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人相書きの確認が終わった後。セキトが呼び出したのはゼンとシバだった。


「今日は家事タイムの日なんだけど」

「緊急事態なんだから諦めるんだな。可愛い部下のためならリト君も許すだろう」


文句を言うゼンを黙らせて、セキトが呼び寄せた2人に何かを説明している。


「なるほど。それが本当ならかなり役に立つな」

「よし。実験してみよう」


言うが早いか、ゼンがキトラを連れ出しリビングを出て行ってしまう。


「えっ⁉︎ちょっと、急に何⁉︎」


続けてコハクはセキトに連れられ、外に停められていた車に乗せられる。


「さ〜って、少し夜のドライブといこうか」


そう言ってセキトは車を颯爽と走り出させる。助手席のコハクはなす術もなく夜道へと連れ去られてしまった。



10分ほど車を走らせただろうか。コハクは見知らぬ公園の前に来ていた。


「あの〜。これはいったい」

「ここでコハク君に問題だ!今、キトラはどこにいると思う?」


まったく訳もわからぬままクイズを出され、コハクはふざけるなと怒りそうになった。

だが、なぜかキトラのいる場所がイメージできてしまったため、渋々答えを述べる。


「ここから……北西に5キロくらい?マンションのリビングなのかな?たぶん6階で、家具とかすごくセンスがよくて綺麗な部屋だ。ソファに座ってて、誰かがお茶淹れてくれてる」

「………想像以上だな」


セキトが楽しくて仕方ない感じでコハクに抱きつく。

どうしていいかわからなくて戸惑っていると、誰かに電話をしだした。


「ああ。こっちは完璧だ。うん。そうか。わかった。今から戻る」


通話を切るなり再び車を発車するセキト。

もはや説明を諦めたコハクは静かに車に揺られていた。



寮に戻るとキトラとゼンも戻っていた。

キトラと2人、何が起こったのかわからないまま並んで座らされる。


「いや〜。2人とも素晴らしい!期待以上だったよ」


ご満悦なセキトに怒りを思い出したキトラがくってかかる。


「おい!兄貴!いったいどういうつもりだ!いきなり家に連れてって!」


その言葉にコハクが反応した。


「家?それってマンションの6階?綺麗なリビングでお茶飲んできた?」

「あ……ああ。なんで知ってんだよ」


驚くキトラにセキトはやっと説明を始めた。


「コハク君は気づいたみたいだね。そう。お前達は今、相手がどこにいても何をしてても、すぐにわかる状態になってるんだ」


キトラが「は?」という顔をする。


「キトラ。お前、私の家で今コハク君がどこにいるか聞かれただろう?」

「ああ。兄貴に車に乗せられて、でっかい滑り台のある公園の前にいるって答えたぜ」

「なぜそう思った?」

「なぜって……イメージが湧いて……」


そこでハッとしてキトラがコハクの方を向く。


「まさか。お前も?」


コクコク頷くコハクにキトラは信じられない顔をした。


「なんでこんなことに……」

「それはコハク君の力だ」

「俺の?」


自分を指差しなんのことやらという顔をしているコハク。気にせずセキトは説明を続けた。


「糸の無力化にはイメージが必要だという仮説を立てたな。それは無力化でなくとも、糸を使う上では何かを強く思うことが大切だということだ」

「はあ……」

「コハク君が訓練をしても無力化をなかなかできなかったのは、他の思いが強くなってしまったからだ」

「他の?」

「キトラを守りたいんだろう?」


ニヤッとするセキトにコハクが真っ赤になる。


「なんで!それを!」

「アギに聞いた」

「アギさん………」


先輩の知らぬ間のリークに、アギを少し恨みそうになる。


「その守りたいという思いが訓練で繊細になった感覚に合わさり、キトラの元へ糸を常時飛ばすようになってしまったんだろう」

「へ?でも俺はコハクの糸が周りを飛んでるのを見たことなんてないぜ?」

「糸というよりは粒子みたいな状態になってるんだろう。その点で言えば、私よりも糸の扱いが上手くなってるかもしれないな」


褒められたのにコハクはちっとも嬉しくない。


「そうしてコハク君は常にキトラの状態を把握できるようになった。キトラも糸を通してコハク君の状態がわかるようになっている。というのが、先ほどの実験でわかった」

「……つまり俺は訓練の成果をキトラの監視に注ぎ込んだ、色ボケのストーカーだということですね」

「いや。そこまで自分を卑下しなくても」


どん底まで落ち込んでいるコハクが可哀想になって、ゼンがフォローをいれる。


「だって、こんなんじゃいつまでたっても糸の無力化なんてできなくて、捜査官にもなれないじゃないですか」

「それに関しては心配ないぞ」


なおも嘆くコハクに今度はセキトがフォローをいれる。


「コハク君。やたらと腹が空くようになったのはいつからだね?」

「え?えっと、キトラと付き合いだしたくらいからかな」

「それは常時キトラに糸を飛ばしているから、エネルギー不足になっているんだ。そんなことでは他のことに糸の力は使えない」

「え⁉︎じゃあ、やっぱり……」

「話は最後まで聞きなさい。見えなくなるほど繊細に糸を操れるようになったんだ。意識すればキトラへのストーキングも量や時間を調節できるようになるはずだ」

「ストーキングって言い方、嫌なんですけど」

「細かいことは気にするな。つまり、糸の使う量を割り振れば無力化だろうがなんだろうが、今の君なら不可能はないんだよ!」


セキトの力説にコハクが元気を取り戻す。

よしよしとやっとセキトは本題に入った。


「ここからできる限りコハク君には糸の扱い方を覚えてもらう。そうすれば件の男への囮になったところで、キトラがいれば危険も防げるはずだ。天然のGPSみたいなもんだからな」

「なるほど!わかりました!がんばります!」

「そうと決まれば明日は捜査官を集めて作戦会議だ!みな、今日は早々に寝ること!」


そうして風のようにセキト達は帰って行った。



嵐が過ぎ去り静かになったリビングで、キトラがポツリとこぼす。


「今までお互いを感じるとかなんとか言ってたのは、お前の糸のせいだったんだな」

「うん。ロマンティックな話でもなんでもなく、超物理的な話だったな」


沈黙が流れた後、プッと2人して笑いだす。


「ずっと俺を監視してたって、お前どんだけ俺が好きなんだよ」

「仕方ないだろ!心配だったんだから」


あははと笑いながらキトラの手がコハクの手に触れる。


「……好きって気持ちなら、俺も負けてないからな」


繋いだ手をキトラの糸が包んでいく。


「なあ………いいか?」

「うん。俺もしたい」


そうして、ふたり静かに目を閉じて、唇を重ね合わせた。





捜査員達の突入に少し慌てた様子を見せたカグラだったが、まだその余裕は崩れない。


『カグラには相手の感覚を狂わせる技があるし、他にも何かできるかもしれない。どうやって捕まえれば……』


ひとまず感覚を狂わせることをキトラに伝えようとすると、先にカグラが動いた。


「ねえ!コハク君!どうやってここの場所を知らせたんだい?愛の力ってなんなのかな?」


そののんびりとした話し方に、この状況がカグラにとって全くピンチでないことが見てとれる。

だが、聞かれた内容を考えた時に、コハクに一つの考えがよぎった。


「……キトラ相手なら、俺は見えない糸を飛ばしてお互いのことがわかるんです。これぞ愛の力です」


コハクは少々間抜けな言い分だなと思ったが、カグラには何か響いたようだ。


「そう。じゃあ、投降するよ」


特に抵抗もせず、あっさりと手を上げてカグラは捕まることを認める。


「ただし条件がある。大人しく刑務所にいてあげるから、研究は続けさせること。そこにいるコハク君を研究対象として最低週一回は面会に来させること。それが聞けないなら刑務所から抜け出すなんて簡単だからね」


あまりに上からな物言いに捜査官達は何言ってるんだとなるが、コハクだけはこの展開を予想していた。


「俺はいいよ。でも最終決定するのは上の人達だから、その人達とは自分で交渉して」

「おい!コハク!」


キトラが反発する。恋人が危険な犯罪者のモルモットにされそうなのだから当然だろう。


「……ただし俺からも条件。俺を傷つけたり、命の危険に晒さないこと。それは研究全般においても一緒な。人を傷つけることはしないこと」

「もちろん。貴重な研究材料の君を傷つけたりしないよ」


ニコニコと、とても今から逮捕されるとは思えない笑みをカグラは浮かべている。

コハクは複雑な気持ちになった。


『この人には、悪意というものは本当にないんだろうな。ただ進化の研究に取り憑かれて、人と感覚が違ってしまっただけなんだ。でも殺された人の遺族からしたら到底許されることじゃない。せめてこれ以上の被害者を生まないために、なんとしても刑務所に閉じ込め続けないと』


グッと拳を握る手が震えていることに気づき、キトラがコハクの手を優しく包む。さらに糸で優しく指を緩められたことで、コハクはやっとかたくなった心を解くことができた。


「1人で抱えるな。俺達には愛の力があるんだろ」

「……うん。こめん。ありがとう」


やっと置き去りにしていた恐怖を取り戻せて、コハクはキトラにしがみついた。

その背を優しく撫ぜるのは、いつも安心をくれる冷たい手だった。

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