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意識を失ったコハクを抱えるキトラの元へ、カグラとセキトがやってきた。


「やあ。久しぶりだね。今日は面白いものが見れて楽しかったよ」

「コハクは!なんでコハクは倒れたんだ⁉︎大丈夫なのか⁉︎」

「問題ないよ。脳を使いすぎて一時的に意識を失ってるだけだから。すぐ目を覚ます」

「………いったい何が起きたんだ?」

「それについては今度ゆっくり話してあげるよ。また僕の所に遊びにおいで」


それだけ言うとカグラは去っていった。セキトもその後を追う。

残されたキトラはシエンに促され、コハクを寝かせられる所まで移動した。




捜査官達が後処理でバタバタしている中、キトラはコハクに膝枕をしてベンチに座っている。


「……ん〜」


コハクが小さな声をあげたかと思ったら、ゆっくり目を開けた。


「コハク!」

「………キトラ?……あれ?俺まだ夢見てる?」


夢の中でキトラに会っていたのだろうか。コハクはまだぼんやりとしている。


「ばか。本物だ」


寝ぼける頭をギュッと抱きしめると、コハクは気持ちよさそうに手を伸ばしてきた。


「あったか〜い。キトラだ。………キトラ⁉︎」


一気に目が覚めたコハクがキトラを押し除けて飛び起きる。

振り返ってキトラの姿を確認すると思いっきり抱きついてきた。


「キトラ!キトラだ!会いたかった!会いたかったよ〜!」


抱きつきながら大泣きするコハクに、キトラは「大袈裟だな」と苦笑する。


「だって!だって、寂しかったんだ!ずっと不安で怖かったんだよ!」

「………そっか。ごめんな」


謝りながら優しく背中をさする。コハクの体温が心地よくて、感覚の鈍いはずの手にゆっくり熱が広がっていくのをキトラは感じた。




首謀者の自白を大勢が見ていたこともあり、世間の腕付きへの嫌悪は裏で糸を引かれていたものだと白昼に晒される結果となった。


「シエン君。警察の広報ポスターに載る話が出てるんでしょ。かっこいいだろうなぁ。絶対1枚もらって部屋に飾るよ」

「やめてください。そもそもポスターに載る話は断るつもりです」

「えー!絶対いいのができるのにー!勿体無いよ」


シエンの奇跡のような救出劇を目撃した人達がネットに拡散したことで、銃に対する不安はある程度払拭された。キトラによる糸の無力化も広まったことで無力化が腕付きだけのものではないとなり、腕付きの捜査官への悪評も落ち着くカタチとなった。

その結果、颯爽と人を救ったシエンにはファンのような者まで出てきてしまい、警察の広報がそれを利用しようとあれこれ画策中なのだ。




そしてあの日。コハクはもう一つ驚く事があった。


目を覚ましたコハクを連れてキトラが少し離れた待機場に行くと、ミソラが満面の笑みで出迎えてきた。


「キト〜!元気にしてたかい!全然会いに来てくれないから寂しかったよ!」

「……キト?」


事態を飲み込めずにいるコハクの横で、キトラは驚きの声をあげた。


「ミソラさん?え?視察に来てる管理官ってあなただったんですか?」

「ミソラさんなんて他人行儀な呼び方しないでよ。昔みたいにソラ兄って呼んで」

「ソラ兄?」


ますます混乱していくコハクを面白そうに見ながらミソラが説明を始める。


「私はセキトの幼馴染でね。キトのことは赤ちゃんの頃から可愛がってたんだ!本当の弟みたいなもんだよ」

「はあ。そうなんですか」


その弟の恋人に手を出そうとしたのかと、口には出さないがコハクは呆れ果てる。だが、次のミソラの発言に凍りつくことになる。


「だから可愛いキトの恋人がどんなヤツかテストしてやろうと思ってね。君を誘惑してみたんだよ。結果は100点満点さ!キトラを裏切れない?心配に押しつぶされて倒れるまで食べる?もう、愛おしすぎて君達の結婚式の準備までしちゃいそうだよ」

「や!あの!それは!」


バラされたくないことを思いっきりバラされてコハクは赤面する。だが、その横で鬼の形相がミソラにメンチをきっていた。


「おい……誘惑ってなんだ?」


ドスの効いた低音が恐ろしい。だが、ミソラは何も気にせず飄々と答えた。


「ちょっと夜のお誘いをしてみただけだよ。オッケーだったら美味しくいただいて、キトに全部バラして破局させようと思ってたんだけどね。あっさり断られちゃった。それ以外は弱ってる時に横で寄り添って寝ただけだから、心配することは何もないよ」


いい笑顔で答えるが、内容は完全にアウトである。キトラがキレて糸でミソラを攻撃するが、さすがエリート。全ていなしてしまう。


「キト、強くなったね〜。早く出世してうちに来なよ。高級取りになれるからコハク君に何でも買ってあげれるよ」

「……うっさい!誰がお前のとこなんか行くか!とっとと仕事に戻れ!」

「相変わらず反抗期だね〜。そこが可愛いんだけど。じゃあ、大人しく仕事に戻るよ」


楽しむだけ楽しんでミソラは去っていった。

残されたコハクは過ぎ去った嵐にどうしていいかわからない。


「あの〜。キトラ?」

「ごめん。うちの身内が迷惑かけて」

「あ、うん。それはキトラのせいじゃないから。それに横で寝たって言っても、ミソラさんは俺の手を握ってベッド脇にいただけだからな。キトラの事が心配で無茶した俺に付き添ってくれてただけだからな」

「………」

「キトラ?」

「なんか、今それ言うのはやめてくれ。ショックがでかい」

「………ごめん」


2人の味方を自称するくせに2人の空気を微妙に変えたミソラに、コハクはやや恨めしい気持ちを抱いてしまった。




そして、今回の糸に関する一連の不思議について聞くために、2人がカグラのもとを訪れる日がやってきた。


「いらっしゃい。……うん。糸の状態は元に戻ったね」


着くなり2人を見てカグラは納得した声をあげた。


「あの……今回の色々について全部教えて欲しいんですけど」

「いいよ。そのために来たんだもんね」


そしてカグラは全てを話しだした。


「まず、コハク君が糸の繋がりを感じれなくなったのは、他のことに糸を使ってたから」

「脳の要領がって言ってましたもんね。他のことって?」

「恋人君を守ること」


2人が同時に首を傾げる。なかなかに面白い光景なのだが、カグラはそれよりも自分の説を話す方に集中している。


「恋人君。潜入捜査の間、妙に疲れにくかったり、気持ちをコントロールしやすかったりしなかったかい?」

「そういえば今回はしんどさがマシだったな」

「それはコハク君が君を心配するあまり、糸で疲労を回復したり精神を整えたりしてたからだよ。もちろんエネルギーを変換し過ぎないように調整もしてた」

「え?糸ってそんなこともできるんですか?」


コハクが驚きの声をあげる。


「できなくはないね。疲れを癒す。精神に干渉する。一つ一つなら僕でもできるけど、遠くにいる1人の人間の全てをカバーするなんて、やる側には相当の負荷がかかるはずだ。コハク君は恋人君が潜入している間、情緒不安定だっただろ?」

「………たしかに。子供のように泣きだしてしまったり。激しく怒りを撒き散らしたり。そんな原因があったんだ」

「しかも無意識でやってるんだから、愛の力とは恐ろしいね」


ふむふむと、カグラは非常に興味深そうだ。


「じゃあ、俺の毒が回復したのもそのせいか。あの後検査したけど、何も異常なかった」

「そうだね。ついでに君が糸を無力化できたのもね」

「そう!それだ!なんだったんだ、あれは!」

「それこそ愛の集大成だよ。コハク君が長期間君に干渉し続けたせいで、2人は感覚が深く繋がってるんだ。だからコハク君が持っている糸を無力化する感覚を、コハク君の危機を前にして君が必死に開花させたんだ。まあ鍛冶場の馬鹿力的なものだから、2回目があるかはわからないけど」

「………」


感覚を与えられる。その話にキトラは一つ思い当たることがあった。


「なあ。こないだコハクを抱きしめた時に、この手であったかさを感じたんだ。今まで感じたことのない感覚だった。これも今の話に関係あるのか?」


カグラは少し黙って考える。そして、何か思いついたように会話を再開した。


「興味深い話だね。確かに関係あるかも。ところで……」


平然とした顔でカグラはとんでもないことを聞いてくる。


「君達、これまで何回セックスしたの?」


完全にその場の空気が凍りついた。


「な!は!や⁉︎」

「何聞いてきてんだ!てめぇ!」

「何って。大切なことだよ。肉体の繋がりが糸にどれだけ影響を及ぼすか。君達は唯一のサンプルなんだからキチンと答えてもらわないと」

「そんなこと言えるか!」

「む。その反応から見るに1回2回ではないね。頻度は?一度に何回するんだい?時間は?」

「………いい加減にしろ!」


キトラがキレたことでひとまずカグラは諦めてくれた。

だが、おそらく次回も同じ質問をされるだろう。


「はあ。全く。今日はこれで帰るぞ」

「うん。次回の面会もぜひ2人で来てね」


ホクホクと、研究が更に進みそうな予感にカグラはご機嫌だ。その目が2人の指に輝く小さな金属をうつした。


「ペアリングかい?」

「?ああ」


あの琥珀のペアリングだった。アギがせっかくくれたので、非番の日はつけるようにしてるのだ。


「お揃いの物を身に纏うか。それが糸にどんな影響を与えるか、また教えてね」

「……なんか起きたらな」

「……そうだな。何か起きたらね」


全てを研究にしてしまうカグラに呆れつつも、何か起きるかもしれないという予感は2人とも感じていた。




寮への帰り道を並んで歩く。

繋いだ手には輝く黄金とじんわりと伝わる温もり。


「なあ。手であったかさを感じたって本当?」

「ああ。不思議な感覚だった」


それを聞いてコハクはふわりと笑みを浮かべる。


「あ〜。俺、指輪キッカケでも絶対何か起こしそう。これ以上いったら、キトラもう俺から離れられなくなるんじゃない?」

「もう十分離れられないからいい」


ドキッとする優しい眼差しに、コハクは少し切なくなる。


「あったかさも気持ちよさも、もっと与えられたらいいな。……この冷たい手も好きだけど」


繋いだ手に力を込める。愛しくて大好きな手に。


「俺もお前の手が好きだよ。努力して、傷だらけになった。誰よりも綺麗な手だ」


コハクの手は、今やそこかしこ傷だらけだ。


「こんな無謀な腕付きを好きになるなんて、キトラも物好きだねぇ」

「お前にだけは言われたくねぇよ」


腕が再生できるか傷だらけかなんて。感覚が鈍いか鋭いかなんて。握った温度が冷たいか温かいかなんて。

そんな違いどうでもよくなるくらい、2人はただお互いを求めていた。

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