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零咒 ~異世界【TOKYO】ダンジョン~  作者: R09(あるク)
第一章 渋谷七人ミサキ編
38/65

第38之幕 呪術師殺し

第38之幕


挿絵(By みてみん)




 その少年の背後では、首を討ち落とされた『カナコ』の屍体が光る霧と化していっている。青白く光りながら霧散していく幻想的な風景にその場にいる誰もが見惚れていた。

 黒尽くめの少年も、皆の視線を追って振り返った。

 そしてさらに険しい表情で憂太へと向き直る。


死反まかるかえし……。呪術を用いた調伏ちょうぶくでなければ現れない現象だ。貴様の光るやいば、そして面妖な兎の人形ひとがた。もしかして陰陽師か?」

「陰陽師……?」


 そう聞かれて最初に口を開いたのは吉岡鮎だった。


「そんなわけないじゃない! 私は単なる女子高生。勝手にこの異世界に転移させられて……」


 だが鮎の言葉はそこでだった。

 その時にはすでに、この少女のなめらかな喉元には、少年の日本刀がかけられていた。

 速い!

 瞬間移動でもしたかのようなスピード。

 思わずあごを上にあげ、震えている鮎に少年は警告めいた声でささやく。


「お前に聞いたんじゃない」

「あ……あ……」


 鮎はへなへなと路面に崩れ、そのまま尻をついた。

 このスピードとキレのある少年の動きにニアもエリユリも呆気にとられる。


 一方、憂太は「陰陽師」という言葉に反応していた。

 この異世界にあって、しかもこの人喰いダンジョンと化した「TOKYO」で、まさかその言葉を口にするとは。

 ユマが「どういうことですか?」と憂太を見る。「まかるかえし……って何?」とアーシャも怪訝な表情をする。


 憂太は「破魔の剣」の柄であるヴァジュラを強く握りしめた。

 何が「お前は何者だ?」だ。こちらこそ「お前は何者だ」と問いたい。


 少年の身長は165cmの憂太よりさらに小さい。150あるかないかだ。

 ざんばらの黒髪は逆立ち、その一本一本から呪力を感じる。

 身につけた黒の衣装は時代劇でよく見る忍者によく似ている。

 腰回りにボロ布のようなものを巻いて帯として使っている。

 下半身は忍者のそれとは違い、足元でキュっと締まっている。

 和服であることは間違いはないが、見たことがない扮装だ。


 だが、最も特徴的なのはその眼。


 ギョロリと大きく、そこに何やら不気味な光を放つ真っ黒な小さな瞳が座っている。

 その瞳の奥に、憂太はなにか“哀しみ”のようなものを見た――。


 少年の『カナコ』を一刀両断にした力、そして鮎を襲ったその素早さ。

 憂太は正直、怖い。人見知りである上に、そんな瞳で睨みつけてくる人、話したくない……。

 業を煮やしたのだろう。少年は再び強い口調で憂太へと問うた。


「お前、陰陽師か。どこの者だ」

「ど、どこの者って……」

「師は!? 流派は!?」

 憂太はその勢いに気圧されながらぽつりとつぶやいた。

零咒れいじゅ……」

「零咒?」


 少年はゆっくりと憂太へ向かって歩いてくる。


「聞いたことがない」

「…………」

「だがその襟に型どられた五芒星。お前、安倍晴明の関係者だろう」

「……けい……ないだろ……」

「何?」

「関係ないだろ!」


 憂太は叫ぶ。


「そんなことより、お前は誰なんだよ! なんでこの『TOKYO』にいるんだ。ここに人は住んでないはず……」

「いや。待て、勇者よ」


 そう会話に割り込んだのはトレシアだった。


「聞いたことがある。ここ『TOKYO』に、過去の『空亡』で挑んだ勇者。数百年前になるか。召喚された勇者のうち数人が行方不明になり、その亡霊が彷徨っていると」

「亡霊……だって?」

「ああ。他は全滅したと聞く。あくまでも伝説だが、その生き残りが亡霊となって今もこの『TOKYO』で何かを探し続けていると」


 ――過去の勇者……。


 その時、心の中に道満の声がした。

 道満、つまり小さなピンクの兎の形をした式神は、すでに憂太の顔のすぐ横に浮かんでいた。


『気をつけろ、小童こわっぱ。こいつ、呪術師殺しやもしれん』

(……呪術師殺しだって?)


 憂太の表情にさらに緊張が走る。


『ああ。わしが霊魂となって彷徨っている間、時代は次から次へと過ぎた。そして永正えいしょうの世……貴様らの言葉で戦国時代と呼ばれた頃、陰陽師や呪術師が影で暗躍し、その陰陽師や呪術師を暗殺するための集団が生まれたと聞く。名を六道衆りくどうしゅう。あの扮装、独特の呪力。剣さばき。六道衆の生き残りと考えてもおかしくはない』


 こう聞くと道満にも不思議なところがある。

 この『悪業罰示あくぎょうばっしの式神』に封じられるまで、どこでどうしていたか、だ。

 だが今はそれを聞いている余裕はない。憂太は道満に言い返す。


(何だよそれ。大体、何でお前、そんなこと知ってるんだよ)

『ええい。うるさいガキじゃ。わしじゃってこの死反まかるかえしの中で、さまざまなものを見、さまざまな書物に目を通してきた。まあ貴様には黙っておきたかったがわしは神に近い存在となり、なんせ千里眼を手に入れておるからな』


 死反まかるかえし――!?


 憂太は「千里眼」より、少年が発したその同じ単語に反応した。


『わしの千里眼は相当な物事を見通してきた。もはやこの世に生き字引と行っても良い』

「それだ、道満!」

『ん?』

「その死反まかるかえしって何なんだ?」

 

 いつの間にか、憂太は声に出して道満と会話していた。


「教えてくれ、道満。それだよ。その言葉。死反まかるかえしって何なんだ?」

『ちょ、ちょっと待て』

死反まかるかえしってなんだよ!」

『そっちかよ』

死反まかるかえし、聞き覚えがあるんだ。確かお母さんが教えてくれたような……」

『だああああ。千里眼だぞ、千里眼! もっと聞くことあるじゃろ、わしに! おい!』


 そんな気の抜けるやり取りを続ける憂太たちを見て、少年の瞳は怒りを宿した。

 そして一瞬で。

 憂太の鼻先に少年の刀の切っ先が突きつけられる。

 少年は憂太を睨みつけながら言った。


「なるほど、それは『悪業罰示あくぎょうばっしの式神』か。お前は、道反ちがえしの怨霊を使役しているというわけだな」


 これに道満は憤慨する。


『なんと。わしを道反ちがえしの者と呼ぶか』


 だが、同時にその反応に少年も驚いた。


「自我がある……!?」


 そう。普通、式神は使役されるのみ。

 自我があったとしてもそれは術者に作られた偽りの自我だたからだ。


『おお、あるわい! わしを誰だと思っておるんじゃ!』


 この道満の言葉に警戒して、バッと少年は憂太から距離を置いた。

 そして日本刀をさやに収める。体をひねり、その尺の長さを見えなくし……。


 居合い切り。

 一瞬で相手を一刀のもとに露にする剣術の代表格。

 空気が緊迫した。

 明らかな殺気がそこにあった。


 だが。


「道満、道反ちがえしって何だ?」

『へ?』


 憂太の言葉に道満は怒り沸騰となる。


『だあああああああああ! この空気でそれを聞くか、普通! お前の頭は花が咲いておるのか!?』

「だって。僕のことを聞かれているのに、その僕が話についていけない……」

『やっかましいいいいい!』


 たまらず道満は雄叫びを上げる。

 なんなんだ、この小僧の抜けっぷりは!


道反ちがえしとは道に外れた外道のことよ』

「外道……」

『あとついでに死反まかるかえしとは、黄泉へ行くことを認めずこの世に留まる魂。または霊力そのもの!』

「霊力そのもの……」

『ああ、そうじゃ。あの八尺もある女のバケモン。それが霧のように光りながら散っていっただろう。あれが死反まかるかえしじゃ。お前はそんなことも知らんのか』

「そうか、あれが……」


 黒尽くめの少年は居合い切りの体勢を取ったまま動けない。

 臆してしまったのだ。

 いや、驚いたというべきか。

 完全に居を疲れたというべきか。


 式神に自我があるというだけでも驚きなのに、さらにいえば、この式神は……。


(なんという律儀な……)


 理解していない憂太にしっかり説明をして聞かしている。

 こんな面妖な二人組、いや術者と式神……。


(見たことも聞いたこともない……!)


 危険だ、と思った。

 ゆえに気持ちが急ぎすぎた。

 それは中途半端な技となってしまった。


 少年が刀を抜き。

 眼にも留まらぬ速さで。

 憂太と道満を一気に斬りにかかろうとした瞬間。


 ――()()()()()()


 それは真言=陀羅尼だらにを用いない、蘆屋道満の怨霊そのものが持っている呪力。

 いわば「气」そのもの。


 油断もあったろう。

 斬りかかった少年は見事に吹き飛ばされ。

 崩れかかっていた「106」ビルに激突し、その「106」ビルもその衝撃で一気に崩壊していった。

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