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零咒 ~異世界【TOKYO】ダンジョン~  作者: R09(あるク)
第一章 渋谷七人ミサキ編
58/65

第58之幕 大嶋唯の悲劇

第58之幕


「……!?」


 再びTOKYOダンジョン、渋谷センター街ゲート下──。


『――目覚めたか、小僧』


 憂太は暗闇の中で目を覚ました。瞼を開くと、視界が揺れ、まるで水の中にいるかのような感覚に襲われる。心臓が鼓膜を打ちつけ、頭の奥がずきずきと痛んだ。

璃花子りかこ……?」

 彼は呟いた。しかし、その名前は虚空に溶け、何の返答も返ってこなかった。まるで先ほどまで見ていた夢が現実のすべてであったかのような、そんな錯覚に陥る。だが、違った。ここは――現実だった。


『おう、そうよ。小童こわっぱ。貴様、また怪異に取り込まれておったんじゃ』


「大丈夫! 式守くん!」


 吉岡鮎が眉間にしわを寄せた心配気な表情で駆け寄ってくる。


「怖かった……式守くん、だって、まるで私の声に反応しないんだもの」

「……璃花子は、あのウエディングドレスは!?」

 憂太は鮎の言葉に答えず、周囲を見渡す。

『あわてるでない、小童こわっぱよ』


 ウサギ……いや、蘆屋道満が憂太の顔の前まで飛ぶ。


『今回は儂も同時に身半分、取り込まれた。だからしっかり見ておった』

「半分……そんなことができるのか……」

『貴様が何を見てくるか、わかったもんじゃないからな。――結論からいえば、あれはこの地に巣食う“咒”よ。しかも結構厄介なものよ』

「この地に巣食う……?」

『おうよ小童こわっぱ。貴様、あの横路璃花子よころりかこが何人を殺したか見てきておっただろう』


 道満に言われ、憂太は指を折って数えていく。最初に堕胎した赤ん坊、その父親、千尋、加奈子、そして璃花子の父と母、最後に松郎……。

「4、5、6……7人……」

 自信が持てなかったので何度か数え直した。

 彼女にかかわった人間、その一つ一つを思い出し、そして次は道満の作り物の眼を見ながら言う。

「7人だ……!」

『そう。その7人というのが厄介だ。璃花子は強力な“おん”を抱いて自ら生命を落とした。その“怨”の強さがある法則を捻じ曲げてしまった』

「まさか……」


 憂太は声を上げる。


『そのまさかよ』


「“七人ミサキ”……!?」


 自分で言葉を発しておきながらも信じられなかった。

 だが道満の迷いなき言い方……。

 そうだ。これは真実だ。


『間違いなくそうであろうな』

「そんな……。どうすれば……」

「ちょっと待って、憂太くん……! その“七人ミサキ”って何なの?」


 当然のように鮎が割り込んでくる。


「あと、このウサギのぬいぐるみさっきから喋ってるけど何者?」

 しまった! と憂太は思った。

 だがもうこうなってしまっては隠していても仕方がない。

 道満も堂々と名乗りを上げる。

『ようやく、儂のことが気になったか。そうよ、我こそは……』

「まて。道満。今はそれを話している暇はない」


 それどころじゃないのだ。

 不機嫌になる道満。

 だが、見れば、先程、道満によって一撃で葬られたはずの巨大な赤ん坊の霊が復活しつつある。


「何あれ!?」


 散り散りになった肉片が、まるで渦を巻くように、その中心へ向けて集まっていく。


 ドクン!

 ドクン!

 ドクン!


 血の気の引くような鼓動音を上げながら……。


「吉岡さん! さっき空を飛んでいたウエディングドレスの怪異はどこへ行った!?」

「そのまま道なりに、神泉駅方面へ……」

「よし。追うぞ道満! 相手が七人ミサキであるなら、どれだけ戦っても無駄だ」

『呪いの元を断つ、か……』

 憂太は頷く。

「さあ、行くよ、吉岡さん!」

「え、ちょっと待って。私、何もわからない……!」


 それを聞くこともなく、憂太は吉岡鮎の手を握って神宮通りを走り始めていた。


 ドクン!

 ドクン!

 ドクン!


 だが、あの海座頭の成れの果て……巨大な赤ん坊の怪異の心臓の鼓動はどこまでも聞こえる。


「いやだ。憂太くん。あの音、止めて……」

「難しいな」

 そう憂太は答えた。

「あれは七人ミサキ……」

「う、うん……」

「もともとは四国あたりで伝えられている怨霊だ」

「そんなものがなんで?」

「わからない。でも七人ミサキは殺された者たちの怨念が強く、輪廻から外れた時に発生する怪異だ」

「七人っていうのは?」

「元々七人で構成されているからだ」

「七人……」

「そう。そして殺された者の恨みが強ければ強いほど、この怪異は強力になる」

「うん」

「そして最も厄介なことは……」

 憂太は鮎の眼を見た。

「不死身なんだ……」

「不死身……!?」


 鮎は目を見開いた。それはそうだろう。相手が死なないというのなら、どのようにして対抗、倒せばいいのだ。


『それはちと違うぞ。小童こわっぱ

 そこで道満が訂正する。

『七人ミサキは七人で行動する怨霊じゃ』

「つまり……」

『一体一体を倒しても意味はない。やつらは常に七人で増減することが絶対にないのじゃ』

「うさぎさん、どういうことなの? よくわからない……」

『うさぎさん!?』

「だって、うさぎさんでしょ、その格好」

『ぐぬぬぬぬぬぬ』


「いいよ、道満。君のことは後で説明しよう」

 先程からストレスを貯めてそうな道満の言葉を憂太が引き継ぐ。

「七人ミサキという怪異に出くわせば、たいていの者は殺される。不死身だからだ。取り殺されたりもする。その取り殺された者は新たなミサキのメンバーになり、古参のメンバーから成仏していく」

「つまり、普通に攻撃しても、倒せない」

「そう。成仏させるしかない」

「そして成仏させるには……」

「大嶋……さんを覚えているか……」


 憂太がつらそうな声を出した。

 鮎がハッとした表情をする。


「あれはイレギュラーな事態だったんだ……。あの時、加奈子……八尺さまは確かに倒された。だが本来ならば復活するはずだったんだ。だが、そこに取り殺された者が現れた……」

「大嶋さん……!」


 鮎も思い出したようだ。

 そうだ。確かあの時……。


 八尺さまは大嶋唯の肉体を食い破って現れた。

 その時点で、成仏のシステムが動き出していたのだ。

 だからであろう。


 大嶋唯は七人ミサキのメンバーとなってしまった。

 加奈子と入れ替わり。

 そして加奈子は倒された……。


「だから、八尺さまは消えた……。大嶋さんの犠牲とともに……」


 憂太と鮎は道玄坂を駆け上がっていく。

 やがて夜空にひらひらと白いものが見えた。

 横路璃花子だ!

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