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三題噺もどき3

店員さん

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくきゅうじゅうなな。

 


 買い物かごが重い……カート押してくるんだった。


 左腕に引っ掛けていたカゴを置きたくなる衝動にかられながらも、買い物を進めていく。

 今日こんなに買う予定じゃなかったから、カートまでいらないかと思っていたのに……。

 想像以上に安いものがあったり、必要だったと思いだしたものがあったりで、想定外の買い物が多かった。そういえば、今日安売りの日だったな……と今更ながらに思いだした。

「……」

 無計画に買い物するとこうなるから、メモなんかを書いて計画的にしているはずなんだが……。気づけばメモ以上の買い物をしているのは、あるあるだと思いたい。メモしていた分だけで買い物を終えられる人が羨ましい。きっと色々調べてから何が必要かを見極めて買い物に来ているんだろうなぁ……。それができれば無駄遣いも減るんだろうけど、そうもいかないのが現状である。もっとうまく買い物が出来るようになりたいものだ。

 そうすれば、思いだすたびに店内をあっちに行ったりこっちに行ったりしなくて済むんだろうな。いや、これは私の効率が悪いだけか。

「……」

 まぁ、でも今日の買い物はこれぐらいか。

 ぐるぐると余計に回ってしまった……。もう少し早めに切り上げて買えるつもりだったのに、なんだかんだ30分ぐらい買い物していた。そろそろ帰って明日の準備をしておきたい。

 ……明日もまた妹に誘われて近所の夏祭りにいくのだ。先週は雨で散々だったが、今回は天気が味方してくれそうなのでよかった。

「……」

 想定以上に重くなったカゴを持ちながら、レジへと向かう。

 ここはセルフレジと、有人レジが設置されている。

 いつもはセルフレジに向かうのだけど、今日は店員さんには申し訳ないが使いたいクーポンがあったので有人レジに向かう。セルフレジだと使えないらしい。その辺の仕組みはよくわからないが……多分一度使ったものをもう一度使われないようにとかそういうことへの対策だろう。

「……」

 ……と。

 何やらもめている。

 いつからそうやっているのかは知らないが、普段この時間は一台しか開いていないはずのレジが二台開いている。とは言え、一台はもめているおじさんが占領しているようなものなので、稼働しているのは一台だ。私の前には二人程並んでいる。

「……」

 なんだか……いかにもクレーマーという感じのいでたちのおじさんだ。

 よくここに来るのだろうか……よく見れば他のスタッフが徐々にレジのあたりに集まっている気がする。主に男性スタッフだ。客に対応しているのは女の人。

 きっと、来るたびにこうして暴言を吐いたりなんだかんだと言いつけたりしているから、店側も困り果てているんだろう。こういう人って出禁にできたりしないもんなんだろうか。してしまえばいいのに……と思うのは私が何も知らないからだろうけど。きっと店側も何かがあるからそう簡単に出禁にとは出来ないんだろう。

「……」

 途中からではあるが、聞いている限り、何とも理不尽な物言いにしか聞こえない。

 それは、不可抗力でもなんてもなく、お前の不注意や自己満でしかないだろうと言う感じの……なんか、聞いているこちらが呆れるような内容だ。何を言っているんだろうかこの人は。頭のねじが全部吹っ飛んでるんじゃないのか。こんな人にいちいち時間を割かないといけない店側がかわいそうでならない。

「……」

 客だからと、何でも言っていいと思っているんだろうか……。

 別に店員さんはお前の奴隷でも手下でも何でもないんだが。

 こういうやつに限ってお客様は神様だとかいう訳の分からないことを言うんだろうなぁ……。それはちゃんとしたルールやマナーの範囲内で、当たり前にできることを当たり前にできる客がそう言われるだけで、お前のような訳の分からない持論を押し付けて思い通りにならなければ喚くようなマナーもくそもないようなやつにあてはまるものではない。そんなものただの害悪な客でしかない。自分の都合のいいように文言を解釈するんじゃない……。こんなおじさんがいるから老害とか言うワードが生まれるんだろうな。

「……」

 変わらずに喚き続けるおじさん。

 その間に、前の1人が終わり、2人目のレジ打ちが始まっている。

 もういい加減帰ればいいのに……こんな人に対してでも丁寧に対応している店員さんがすごいと思う。純粋に尊敬に値する。私だったら手が震えてしまうかもしれない。

 内心こうやってあれやこれやと言っているが、実のところビビりまくりである。

 男という時点ですでに恐怖の対象になりえるのに、それが大声で怒鳴っているんだから恐怖以外のナニモノでもない。怖すぎるだろう。

「……」

 前の人のレジ打ちが半分ほど終わったあたりで、ようやく何かに満足したのか、殆どひったくるようにして帰っていった。袋詰めまでしいて、店員さんが凄すぎる……。

 ここは支払いはセルフなのだけど、その間も何やら喚いていてホントに恐ろしかった。警察にでも突き出してしまえばいいのに。ああいうのに限って警察をみたらすぐに尾を巻いて大人しくなるんだろう。

「二番目でお待ちのお客様どうぞ」

 そう声を掛けられ、つい先ほどまでクレーマーの対応をしていた店員さんの元に向かう。

 確かに私の後ろに少々並んではいたが、そんな間髪入れずにしなくても……なんだか申し訳ない気分になる。これならセルフに行っていればよかった……ホントに申し訳ない。

「いらっしゃいませ、袋はお付けしますか?」

「大丈夫です」

「ありがとうございます」

 そういいながら、商品を通していく。

 あんなのの対応をした後なのに、こんなに気丈にできるの……。きっと決まりきった文言なのだろうけど、それをすらすらと言えるのが普通にすごいと私は思ってしまう。

 あっという間に商品をすべてスキャンし終え、通し終えた商品が買い物かごの中に綺麗に並ぶ。

「お支払いは現金でよろしかったですか」

「ぁ、はい。あ、これ使えますか」

「お預かりします。…10パーセント引きさせていただきますね。」

「……」

「カードお持ちでしたらこちらに」

「はい」

「――――円になります、2番レジでどうぞ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございました」

 カゴを受け取り、レジで支払いを済ませる。

 こんなあいさつ程度で慰めることは出来ないし、そんなものにはならないだろうけど。

 いつも利用している身として、少しでもお礼を伝えたいなんて思ってしまう。

 個人的には、店員さんに対して「ありがとう」と伝えるのは当たり前だし、ほとんど癖になっているので、たいしたお礼にもなっていないだろうけど。

 それでも、この癖は一生直さないでおこうと思ったりした。







 お題:店員・不可抗力・慰める

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