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街中にある広場で、腕付きへの支援を呼びかけるイベントが開催されている。
簡単な出店やステージが会場を盛り上げる傍らで、腕付きが器用さを活かして作った雑貨が売られたり、腕付きを雇いたいという企業向けのブースが設けられたりしている。
「全員配置についたな。では、作戦を開始する」
イヤホンから流れてくるゼンの声に、捜査官達の緊張が高まる。
この後、ステージで腕付きへの支援を呼びかける説明会が始まる。その中で腕付きの現状を訴える1人が襲われる予定なのだ。
「会場の外は特に不審なものは無さそうですね」
広場の外で警戒にあたっているコハクにシエンが話しかけてきた。
腕付きの捜査官の噂が広まっている今、あまり派手は動きはしないほうがいいだろうと2人は会場外で警備にあたっていた。
シエンは作戦に参加するかも悩まれたが、本人の希望もあって変装することを条件にこの場に来ている。それゆえ髪は黒に染め黒のカラコンを入れて、メガネと帽子を着用しているので誰もシエンだとは気づかない。
「襲撃に参加する人は中に入ってるし、犯行後は逃走する気もないみたいだからね。まさかこれだけ警官が入り込んでるとは思ってないだろうけど」
捜査官達はみな変装し、普通のイベント参加者を装っている。
『キトラも会場のどこかにいるはずだけど………ダメだ。やっぱり気配が追えないな』
この日まで何度もキトラの気配を辿ってみたが、一度も成功しなかった。自分はどうしてしまったのだろうと必死に不安に耐えていると、ゼンの声がイヤホンから聞こえてくる。
「始まった。全員手筈通り動くこと」
ステージに4名の腕付きがでてきて、各々に思いを訴えている。1人目が終わり、2人目に入ったところでステージに駆け寄る人影があった。
「何が腕付きへの支援だ!俺達の居場所を奪いやがって!」
男がナイフ片手に、今まさにマイクを持って話をしている人物へ向かっていく。だが、ステージに上がる前に捜査官に取り押さえられた。
「きゃあー!」
広場はパニックになり、みんな一斉に出口へと向かう。
「落ち着いてください。押しあわないで」
パニックを予想していた捜査官達は、人の流れがスムーズにいくように誘導して広場の外へと避難させていく。その中で団体の関係者達だけを次々と確保していった。
「クソッ!なんで警察がいんだよ!」
1人の男が捜査官の隙をついて逃げだした。出口へ向かう人の群れへ向かって行く。
『しまった!人質でも取られたら!』
出口の外で誘導していたコハクでは男を捕らえたくても人の波に押されて辿り着けない。
そんな時。横でカチリと金属の音がした。
パァン!パァン!
乾いた音がして人の動きが止まる。
その一瞬後に大型の看板が人々と男の間に倒れてきた。立ち往生した男は追ってきた捜査官にあえなく捕らえらえた。
「シエンくん……銃持ってきてたの?って言うか、今の凄くない?」
コハクは呆気に取られている。なぜならシエンは咄嗟の判断で弾を看板に当て、バランスを崩して男の前に倒す離れ業をやってのけたからだ。
「何があるかわからないので念のため。コイツらのせいで訓練する時間は山ほどありましたからね。これくらい朝飯前です」
フンッと男に一瞥をくれると、シエンはホルダーを出してきて銃をしまった。
その優雅な姿に助けられた人達は思わず拍手をしていた。
次々と仲間が捕えられる中、この襲撃を画策した張本人、支援団体のトップの男はうまく抜け道を使い広場から脱出していた。
「やっぱりあんたはここから逃げてきたな」
行く先に白い影が見える。
キトラが男の行動を先読みして待ち構えていた。
「お前!……そうか。お前が裏切り者か!」
「何も裏切っちゃいねぇよ。俺は警官だからな!」
キトラが糸で男を攻撃する。それを間一髪で避けながら男はなんとか逃走しようと逃げ回った。
『よし。そろそろだな』
男の移動する方角を見ながら、キトラは何かを測っていた。
『見えた!』
出口から出る人の波が見える。向こうからこちらが見えるようになった所でキトラが男に追い打ちをかけた。
「クソッ!」
糸に捕らえられ身動きできなくなる男。それを確認してキトラが男に近づいていく。
だが、男が投げたナイフが脚をかすめた時、キトラがガクッと膝をついた。
『……なんだ?』
体に力が入らない。男を拘束していた糸も消えてしまった。
「ははは。愚か者め。脚ならすぐ再生するからと油断しただろう。そのナイフには毒が塗ってあるんだよ!傷が再生する前に体に到達する特殊な毒がな!」
高笑いする男を睨むが、体は言うことを聞かない。そんな時、男の向こうにずっと会いたかった姿を見つけた。
「キトラ!」
キトラのピンチに気づいたコハクが駆け寄ろうとする。だが、それに気づいた男がコハクに向けてナイフを持った糸の攻撃を繰り出した。
「コハク!」
恋人の危機を感じた時。キトラに不思議な現象が起きた。体を蝕んでいた毒が一瞬で消え、あるイメージが浮かんだのだ。
「………え?」
目の前で起きたことが理解できず、コハクが声を上げる。男が自分を攻撃しようと出した糸が、全てキトラの糸によって無力化されたのだ。ナイフがアスファルトにぶつかるカランという音が響きわたる。
「なんで……」
そう呟くと、なぜかコハクがその場に倒れる。慌ててキトラが駆け寄ると気を失っていた。
「なんだ?いったい何が起きたんだ?」
糸を無力化され、男は混乱している。その頭に急に声が響いてきた。
『やれやれ。とんだ面白いものが見れたね』
「なんだ!クソッ!この声はなんなんだよ!」
『君のナイスファイトのおかげだからね。ご褒美に僕も張り切って役目を果たすよ』
そう聞こえた途端。男は理性を失って大声をあげた。
「クソッ!せっかく目障りな腕付きを血祭りにあげて戦争を起こそうとしたのに!何が腕付きへの支援だ!あんな異端者ども、全員生まれた瞬間殺しちまえばいいんだ!」
その暴言は、出口から逃げ出そうとしていた多くの人達の耳に届いた。困惑のあとに侮蔑の視線が男に向けられる。
「とうとう本性を現したな。殺人教唆、及び捜査官への殺人未遂でお前を逮捕する」
ゼンが現れ男に糸をかける。
そのまま待っていたパトカーへと男を連行していった。




