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麗しのヴェルデとカレンドゥラ

作者: 遠田


 姉さまは本日も麗しい。


 屋敷内ではやわらかな笑みを絶やさない姉とのお茶の時間はカレンドゥラの至福の時間である。生粋の貴族というものはこれほどまでに眩いのか、いいや姉さまだからこそ光さすように眩いのだ、そう心中で独りごちてから小さな焼き菓子をつまんでくちにする姉、ヴェルデのくちびるをカレンドゥラはうっとりと見やった。あの波打つ小さな歯に指先を噛まれたい。

 柔和な笑みでもって姉を見るカレンドゥラの思いなど知らずに、まあるい瞳が喜びだけを宿してカレンドゥラをその中に映した。

「あすはデビュタントボールね。エスコートはお父さまがなさるのでしょう?」

「はい、お義父さまが。姉さまは第三皇子と出られるのでしょう? 姉さまのドレスを見られるのが楽しみです、きっと誰よりもお美しいのでしょうね」

 カレンドゥラの言葉にヴェルデは微笑みこそしたが、それが陰っていることに気づかないほど愚かではない。片眉を上げるとヴェルデは「そんな余裕があるのだったら安心ね」と追求を濁した。納得はいかないもののヴェルデが話さないと決めたのだったらそれを引き出すことは難しい。カレンドゥラのことを愛してくれているが、秘密は決して漏らさずそうと決めたことは絶対に覆さないからだ。

 カレンドゥラは義父の実弟の子である。ある平民に心を奪われて出奔した父親はその商人の娘と添い遂げたのちにようやく詫び状とともにその所在を知らせたらしい、潔いほどの事後承諾である。詫び状は突然の出奔を詫び、家の益にはならない己の心を優先させたことを詫び、戻らないことと公爵家からの廃除を願ったものだった。そのままカレンドゥラも平民として生まれ生きていくはずだったが、大規模な震災により商家のある一帯が津波と火事による被害で一掃され、祖母とカレンドゥラ以外は亡くなってしまったのだった。祖母からの手紙が実父の生家であるパラッツォ公爵家に届いたのは数十日後で、手配した公爵家の騎士団が駆けつけたときにはすでに祖母の命も尽きかけていた。臨終時の涙ながらの訴えもありカレンドゥラは四つでパラッツォ公爵家へと引き取られ、それ以後はヴェルデの義妹として育ったのだ。ふたつ年上のヴェルデは六歳だったがすでにマナーも完璧だった。カレンドゥラの大好きだった絵本のお姫さまはすぐにヴェルデと重なって憧れとなり、平民の血が交じっているとはいえヴェルデを敬愛し義妹としてふさわしくなりたいと願って努力を惜しまないカレンドゥラをヴェルデも心から愛してくれて実の妹のように接してくれた。美しく優しく公爵令嬢という身分であるのに侍女や領地の平民にまで気を配る、カレンドゥラにとってヴェルデは女神に劣らぬただひとりの女性である。


 であるのにだ。

 なにが起こったのだ。

 今なにが起こっているのかカレンドゥラには理解し難かった。


 純白のボールガウン、そしてオペラグローブ。貴族子女ならば誰もが美しく迎えたいデビュタントボールで、その声は耳障りに響いて、やがて波紋のようにざわめきを会場の隅まで起こしていった。

「ヴェルデ・パラッツォ公爵令嬢、あなたとの婚約を破棄する」

 第三皇子の決して大きくはない声はしかしその場にいるすべてのものへとその言葉を周知させるほどに響いた。ヴェルデはその瞳と同じ深い緑色のカラードレスを翻し、声の方へと向き直った。

 礼を執るヴェルデに第三皇子は返事をせよと了承を急いた。あまりにも礼を欠いた様子にカレンドゥラの握りしめた拳がぎちりと鳴る。オペラグローブを固く握った音は驚愕に染まるその場では誰の耳にも届かずに済んだが、それどころではない。

「殿下の独断ではなく皇帝からの言葉をいただいてからの返事となることご了承いただけますか」

「……父、皇帝の判断を待つまでもない。アルベルゴ伯爵令嬢の件と言えばわかるだろう」

 皇子の言葉にヴェルデがくくと口角をあげた。カレンドゥラにはわかる、あれはわかっていない顔だ。何ごとも完璧ではあるがヴェルデは身に覚えがないこと、記憶に残っていないことを問われるとああして口角をわからないほどわずかにあげる癖がある。家族である義父母や義兄には知られているが外では誰も知らない小さな癖だ。そしてたった今その小さな癖をカレンドゥラに見つけられ、恥じているヴェルデのそんな顔も愛らしくてこのような場だというのにカレンドゥラの心のうちは荒ぶっていた。そのうち花を吐くのではないかと思うほどにときめいている。

 カレンドゥラの心のうちが花に埋め尽くされている間にヴェルデは第三皇子に向き直っていた。

「……申し訳ありませんが、アルベルゴ伯爵令嬢とは面識がありませんわ。純白のドレスということは本日がデビューですわね、なおのこと面識はございません」

 すでにデビュタントを迎えた女性はカラードレスを着用するので、純白のドレスということはこの国で十六を迎えたばかりの女性ということだ。二歳も違えば友人の家族でもないかぎりあまり交友などない。

「白白しい、ストラーナが貴様から暴言を吐かれたと何度も訴えているのだ」

 貴様、だと?

 カレンドゥラは胡乱な目を第三皇子へと向けた。カレンドゥラの女神たるヴェルデに向かって貴様とはなに様だ──ああ、皇子だった……いやいや皇子だろうが許し難い。カレンドゥラの拳がより一層強く握り込まれる。

「ストラーナとはそちらの女性でお間違えではないのですね。……ストラーナ・アルベルゴ伯爵令嬢、わたくしあなたとは面識がありませんわね。どちらで会いましたかしら、覚えがありませんのよ」

「あの、皇城で……」

「でしたらなおさら。皇城をひとりで行動したことはありませんの。そちらの勘違いですわね」

「いえ、庭園です、庭園でパラッツォ公爵令嬢にくちにすることも憚るような言葉を投げつけられたのです。覚えていらっしゃらないとは言わせません」

「どのような?」

「申せません、あのような言葉くちにするなど」

「覚えがありませんし、どのような言葉だったのかもわからないのですから思い出すことも不可能ですわね」

 ヴェルデは訳がわからないとばかりにひとつ息をついた。女神の息吹かな、などとカレンドゥラが思っていると、ヴェルデの何倍も劣る令嬢でしかないストラーナがぽろりと涙をこぼした。カレンドゥラには泥濘程度の価値しかない涙に第三皇子が慌ててその肩を抱いた。あまりにも親密で汚らわしい。カレンドゥラの思っていることと同様のことはまわりの令嬢たちも思ったのか少しばかりのざわめきが起きる。

 カレンドゥラは純白の裾をほんの少しだけ揺らしてからヴェルデの元へと近づく。と、ヴェルデが悲しげに首を振るった。

「カレンドゥラ、ごめんなさいね、せっかくのデビュタントだというのにこのような」

「姉さまはなにも悪くないではありませんか」

 ヴェルデの言葉を遮ったのは失礼だったのかもしれないが、これ以上ヴェルデを貶めるものは誰であろうと許せない気持ちのほうが大きかった。この場には大人もいるが第三皇子が一番の貴人であるので誰もくちを挟めていない。もうすぐ皇帝や皇妃も訪れるはずなのでそれまでにヴェルデとの婚約破棄を成立させたいのだろうことは想像に難くない。

「姉さまの心根が美しいことはわたくしが、このカレンドゥラが一番よく知っております。姉さまのおくちは暴言を吐いたことのない美しさですもの、……淡く色づく姉さまのくちびるから必要もなくおまえの名を出したなど悍ましいことを言うなよ、アルベルゴ伯爵令嬢」

「カレンドゥラ、わたくしを信じてくれるのは嬉しいけれどくちが過ぎるわ、きっと彼女はなにか勘違いをしているのよ」

「なんてお優しい……姉さまがそうおっしゃるのであれば黙りましょう」

 カレンドゥラと親しいものならば誰でも、神はヴェルデより上にひとを造らずヴェルデの下にひとを造りその足元をヴェルデの情けで蠢動しているのだ、と、言って憚らない女であることを知っている。あまりの苛烈さにヴェルデの家族すらドン引きしたほどだ。

 ヴェルデが言葉を止めたことでカレンドゥラは押し黙った。それからヴェルデは第三皇子に向き直ると、この話はこの場にふさわしくはありませんので後ほど、と告げてカレンドゥラの手を取る。純白のオペラグローブがこの深緑色に染まればいいのにとカレンドゥラがその手を包み込むように指を曲げたところで、ごまかさないで! とはしたない大声をあげてアルベルゴ伯爵令嬢が花車なヴェルデの肩を掴んだ。公爵令嬢に対する態度ではなく、さすがに第三皇子の顔色も変わるが、それ以上に顔色を変えたのはもちろんカレンドゥラだった。目にも止まらぬ速さで肩を掴んだ手を力の限りで払いのけて持っているハンカチでその肩を拭うと、呆然と手を見やるアルベルゴ伯爵令嬢にハンカチを投げつけて軽蔑をあらわにした視線でもって対峙した。

「アルベルゴ伯爵家では公爵家が随分と下にあるような教育をなさっておいでですのね、よもやパラッツォ公爵家が長女ヴェルデ公爵令嬢の露出した汚れなき肩を、肌を、独りよがりな激昂の末に掴むような教育をなさる下賎の家だとは思いもよりませんでしたわ。このことはアルベルゴ伯爵家に抗議させていただきますけれども、……ああでも言葉は通じるのかしら、くちよりも手が出るような愚女をデビュタントへ出すようなお家ですものね、畜生よりも言葉の理解は可能なのかしら」

「し、失礼だぞ、カレンドゥラ・パラッツォ! 貴様こそその身に流れる半分は平民の血ではないか!」

「母は平民でしたが生き様はその愚女とは雲泥の差です。それにわたくしは四つの頃よりパラッツォ公爵家の正式な手続きでもって養子となっておりますし、デビュタントに出場できる審査を通っております。その審査は宮内省の職員の方はもちろん皇帝もその書類に目を通しておられるはず……そのような、パラッツォ公爵家を貶めるだけの言葉をデビュタントボールのこの場で吐露するなど皇族としての自覚はお持ちではないのでしょうか。さすがこの世の女神たるヴェルデ公爵令嬢との婚約破棄を望むだけのことはありますね、愚かだわ」

「なんだと……」

 すぐに激昂する第三皇子にカレンドゥラは嘲笑を浮かべて一歩身を進めた。第三皇子の指は帯刀しているその煌びやかな柄にかかっているがカレンドゥラの知ったことではない。

「お似合いですわね、ありもしないことをでっちあげてヴェルデ姉さまを貶めようとするその愚女と、その愚女に懸想してパラッツォ公爵家との繋がりを切る愚かなる皇子、もちろんそちらの有責による婚約破棄でしょうね、この場にいる誰もがそれを確信しておりますけれども」

「おのれ、平民雑じりの分際でよくもわたしと彼女を……」

「このめでたい場をその平民雑じりの血で染めますか。それも結構、ヴェルデ姉さまを貶めた罪はなによりも重く、わたくしはおまえたちを許さない、……どうぞ一刀のもとに斬り捨ててくださいませ、わたくしは死してもこの身でこの場を不浄の地とし、皇族の子子孫孫を呪い、必ずその血を絶やしてみせましょう」

 カレンドゥラの言葉に表情に第三皇子ののどが鳴る。指は柄の上を滑り、恐怖に怯える音しか出さない第三皇子にカレンドゥラは壮絶な笑みを浮かべてさらに一歩踏み込んだ。ヴェルデを侮辱したものは皇族だろうが、神だろうが絶対に許さない。不様に埃ひとつない磨かれた床にへたり込んだアルベルゴ伯爵令嬢に目をやれば汚い泣き顔を晒して後退っている。あまりにも汚い面に怒りをさらに募らせる。よくも美しいヴェルデ姉さまの瞳にそのような汚いものを映り込ませたな未来永劫許さんぞ……という怒りである。


「……皇族がなんとも愚かな、ヴェルデ・パラッツォ公爵令嬢、妹御を止めてやりなさい」


 横槍が入ったことは頭の隅で理解したものの感情が追いついてはいないカレンドゥラの耳に天上の音楽のような美しい声音が入ってきて、カレンドゥラはその底冷えた声音を一気に愛らしいものへと変えた。

「カレンドゥラ、」

「姉さま、お待ちくださいませね、ヴェルデ姉さまの幸せはわたくしがもたらします」

「わたくしの幸せのおはなしだったの? わたくしはカレンドゥラを貶されたことが腹立たしいのだけれど、でもそうね、それならばはやく帰ってお庭でカレンドゥラとお茶をしたいわね」

 なんてこと!

 カレンドゥラはヴェルデの言葉にすぐさま居住まいを正した。悪鬼のような表情は可憐なものへと変貌し、きゅるるんと舞うようにヴェルデの隣に沿う。

 ヴェルデが皇帝へと礼を執るので、カレンドゥラもそれに倣ってヴェルデに完璧だと褒められたカーテシーを執る。未だ尻をついている生まれながらの貴族であろうアルベルゴ伯爵令嬢を脳裏でばかにしながらではあるが。

「まずはこの場を荒らした愚息のことについて謝罪する。そしてこの騒ぎについての非はパラッツォ公爵家及びヴェルデ公爵令嬢にはない、パラッツォ公爵この件についての会談を設けたいのだがいいだろうか」

 皇帝に頭を下げさせた第三皇子と愚女及びその一族の行く末は明るいものではないだろう、心ではにんまりと、ヴェルデに向けては愛らしい笑みでカレンドゥラは暗愚との婚約がなくなったことを神に感謝した。大聖堂にお小遣いを納めてこよう。カレンドゥラの感謝の意は強く、後日大聖堂にて祈りを捧げるカレンドゥラはそれを見た心のうちまでを見ることは叶わなかった画家によって素晴らしい一枚の絵画となった。まあ、天使のようよ、とくちにしたヴェルデのおかげでその画家はカレンドゥラをパトロンに持つことができ、後世にまで残る大作を何点も残すことになる。


 ともあれヴェルデの婚約がなくなってカレンドゥラが四六時中一緒にいられるとご機嫌な日びを過ごしてはいたのだが、すぐさまヴェルデには次の婚約が用意された。ベイス・レスティ公爵令息、パラッツォと同じ公爵家の次男である。有り体に言うと、愚女アルベルゴ伯爵令嬢の元婚約者である。婚約成立のあまりのはやさにカレンドゥラは荒れた。結婚までの時間などあっという間ではないか。敬愛する義父母や義兄が慰めてはくれるもののカレンドゥラの悲嘆が明けることはない。

 しかしその公爵令息が婚約の挨拶に来るというその日、なぜかカレンドゥラもドローイングルームへと呼ばれていた。呪詛を吐きながらも、今日も今日とて麗しいこの世の女神ヴェルデをひと目見れば機嫌が上向くのだけれども。

 レスティ公爵令息はヴェルデよりも少しばかり背の低い、あっさりとした顔をした男だった。しかし腹は黒そうである。

「公爵領の分割相続をなさるのですか」

「幸い兄との仲も良好でして、あまりにも広大な公爵領の管理が行き届かないこともあり、南北で領することになったのです。そのためこちらも結婚を進めていたのですがご存じの有様でして」

「あの愚女に公爵夫人は務まりませんでしょうに」

 カレンドゥラの言葉に令息は苦笑して、彼女の兄は同窓でとても優秀でしたので、と告げた。愚女への気持ちはさほどなかったらしい、優秀さの可能性に賭けたのだろうが大敗したというわけだ。

「デビュタントボールでの凛としたお姿に見惚れまして、願わくば縁を繋ぎたいと思ったのです」

 見る目がないわけではないのか。カレンドゥラはひとつ感心はしたものの、いや誰だって姉さまを欲しがるわよねそりゃあそうよ、この鳶野郎め、とやはり憤慨した。

「しかしひとつ、無理な願いもありまして」

 鳶野郎ことレスティ公爵令息はちらりとカレンドゥラに目を向けた。この世の女神、カレンドゥラが宗教者になるのなら神に据えるのはヴェルデより他にないと思うほどの尊い存在を前によくもこちらに目を向けることができるな貴様、と思っていると、この国では複婚が認められているのはご存じですか、と、とんでもないことを言い出した。

「は?」

「もちろん妻にする全員の同意が必要で恐ろしいまでの手続きも必要です。認められる例は多くはない、認められても数人の妻がその立場に不満を持てば莫大な生前分与を持って離婚をしなければならないというリスクもあります……が、こちらとしては複婚をせねばならない理由がある」

「姉さまに婚約を申し込んでおいて複婚を希望するだと……まずその舌を抜くことから始めようかレスティ公爵令息、」

「はは、苛烈だ。その盲目的な愛が叶う方法はひとつだと思われませんか、ご令嬢。ヴェルデ公爵令嬢が良しとすれば、こちらはカレンドゥラ公爵令嬢をも妻と迎えたい」

「……は?」

 姉妹を娶りたいとまず打診された公爵は怒りに立ち上がりはしたものの、本来ならば従姉妹であるふたりなので問題はないが倫理観が破綻しているのではと少しばかり悩みつつも腰を下ろした。

 なにを悩む要素があるかというとカレンドゥラの将来である。なにしろカレンドゥラはヴェルデとヴェルデ以外で区別する節があるからだ、あれではどこかへ嫁いだとしても優先すべきはヴェルデという態度を崩しはしないだろうし、邪魔をするものは婚家でも断ち切ろうとするだろうことが想像に難くないからだ。もちろん家族を敬愛していることはわかるし領民も庇護する立場にあるのだとわかってはいるが、根底にあるのは「ヴェルデ姉さまのご家族がわたくしと至高の存在であるヴェルデ姉さまとの縁を繋いでくださったのだ」というありあまる感謝からのものだし、領民もヴェルデの住まう領地の領民なのでなんなら信者の一員だわよねもちろん、くらいに思っているに違いないと確信している。恋を知り全てを捨てた公爵の弟と同じ気質なのだろうなと、悪い方面へと進んでいないことを理由にそれほど諌めてもこなかった公爵は姉妹で娶られることの有意義さに気づいてしまった。ヴェルデももちろん優秀ではあるが、公爵令嬢としては他人の悪意に疎いところがあるので第三皇子との婚姻にも一抹の不安は抱えてはいた。しかしカレンドゥラが一緒だというのならばある程度の悪意などものともしないだろう、しかもヴェルデも平民から公爵家に引き取られてからの努力を知っているのでカレンドゥラの家族以外への態度の苛烈さも自他共に厳しいが故の態度だと思っている節があり、カレンドゥラがなにをしでかしたとしても一線を越えない限りはかわいい妹という認識は崩れそうにもない。パラッツォ公爵はレスティ公爵令息の提案こそ最上なのでは? と思い直した。

「ええと、ヴェルデ、その」

「お父さま、わたくしは理由はどうあれ一度婚約を破棄された身、それを望んでくださるだなんてこんな幸運なことはありません。カレンドゥラも一緒だというのなら心強いわ」

 姉さまは悪くありません! と今まさに叫ぼうとしたカレンドゥラであったが、続く言葉で腰が砕けたのか喜びが全ての感情を消し去ったのか、くちびるだけがヴェルデ礼讃の形を取っていた。

 

 ともかくとしてパラッツォ公爵家と分領しノルドゥ・レスティとなった公爵家はともに繁栄し、カレンドゥラは女神であるヴェルデの赦しもあったことで皇領を賜ることのできた第三皇子とその妻となった愚女の領地にまわりくどい嫌がらせを続けながらも、今日も麗しく優しく〜略〜なヴェルデとともに楽しく健全に讃えながら布教しながら過ごしている。

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