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翌朝。いつの間にか寝てしまったとコハクが目を覚ますと、目の前にミソラの寝顔があった。


「!!」


慌てて飛び起きると手を握られていることに気づく。コハクの動きで目が覚めたのか、ベッド脇に座って寝ていたミソラがモゾモゾと動き出した。


「おはよう。コハク君、気分はどうだい?」

「あ、えっと、もう大丈夫です」

「それは良かった。でも食べ過ぎはダメだよ。せっかく綺麗な肌してるのに荒れてしまうじゃないか」


はっはっはと笑いながら伸びをするミソラに、コハクはどう反応していいかわからない。


「さてと。この時間なら家に戻ってシャワーを浴びる時間はあるな。コハク君も大丈夫なようだし、このまま帰るよ」

「え?でも……」

「おや?それともシャワーを借りてもいいのかな?」


その発言にコハクが凍る。一度は体の関係を誘われた間柄である。さすがに同じ空間でシャワーを浴びられるのは戸惑われた。


「冗談だよ。遅くなってシエン君に目撃されて、あらぬ誤解を受けるのはごめんだしね。殺されかねない」


妙に陽気に物騒なことを言う。そんなテンションについていけないまま、コハクはミソラが帰るのを見送った。




色々なことがありすぎてベッドから出るのも億劫だったが、コハクはなんとか支度をしてカグラのところへ来ていた。


「どうしたの?疲れた顔して」

「………色々あって」


説明するのもめんどくさくて、コハクは投げやりな返事をする。


「ふ〜ん。君も大変だね。それで?恋人君と繋がらなくなったんだって?」


信じたくない事実を思いだしてコハクがまた凹む。それを気にせずカグラは話を続けた。


「まあ、そうだろうね。脳の容量の限界だ」

「………え?カグラは原因がわかってるんですか?」

「僕をなんだと思ってるの?君のことは君以上にわかってるよ」


その物言いは納得いかないが、キトラと繋がらない理由がわかるならコハクは何としても知りたい。


「なんで?なんで繋がらなくなったんですか?不安で仕方ないんです」

「………本当に気づいてないのかい?君の愛の力は凄いのか馬鹿なのか」

「?なんのことですか?」


なんのことを言ってるのかコハクは1ミリもわからない。だがカグラは説明する気が一切なかった。


「とりあえず糸が繋がらない間は恋人君は無事だから、何も心配しなくていいよ。君の状態に関してはもう少し観察を続けてから結果をだそうかな。今日は帰っていいよ」


そう言うとカグラは糸でコハクを部屋から追い出す。

コハクは「なんで!教えてくださいよ」と喚くがあっさり扉を閉められ、諦めるしかなかった。




カグラとの面会の結果を伝えにいくと、ゼンは苦笑するしかなかった。


「まあ、カグラのことだから言ってもダメな時はダメだよ。それにキトラからは今朝連絡が来たからひとまずは問題ないしね」

「え⁉︎そうなんですか⁉︎」


恋人の無事がわかり、コハクは胸を撫で下ろす。


「だが、あまり安心できる状況ではなさそうだ。このあとキトラが潜入している組織に関してみんなに周知するから、2班の部屋に戻ろう」


めったに余裕を崩さないゼンが焦っている。

一度は消えた不安が、再びコハクの中で大きくなっていった。




2班の部屋に捜査官達が集められている。

不安そうにゼンと部屋に入ってきたコハクを見て、シエンが駆け寄ってきた。


「コハクさん。大丈夫ですか?」

「シエンくん。……うん。とりあえず班長の話を聞こう」


気丈に振る舞っているが微かに手が震えている。それを見たシエンは、そっとコハクのそばに立った。


「キトラが潜入してるのは腕付きの支援団体だ。就職支援や生活の相談を受けている。と言ってもそれは表の顔。実際は腕付きの悪評を広めて世間の分断を画策するテロ集団だ」


テロの言葉に捜査官達の顔つきが一気に変わる。


「違いというのは簡単に分断を生むからね。就職支援という名目で高待遇の仕事に無理やり腕付きをつかせて、周囲の不満を呼ぶ。腕付きには、後に続く者のためにそこに居続けることに義務感を抱かせる。あとは腕付きの銃の噂も団体の仕業だ。これに関しては情報漏洩の際に私が対処漏れしたことが原因だ。申し訳ない」


己の過ちに潔く頭を下げる。ゼンのそういうところが班員に慕われる理由だ。「班長だけのせいではないです」「頭を上げてください」と激励の言葉が飛ぶ。


「ありがとう。過ちは犯人を捕まえることで償う。近々団体への支援を募るイベントが催される。そのイベントの中で、腕付きを襲撃する計画が立てられているんだ」


捜査官達の雰囲気がさらに緊迫したものに変わっていく。その様子を確認してゼンは説明を続けた。


「公の場で腕付きが襲われる。それは最近の風当たりの強さで溜まった腕付きの不満を爆発させるだろう。そうして行き場のない怒りを抱えた腕付きを唆し、今度は腕付きに普通の人を襲わせる。それを繰り返して、お互いへの憎しみを育てていくんだ。かつての戦争の状態になるまで」


『なんでそんなことを………憎しみあって傷つけあったって、待ってるのは悲しみだけなのに………』


コハクは争いへと向かわせるその思想がまるで理解できない。だが、理解できなくても存在するならば対処しなければいけない。


「これ以上憎しみの感情を育ててはいけない。我々警察の1番の仕事は犯罪の防止だ。なんとしても腕付きへの襲撃を止める。身命を賭して任務に当たってくれ」

「了解!」


ゼンの言葉に全員が全力で応える。

みんな誇りを持ってこの仕事を選んだ人達だ。コハクは改めてこの班への尊敬の念を抱いた。




イベントまではあと1ヶ月を切っていた。

キトラが必死の思いで送ってくる情報を使い、ゼンが作戦を立てていく。キトラの身を案じながらも、その思いに応えるためにコハクも精一杯班に貢献していた。

そんな日々の中、アギがひょっこりと2班に顔を出すことがあった。


「コハクちゃん。ちょっといい?」

「アギさん。はい。なんでしょう?」


おいでおいでをするアギに13班へと連れていかれる。


「本当はキトラちゃんと2人でうちに来た時に渡そうと思ってたんだけど」


アギの手には小さな箱がのっている。高級そうなその箱をコハクの手に渡した。


「開けてみて」

「………これ………」


中に入っていたのはペアリングだった。中央に黄金色に輝く琥珀がはめられている。


「こないだお店で見かけてね。この琥珀、キトラちゃんの瞳みたいな色してるでしょ。つい2人にあげたくて買っちゃったのよ。コハクちゃん、キトラちゃんと離れて寂しくてもずっと頑張ってるから、今度の作戦のお守りになればと思って。まあ、仕事中は邪魔になるから着けれないけどね」


ふふふと笑いながらアギは嬉しそうにしている。その笑顔を見ているとコハクも嬉しさが湧き上がってきた。


「ありがとうございます!絶対作戦を成功させて、キトラが帰ってきたら2人で着けます!」

「ふふ。その姿をうちにも見せに来てね」


自分の周りはこんなにも優しさで溢れている。コハクはその幸せを噛み締めて、これから待つ凶行を絶対に止めようと心に決めた。

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