あるビルの周りを取り囲むように捜査官が配置されている。入口と裏口で突入部隊が指示を待ち、窓から逃げた者達すら逃さないように待機の人員が置かれている。


「地上3階部分は表向きのアジト。構成員はそこにいる。そして地下1階部分が毒の製造工場だ。おそらくエダと少年はそこにいる」


捜査官達が構成員を捕まえる間に、コハクは地下へ向かう算段になっている。入り口から突入する舞台の一番後方で待機していると、セキトがやってきた。


「やあ。コハク君。今回は大役だね」

「セキトさん」


いつもの飄々とした態度に少し緊張が和らぐ。だが、その隣にいた人物を見て驚きの声をあげた。


「カグラ⁉︎」

「こんにちは。今日は晴れて良かったね」


フードを被り誰かわからないようにしているが、チラリと見えるプラチナブロンドの髪と紫の瞳でコハクはカグラだと気づく。当人はまるで遠足にでも来たかのような呑気さで片手をあげていた。


「いや、え?なんで?」

「捜査協力だよ。当たり前じゃない」


至極当然なことのように答えるカグラだが、コハクは不安な表情になる。


「でも、カグラは解毒はできないって。そんな危険な状態で……捜査官じゃないのに……」


1人の人としてのカグラを心配する姿に、カグラがほんの少し嬉しそうに微笑んだ。


「僕がそうやすやすと殺されると思う?解毒についても大丈夫。考えがあるから。それに毒を作ってる男に少し用もあるしね」

「用?それって?」

「これ以上は内緒」


途端に話を打ち切ると、カグラはさっさと部隊の真ん中のほうへ歩いて行ってしまう。

セキトが「では、コハク君も頑張って」とその後を追いかけて行った。




全員が配置につき、コセのゴーで突入が始まった。今回は2班からも応援が来ているので、見知った顔を含めた捜査官達が一気にビルに雪崩れ込む。


「警察だ!違法薬物製造及び流通、多数の暴力行為の疑いで逮捕する!」


ビルの中にいた構成員達が次々と取り押さえられていく。部隊の先頭にいたキトラが切り開いていく道をコハクは必死に駆け抜けた。


『あそこが地下に続く階段だ!』


「コハク!」


目的の場所を見つけ一目散に目指すコハクに、キトラの声が届いた。


「キトラ?」


敵を糸で薙ぎ倒しながら、金色が力強い光を放つ。


「お前の役目を果たしてこい!」


放たれたのは、ずっとコハクの身を案じて心配していたものとは違う、信じて託してくれる言葉だった。


「ああ!」


輝く金色を纏って、コハクが暗く口を開く地下への階段を降りて行った。




階段を降りると10畳ほどの広い空間に出た。意外と明るいその空間に、男が立っている。


「騒がしいなぁ。何事だ?」

「……お前がエダか」


神経質そうな男、エダが怪訝な顔でコハクを見る。


「捜査官か?ちっ。警察の動向は見張っとけっつったのに」


吐き捨てるように言うと男はナイフを取り出した。


「しかし1人で来るとはバカなのか?」

「俺1人の方が都合がいいからな」


構えながらコハクはナイフを警戒する。


『毒が塗ってあるかもしれない。解毒ができるのか確信が持てない以上、できるだけここで毒をくらいたくはない』


やたらとナイフを警戒しているコハクに、エダが何かに気づいた顔をする。


「ああ。その腕の傷、お前腕付きか。なるほどね。死んじまうかもしれない危険な任務は腕付き任せってか。……俺はお前みたいに食い物にされて野垂れ死ぬ気はねぇよ」


エダがナイフを振り上げて襲いかかってくる。だが、コハクは後ろを見ると一目散に階段へ駆けて行った。


「危険な任務じゃありませんよ。俺がいる」


パァンと乾いた音が響く。瞬間エダの手からナイフが弾け飛んだ。


「シエンくん!ナイス!」

「遅くなってすみません。会議を抜け出すのに手間取って」


作戦へのシエンの参加は初めから決まっていたのだが、広報役として使いたい上の人間達が危険な任務への参加を阻んでいたのだ。


「シバさんとミソラさんが乗り込んできて会議を無茶苦茶にしてくれました。さすがセキトさんの幼馴染です」


久しぶりの現場で心なしかシエンは生き生きとしている。


「この銃、どうです?13班のみんなが更に改良を重ねてくれたんですよ」


宝物を見せるようにウキウキしているシエン。場にそぐわないほんわかとした空気は、エダの声でかき消された。


「クソッ!まだ捜査官がいたのかよ!」


ナイフを弾き飛ばした衝撃でエダが手から血を流している。それを見てコハクは困惑した。


「腕付き……?でも、資料にはそんなこと……」

「はっ!なんだ?俺のこと調べてたのか?でも腕付きとは知らなかったみたいだな。そこまでして腕付きの存在は消したいのかよ!」


激しい怒りの叫びにコハク達は気圧される。エダは胸元から小さな瓶を取り出した。


「毒はまだまだあるんだよ。俺には効かない毒だが、お前達にはどうかな⁉︎」

「じゃあ、君にも効くようにしてみようか」


聞き慣れた声の後、エダの頭の周りで光が弾けた。


「ッ!なんだ⁉︎」


奇妙な感覚がエダを襲う。慌てて瓶を落としかけるが、セキトが階段から降りてきて駆け寄り糸でキャッチした。


「危ない危ない。気化する系かわからないけど、毒の瓶を割るなんて危ないよ」


そのままセキトの糸がエダを拘束する。


「クソッ!こんなことしても無駄だ。ラボにある未生成の毒を流せば生き残るのは俺だけだからな」

「生き残るのは君じゃないよ」


階段からカグラが降りてくる。被っているフードを外して顔を見せた。


「君の記憶から、毒と解毒に関する記憶だけを抜き取った。なるほどね。コハク君と同じタイプか。適応力ってのは腕付きの専売特許なのかな」

「はっ?次から次へと何なんだよ!記憶を抜き取った⁉︎バカにしてんのか!」

「君は馬鹿じゃないよ。むしろとても優秀な人間さ。それを誰も認めてはくれなかったみたいだけどね。さて、コハク君。これで僕が解毒できるようになったから、ここは任せてくれていいよ」

「え?あ、はい」


あまりの展開に頭がついていかないが、カグラの次の言葉がコハクの背中を押した。


「ウタハ君は利用されてるだけだよ。ずっと閉じ込められて毒の原料にされてる。早く助けてあげなよ」


あのカグラが他人のことを心配して助けろと言った。その事実はコハクを少年の元へと走らせる。


「あっ!おい!」


コハクは一目散に奥へと続く扉を目指す。エダが止めようとするが、セキトに阻止された。


「まあまあ。君の相手は僕がしてあげるから。ずっと言いたかったことも聞いてあげるよ」


無表情で、カグラはエダに向けて手を広げた。

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