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セキトに自分の特性を適応力だと言われたコハクは、全く理解できないままポカンとしている。


「ふっふっふ。何のことやらという顔をしているね。コハク君。キトラを糸でストーキングできるようになったのは、どうやったんだい?」

「どうって。ストーキング自体気づいてなかったんで。キトラを守りたいとしか」

「エネルギーの変換を抑えたのは?」

「体質に苦しめられてるキトラを助けたいと思っていたら自然と」

「毒を解毒した時は?」

「キトラが急に動かなくなったから何事かと思って」

「そう!いつも君は強い想いを叶えるために無意識に糸を変化させてきたんだ!それこそが適応力!」


再びビシッと指さされるが、コハクはいまいちそれが凄い事だとは実感できない。


「ちなみに僕はこの毒の解毒はできないよ」

「そうなんですか!」

「僕ができるのは記録に残っているか自分で研究して解明したことだけ。君を研究しだして、だいぶできることの幅は広まったけどね。でも自分から新しい能力を生み出す力はない」

「はあ〜。そんなもんですか」


完全無欠と思われたカグラでもできないことが、自分にはできる。そう思うとコハクはなんとなくこの話に実感が湧いてきた。


「最近、奇妙な能力を使う人間が増えてきた気がするんだよね。進化のスイッチが押されたというか。僕でも対処できない能力者がでてくるかもしれない」

「そんな時に活躍するのがコハク君だ。未知の能力者がいても君の適応力があれば対処できる。これは凄い事だよ」


セキトは満面の笑みで褒めてくれる。きっと、嘘偽りなくコハクの能力は凄いものなのだろう。


「そうですか。ありがとうございます。なんか偏った能力ですけど」

「それでいいんだよ。言っただろう。捜査官はチームで動くんだから。1人が全てできなくていい。切った貼ったはキトラにでもさせとけばいいさ」

「と言うか、荒事に関しては僕がいるから問題ないよ。コハク君を守るためならどこでも行くし、対人における戦力として僕ほどのものはないよ」


カグラの提案にコハクとセキトの動きが一瞬止まる。そして目を合わせて大笑いした。


「そうですね!あんな恋人に何も話してくれないキトラなんかより、カグラのほうがよほど頼り甲斐があります」

「キトラは恋人として形無しだな!」


はあはあ息を切らしながらもまだ笑いのおさまらない2人に、「なんだか楽しそうだねぇ」とカグラは己の発言の何がおかしかったのかと首を傾げていた。



一通り話したいことは話せたので、コハクとセキトは帰ることになった。


「そういえば、カグラは糸の手についての研究も協力していたんですね」

「ん?うん。あれも今回の毒に少し似てるものがあったよ。糸が特殊な物質を作り出してる可能性がある。それはこれから解析していくことになるかな」

「……直接糸の手の持ち主に会って調べることはしなかったんですね」


それはコハクがずっと引っかかっていることだった。


「僕はここから出ない方がいいからね。金色の王の里にも興味はあったけど行く気はないよ。ずっとここにいて、たまに捜査に協力する時だけ外に出る。それが僕と世界とのバランスの取り方だと思うから」


寂しい、というわけでもなく淡々と自分の考えを述べるカグラ。それを見ているとなぜだかコハクのほうが寂しい気持ちになってきた。


「また来週来ますね」

「うん。君と話すのは研究抜きにしても楽しいから。待ってるよ」


ほんの少し。ほんの少しだけカグラが微笑んだ気がした。




カグラの部屋を後にしてセキトと2人で並んで歩く。コハクは聞きたかったことを思い出して、セキトに声をかけた。


「そういえば、シエンくんのことはどうなりましたか?」

「ああ。安心しなさい。この災害人間がしっかり活躍しておいたから」


ニヤリと頼もしく笑う姿に、コハクはふふっと笑みをこぼす。


「ありがとうございます。やっぱりセキトさんに頼んで良かった」

「シエン君も私の可愛い弟子みたいなもんだからね。しかし、君達は本当に似たものカップルだね」


その言葉にキトラが何かをセキトに頼んだのだと気づき、コハクはさらに聞き出そうとする。


「それって…」

「おっと。これ以上はキトラに怒られるな。でも今回の話し合いの結果があれば、そろそろいい気もするんだがね。その辺は当人同士で話し合いなさい」


それだけ言うと、逃げるようにセキトは去っていってしまった。中途半端な情報だけ与えられ、コハクは「えー」とその場で不満の声をあげていた。




その日もキトラは夜になっても帰らず、コハクはリビングで1人待ちぼうけしていた。するとインターフォンの音が聞こえたのでゆるゆると玄関へ向かう。


「はいはい。…あれ?シエンくん?」

「こんばんは。コハクさん。仕事でお菓子をたくさんもらったので、お裾分けを持ってきました」

「ありがとう。良かったら上がってく?あ、でもロクイさんが待ってるか」

「いえ。話したいこともあるのでお邪魔させてください」


1人で寂しく過ごしていたので、シエンの訪問にコハクは喜んで家に招き入れた。


「それで、話したいことって何かな?」


お茶だけ用意してテーブルについたコハクは、さっそくシエンに要件を尋ねてみる。


「はい。コハクさんに話をしたあと、とても仕事がやりやすくなったんですよ。それを言いたくて」

「そう。良かったね」

「どうやら、どこかの公安の人間と、どこかの役人と、どこかの管理官が色々根回しをしたみたいなんですよね」

「へえ〜。誰だろうねぇ」


コハクはすっとぼけるが、もちろんお互い承知の上だ。


「………セキトさん、昨日会議に乗り込んできましたよ。ただ壁際に立って話を聞いてるだけでしたけど、授業参観みたいなんでやめてもらえませんかね」

「ぶほっ!」


まさかの例えにコハクがお茶を吹き出す。机を叩いて大笑いした。


「災害人間って!それは違うだろ!」


ゲラゲラ笑いの止まらないコハクにつられて、シエンも声をあげて笑う。


「腕組んでずっと嫌味な数人を睨んでるんですよ。アイツら蛇に睨まれたカエルみたいに縮こまってましたよ。セキトさん、いったい何やらかしたんですかね」

「えー!何それ!俺も見たかったー!」


どこまで行ってもセキトな影響力に2人はおかしくて堪らなかった。


「はー。お腹痛い」


笑い過ぎて涙まで浮かべたところでやっと2人は落ち着いた。


「ね。シエンくんは1人じゃなかったでしょ。他のみんなもシエンくんのこと心配してるよ」

「はい。2班に行っても13班に行っても、みんな大丈夫か元気にしてるかって。うるさいくらいです」

「ロクイさんも心配してるんじゃない?」

「あの人が一番ですね。料理の腕がどんどん上がってます。それだけじゃなくて、アロマセラピーとマッサージの講座の資料請求してました。家出る時はお菓子作りの動画見てたんで、今勉強中だと思います」

「愛が重いねぇ」

「そういえばキトラさんは?今日は非番ですよね?」


不意にキトラの不在に気づいたシエンが投げた質問に、コハクのテンションが一気に下がる。


「ああ。うん。なんか忙しいみたいで。ずっと寮にいないんだよね」

「………浮気ですか?」


シエンから漂う空気が冷たいものに変わっていく。


「え?いや。違うと思うけど……」

「けど?」


真顔で詰め寄ってくるシエンにコハクが青ざめる。なまじ美人なだけに迫力が凄く、コハクは言葉を選んでなどいられなかった。


「一緒に捜査してる4班の人と笑いながら歩いてるの見たから。でも、セキトさんは大丈夫だって言ってたし……」


フルフル震えて悲しそうにしながらも否定するコハクを見て、シエンがついにキレた。


「あんのクソ脳筋野郎が!コハクさんを手に入れておきながら他の男にうつつ抜かすたぁどういう了見だ!イチモツぶった斬ったろか!」

「やめて!シエンくん!イメージが壊れるからそんな暴言吐かないで!」


止めるのはそこなのかと思うが、シエンのことを可愛い後輩として愛でたい身としてはこの状態は緊急事態なのだろう。


「コハクさん。今すぐあんなヤツとは別れましょう。大丈夫です。俺がいます」

「いや。色々大丈夫じゃないんだけど。それにキトラに直接聞いた訳じゃないし」

「浮気男なんて問い詰めてものらりくらりかわすだけです。時間の無駄です」

「シエンくんは過去に何かあったの?」


徹底的にキトラを排除しようとする姿勢に、コハクのほうがシエンを落ち着かせる側にまわってしまった。


「とりあえず。まずはキトラと話をしたいよ」

「……そうですか。わかりました。なら、俺も手伝います」


それまでの勢いが何やら別の方へ向いたらしいシエンに、「今度は俺が助ける番です」と笑いかけられる。その迫力にコハクはただただ頷くことしかできなかった。

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