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カグラのアドバイスを受けて、捜査官達は犯人探しに全力をあげていた。
「被害者達が暴れる前、必ずこの金髪の青年に声をかけられているね。見つかるとは思っていないのか変装すらしていない」
ゼンが画面に映る金髪の男性を指差す。緑の瞳の色までわかるほど、鮮明にその姿が残されていた。
「前科は特にないらしいから、地道に探すしかないね。現れている場所も様々だし。みんなもう一踏ん張り頑張ってくれ」
おう!という声のあと、捜査官達がバラバラになっていく。コハクもシエンと共に聞き込みに向かった。
「シエン君」
部屋を出たところでロクイに声をかけられる。
「ロクイさん。…あ、銃の改良が終わりましたか?」
「ああ。今度は自信作だよ。班長がノリノリでチェックしてる」
「ありがとうございます。聞き込みが終わったら行きます。遅くなるかもしれませんが」
「待ってるよ。試し撃ちが終わったら一緒に帰ろう」
「はい。では、あとで」
いつも通り爽やかに笑い、手を振りながらロクイが去っていく。
シエンが楽しそうに笑っているのがコハクは嬉しくなった。
「ロクイさんと仲良くできてそうだね」
「……まあ」
珍しく歯切れ悪く返事をするシエンは、恥ずかしそうに少し顔を赤らめている。
「………ロクイさんのこと、苦手なわけではなかったんです。ただ、あれだけ腕付きは恨みに囚われた人しかいないと言ってたのに、ロクイさんは全然違って。恥ずかしくなったんです。自分の狭量さが」
そう言いながらも、シエンは嬉しそうだ。珍しく頬が緩んでいる。
「ロクイさん、いつも褒めてくれるんです。腕付きで捜査官になるなんて物凄く努力したんだろうって。腕付きの銃に関しても、今まで無かったものを作り出そうとしてるのに泣き言一つ言わないでって。君のしてることは後に続く人の希望になるんだよって。………たぶん、それは俺が一番言って欲しかった言葉なんです」
必死に努力する姿を認めて欲しい。ただそれだけのことを与えられなかったシエンが、初めて幸せを手に入れたのだ。
コハクはキトラと初めて会った時のことを思い出した。
『だった一言で人は救われる。シエンくんの笑顔がもっと見れるようになればいいな』
「さ、さあ。聞き込み行きますよ」
恥ずかしくなったのか、シエンがコハクを急かす。コハクは「はいはい」と笑いながら署を後にした。
捜査官達が事件解決に向けて動いている間、セキトはカグラの元を訪れていた。
「おや。お客さんなんて珍しいね」
「初めまして。セキトだ。この間は弟が世話になったね」
「弟?コハク君には兄弟はいないはずだから、恋人君のお兄さんかな?」
「そう。恋人君のお兄さんだ」
まるで子供に話しかけるように、セキトはカグラに接している。
「で、そのお兄さんが何の用?苦情を受けるようなことは恋人君にはしてないけど?」
「何。個人的なことだ。君は知ってるかな?金色の王について」
カグラの顔に警戒色が浮かぶ。セキトは予想通りだと話を進めた。
「金色の王ってうちの村の昔の長のことなんだけど、どうやらどこかの国王の弟らしいんだよね。事情があって国を出て、うちの村長になったらしい」
「そう」
「君のご先祖様が仕えてたのが、金色の王のお兄さんなんじゃないのかな?」
カグラの顔から表情が消える。
「うちの村は金色の王の意志を継いで、異なる人々を繋ぐことを望んでいる。私もそのために警察に入った」
「………進化の歴史を記録せよ。その記録を金色の王へ捧げよ」
「それが君の一族への命令かな?」
「一族はもう僕しか残ってない。記録を国に返せたことで役目は終えたと思っていたけど……そう。金色の王の意思はまだ生きてるんだね」
カグラが深く息を吐く。重い荷物を下ろしたように、肩の力が抜けていく。
「一族の記録は警察にも閲覧できるようにしとく。コハク君の言ってた事件の犯人逮捕にも協力するよ」
「そうかい。それはありがたい。君が自由に動けるように、上との交渉は任せてもらおう。なんせ私は災害人間らしいからね」
明るく話すセキトにカグラの雰囲気も和らぐ。
「君は変な人だね。アパートの変死事件との繋がりに気付いたのも君だろ。今度ゆっくり話がしてみたいな」
「光栄だな。私も糸についてはまだまだ知りたいことがたくさんある。また来るよ。君の話を聞きにね」
「そう。楽しみにしてる」
子供のように無邪気に笑い、カグラはセキトを見送る。セキトは親のような優しい微笑みで部屋を出て行った。
犯人から狙われているかもしれないということで、護衛のためにコハクの非番はキトラと同じ日にされることになった。
明日はその非番の日である。
「せっかく久々に休みが一緒だけど、一応お前は狙われる身だしな。最近忙しかったし、家でゆっくり過ごすか?」
「そうだね」
そんな話をしながら、コハクがキトラの隣に移動する。コテンと肩に頭をもたせかけてきた。
「なあ。キトラ。糸を出して暴れた時さ。一番怖いのは俺がいなくなることだって言ってたよな」
少し不安そうに、上目遣いで聞いてくるコハク。その腕には傷跡が増えてきた。
「ああ。そうだな。怖い。お前が怪我をするたびに心臓が凍りつきそうになる」
腕を持ち上げて傷跡に口付ける。覗き見たコハクの顔は苦しそうな表情をしていた。
「俺が捜査官になるの納得してくれたけど、やっぱり不安は消えないよな。お前を苦しめてる」
「それも含めてお前が好きなんだ。覚悟はしてる」
愛って厄介よね。
愛の力とは厄介なんだな。
これまでかけられた言葉がコハクの中を巡る。
大切な人がいるから幸せになれる。でも、大切な人がいるから恐怖が生まれる。
「………キトラが公園で暴れた時、すごく怖かったんだ。このまま死んでしまったらどうしようって。本当はカグラに会わせるのも嫌だった。……でも、キトラはずっとこんな恐怖と戦ってきたんだよな」
俺ってわがままだ。と、コハクは俯いて呟いた。その頭をキトラが優しく撫でる。
「でもお前を守れると信じた。何があってもお前を助けに行くと決めた。……それに、わがままなお前を好きになっちまったんだから、しょうがないだろ」
笑う顔は愛に溢れていて。
コハクは気持ちを抑えきれずにキトラを押し倒した。
「俺も……俺もキトラを守りたい。何があっても守れるって信じたい。………だから」
涙で潤んだ緑がキトラを見下ろす。そこには今まで見たことのない色香が浮かんでいた。
「だから、俺をキトラで満たして」
『………コイツ、こんなに色っぽかったっけ』
初めて見る恋人の姿に、キトラは欲よりも愛しさを感じた。
「じゃあ、俺のこともコハクで満たしてくれるか?」
コハクの頭に手を添えて、そっと唇をキトラの唇に寄せさせる。深い口付けのあとに、2人でクスッと笑ってしまった。
「2回目は俺から誘おうと思ってたのにな」
キトラが少し悔しそうにしている。
「と言うか、初めてが気持ちよくなかったのかと心配した。お前はもうしたくないのかと」
「そ、そんなことない!」
キトラの上で体を起こして、コハクがワタワタと手を振って慌てる。
「キトラに触られたこと、思い出すたびに体が熱くなるくらい気持ちよかった………」
自分は何を言ってるんだと、コハクは真っ赤になった頬に手を当てている。
「キトラこそ。俺の体じゃ満足できなかったんじゃないかって不安だった。俺は男だしさ。喜ばせる方法なんてわかんないし」
急に不安な顔に変わる百面相が可愛らしくて、キトラも体を起こしてコハクを抱きしめた。
「お前が俺を求めてくれるだけで、俺は十分喜びを感じる。だから、そんな顔するな」
冷たい手が頬に触れる。気持ちよさにコハクの表情が変わったのを見て、キトラはゆっくりと手を下へと滑らせた。




