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零咒 ~異世界【TOKYO】ダンジョン~  作者: R09(あるク)
第一章 渋谷七人ミサキ編
61/65

第61之幕 零咒・九星の式

第61之幕


 正直、憂太に勝算があるわけではなかった。


「“不可侵ふかしんの祝福”……」と、璃花子は語った。

 いかなる攻撃をしても、あのウエディングドレスが“祝福”に浄化して無効化してしまう。

 璃花子がこれまでに受けた心の傷の数々……。

 傷つけられることから逃れたい人生だったがゆえに発動した“しゅ”と言えるが、そんな呪いを具現化してしまう力が『TOKYO』にはあるということになる。

 果たしてこの『TOKYO』ダンジョンには他にどのような秘密があるのだろう。


 憂太の攻撃も無効化される可能性が大だろう。

 だが、何もしないわけにはいかない。


 ほんの数十分……。

 憂太が眼を離した数十分で、普段から絡みはあまりなかったとはいえど、三人のクラスメイトが凄惨に殺された。


(もし僕に力があれば……。もし僕が怪異に対する経験がもっとあったら……)


 後悔は絶えない。

 どんな形であろうと、自分に協力しようと考えてくれた同級生たちだ。

 ふつふつと怒りが湧き上がる。

 正直、彼らのことを憂太はあまり知らない。クラス内でもほぼ会話を交わしたことがない。

 それでも彼らの死に対して、無念や憤り、遺恨いこんを晴らしたいと思ってしまうのは、やはり自分が“人間”だからか。


 璃花子の前に立ちふさがるのは無謀とはわかっていた。

 それでも憂太は、大日如来の破魔の剣を出さざるを得なかった。


急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 その叫びとともに、破魔の剣を振り下ろす。

 しかし、それはあっさりとかわされてしまった。

 一瞬にして璃花子の頭部が目の前から消えたのだ。


 璃花子の首は再び、渋谷の夜空を駆け巡る。

 その速さで、風が悲鳴を上げる。

 まるで無数の白い首が、空間を切り裂いているかのようだった。


「キャッ……♡」「クスッ……♡」


 璃花子の声があちこちから響く。耳ではなく、脳髄を直接叩くかのように。

 首が一つ、二つ、十、二十――速度は音を越え、視界は霞んでいた。


(速すぎる……“式”の演算が追いつかない)


 憂太は深く息を吸い、意識を集中させる。

 足元の水面から、九つの星がゆっくりと浮かび上がり、周囲の空間が震え始めた。


『ほう。陰陽九星おんみょうくせいか……』


 蘆屋道満がつぶやく。

 その言葉に吉岡鮎が反応する。


「ウサギさん、それ何?」

『ウ、ウ、ウ、ウサギではない!』

「いいから!」


 蘆屋道満は仕方ないといったふうに答えた。


『……聞いたことあるのではないか? いわゆる一白水星、二黒土星、三碧木星、四緑木星、五黄土星、六白金星、七赤金星、八白土星、九紫火星のことだ』

「それって、四柱推命の?」

『そう思ってかまわん。元は陰陽道の信仰の星じゃからな』

「陰陽道の信仰の星……」

『だがあの式は、儂の知らぬ式だ。おそらく小童こわっぱの“零咒れいじゅ”という流派の式であろう』

「れいじゅ……?」


 鮎が不思議そうな顔を見せる。


『ええい! とりあえず見ておけ!』


 道満はムスッと黙り込んでしまった。


 そしてそのかんも、璃花子の首は憂太、ニア、エリユリへの攻撃を続けている。

 ニアは眼はおそろしく良い。

 璃花子の伸びて来る首の軌道を見て、攻撃先を予測しながらかわしている。

 だが完全にかわしきれるわけもなく、躰中があざと切り傷だらけだ。

 そのニアが、モロに腹に頭突きを食らって、吹き飛んだ。

 背後の飲食店のガラス窓を破って、その闇へと消えていく。


「エルヴン・テンペスト!」


 エリユリも戦い慣れた戦士である。

 彼女は遠方から、あまり動きがない胴体へ向けて必殺の矢の攻撃を放っていた。

 夜の大通りを埋め尽くすような矢の嵐。

 だが“不可侵ふかしんの祝福”によって、それらの攻撃はすべて無効化される。


「もうっ! どうしたらダメージ与えられるのですかっ!」


 まるで森の木々の枝を飛び回るかのごとく、渋谷のビル群を飛び回りながら、エリユリは癇癪かんしゃくを起こす。

 そこへジグザグに璃花子の首の雷のよう攻撃が襲ってきた。


 エリユリが悲鳴を上げる間もなく、エリユリの顔の数センチ先に璃花子の顔がある。

 そして呪いの言葉を呟きかけた瞬間。


「え……」


 エリユリの躰は、憂太に抱きかかえられ、いつの間にか璃花子の躰の背後へと瞬間移動をしていた。


「ゆ、憂太さん……なんで?」

界星かいせいの式……」と憂太は言う。


五黄土星ごおうどせいである界星かいせいの式を使ってみた」

「か、かいせいのしき……?」

「うん。空間や次元の境界を操る術式だよ。異界への扉を開いて空間の切断を行える。封印なんかもできる」

「えええええええええ!」


 エリユリは眼を丸くし、そしてガバっと憂太に抱きついた。


「すごい、すごいすごいです憂太さん! やっぱり強いですううううううううううう!」

「ちょ、やめ……。また攻撃が来る!」


 正直、今の憂太では璃花子の首の動きを眼で捕らえることはできない。

 一か八か、憂太は真言を唱えた。


「ムワク ソワカ、シュウジン イチカ!」


 四緑木星しろくもくせいにあたる霧星むせいの式だ。


(これで幻の霧を発生させ、敵の視覚を遮る……。混乱をも生み出す式だが……)


 その直後だった。霧を切り裂き、憂太の顔のすぐ横を、何かが勢いよく通り過ぎた!


「エリユリ、ごめん!」


 そう言うと憂太はエリユリから手を離す。


「キャッ!」


 エリユリが水面に尻もちをつくのと同時だった。


「オン バザラダト バン!」


 憂太は破魔の剣で、下からその突風を斬り上げた。

 鼓膜を破くような悲鳴が渋谷の夜を震わせ、璃花子の斬られた首と頭部が、空を舞った。

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