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零咒 ~異世界【TOKYO】ダンジョン~  作者: R09(あるク)
第一章 渋谷七人ミサキ編
27/65

第27之幕 殺戮の幕開け⑨ 【渋谷「106」ビル屋上】

第27之幕


「何!? 今の……?」


 眼の前でさいの目状に切り刻まれて路面に崩れる三人官女を見て、大嶋唯は思わず目を見張る。その唯に、田中幸子と吉岡鮎の二人が飛びついてきた。


「怖かったよ~!」

「唯ちゃん! 唯ちゃん!」


 二人に抱きつかれてよろよろしながらも唯はしっかりと幸子と鮎を抱きしめた。

「もう大丈夫! 大丈夫だからね」

 その傍らに憂太は下りた。ヴァジュラから伸びている光の剣はそのままだ。

「憂太……それ……」

 ニアが憂太が握るヴァジュラの剣を指しながら言う。

「まだだ! 油断しないで」


 憂太はこの毘沙門天の破魔の剣を中段に構えたまま周囲を見渡した。

(気づいたか、小童こわっぱ

 ピンクのウサギ、道満が心にささやきかける。

(あのヒトガタ……とんでもないけがれを溜め込んでおるぞ)

(うん、分かる……)


 切り刻まれた三人官女から、もやのようなけがれが流れ出している。それが膨れ上がり、上空へと立ち上り、そしてスクランブル交差点のほうへと流れていく。


(あれは単なるヒトガタではないな。もはや『鬼』だ。付喪神つくもがみのような妖怪のたぐいでもない)

(あの一体一体が全部、『鬼』……。そこまでのけがれがどうして……)

(──来る!)


 道満のその心の声と同時だった。憂太が放った大麻おおぬさが何者かの力によってすべてポキポキポキポキと順に折られていったのだ。


(結界が破られたぞ!!)


 言われないでも理解していた。結界をも破る『鬼』の群れ。今、憂太らが立ち向かっているのはそれほど強力なけがれだ。憂太の額から冷や汗が滑り落ちる。

 結界が破られた以上、ここに固まっているのは危険だ。なんとか広い場所へ出なければ。

 そうなれば。


「みんな、こっちへ!」


 憂太は皆を率いてスクランブル交差点の方へと走った。あそこには相当数の雛人形がいる。だがそれよりこの狭い場所で塊になっているのはさらに良くない。

 そしてハチ公像の前を走り抜けた時、想像通りの事態が起こっていることに気づいた。

 そう。スクランブル交差点の手前に張っていた大麻おおぬさもすべて、へし折られていたのだ。

 つまり、そこに腰を据えている雛人形たちから憂太たちは丸見え。

 その眼が開けば……。

 憂太は振り返り、手で制して全員の足を止めた。


「な、なんだよ、式守……」

「あ、あれっ! さっきの人形があんなに……!」


 スクランブル交差点に点々としている等身大の雛人形。その数に皆が驚いている間に、憂太はヴァジュラに力を込めながら妙見菩薩みょうけんぼさつの真言を唱える。


「オン ソチリシュタ ソワカ」


 同時にその場全員のからだが薄く光り始めた。

「憂太、今、何したの?」

 そんなニアに憂太は口早に答える。

妙見菩薩みょうけんぼさつの加護をかけた」

「みょうけんぼさつって何ですか?」


 エリユリが首を傾げる。


「天帝。もっと分かりやすく言うと北極星だ」

「どういうこと?」

「前に宿屋のベッドの上で怪異を見ただろ。あれのもっと強い術式だ。つまり、僕のような陰陽の力を持たなくてもある程度、それと似た力が付与され攻撃が通るようになる」

「お前! 虎井があんな目にあって殺されたのに、またオカルトかよ!」


 激昂した久世が憂太の胸ぐらを掴んできた。くそっ! またこいつかよ! 一体いつになったら自分が置かれた状況を理解できるんだ!


 その久世の手首を最終旋律デスワルツのギルドマスター・トレシアが握った。


「待て! ……本当か、それは?」

「ほ、本当です」


 憂太は答えた。


「今、皆さんに北極星の力を付与しました。北極星は道教では宇宙の根源的な真理を表す最高神。怪異に対して力を振るうことができる術式を皆さんのからだに刻みました」

「それはバフ……つまり能力向上のようなものですか?」とドラゴンニュートのユマ。

「そう考えてもらっていい。どれほど攻撃が強化されるかは僕も初めてだから分からないけど、多分数倍は戦いやすくなっていると思う」

「ちょ、ちょ、ちょ! 待てよ、待てよ! まさかみんな、こいつの言う事を信じるのか!?」


 また久世だ。


「単なるインチキ野郎だぜ、こいつも、こいつの親も!」

「イ、インチキなんかじゃない……!」

「イカサマ霊媒師なんだよ。嘘ばっかり言って人を怯えさせてよ。注目を集めたいのか何なのか知らんが、そんなことばっか言ってるからクラスでも爪弾きにされてよ」


 クラスで特に僕を孤立させている原因になってるのはお前のせいじゃないか。

「いや、待て。言い争っている場合じゃない」

 白狼族のアーシャが久世の言葉を遮った。そのノコギリ状になった刀を構えてニヤッと笑う。


「だって、もう殺るしかねーだろ。その勇者さまの言葉が嘘だろうが本当だろうがよ」

「そ、そうだよ。うちは憂太の言うこと信じる」とニア。「うちらは何度も憂太の不思議な力を見てきた。さっきだって、あの大きな人形を一瞬でバラバラにしたっしょ?」


 エリユリが続く。


「私は弓と治癒魔法しか使えないから後方支援しかできないですけど、私も憂太さんを信じます。そこの人間不信でぶん殴るだけのDV男は引っ込んでいてください!」

「に、人間不信でぶん殴るだけの……DV男……?」

 久世が目を白黒させる。

「俺が、DV男……!?」


 いかにも自分は喧嘩自慢の勇者でございとでも言わんばかりの動揺ぶりだ。


「だってそうじゃないですか! さっきから何ですか! 憂太さんにばかり当たって! なんもできないくせにエラソーに!」

「な、なんだと! 俺は……俺はなあ!」

「久世くん。式守くんはみんなを助けようとしてくれているんだよ」

 大嶋唯がツカツカと歩いてきた。

「私、こっちの世界に来てから式守くんとよく話すけど、式守くんは嘘をつくような人じゃない。私、信じてる」

「大嶋、お前まで騙されてやがんのか? このイカサマ霊能者に!」

「私は騙されてない。そんなに馬鹿じゃない。だから、私がそれを今から証明する!」


 言うや否や、であった。

 唯は自身に与えられた魔法の力を放ち始める。

 ブワっと水属性のオドが沸き立つ感覚を憂太も感じた。


「大地よ、氷の力を解き放て……」

 急速に周囲が冷えていく。

「その爆発的な寒気で敵を包み込め!」

 そして唯は魔法の杖を雛人形の群れに向けて指し、こう叫んだ。

氷の極光アイスオーロラバースト!!」


 瞬間! スクランブル交差点の空間に美しく輝く氷の嵐が出現した。氷のオーロラが舞い踊り、目眩ましとなる。さらには雛人形たちを凍らせていき、動きを封じ……。


 だが。


「上っ!」


 ニアが叫ぶ。頭上から、例の頭が背中を向いたオカッパ頭の幼女の怪異が集団で襲ってきたのだ。

「任せてくださいッ!」

 これにユマが対応する。上空に向けて咆哮を放つ。

「ドラゴンブレス」。その燃えつくような息の波動。

 これにより幼女の怪異を一斉に燃え上がらせ、一瞬にしてそれを灰塵かいじんと帰した。その威力にユマ自信も驚く。

「ウソ……。こんな初歩的な攻撃で……?」


 これを見てアーシャも、ニアもエリユリも勢い立った。

「やべえ! マジじゃねえか……」

「すご! これイケる!」

「さっきとは雲泥の差……!」

「よし、みんな。これからが本番だよ!」


 トレシアがその自慢の大刀を構え、それぞれが幼女の怪異へ、そして雛人形の怪異へと散っていく。

「お、おい……」

 憂太と憂太の胸ぐらを掴む久世を残して。


 ◆  ◆  ◆


 ──そのスクランブル交差点の向こう。


「106」と書かれた看板のあるファッションビルの屋上にこれを見ている小さな人影があった。

 ボサボサの黒髪。ぎょろりとした眼に似合わぬ小さな瞳を持つ三白眼。腰には日本刀のようなものを差している。


 その者は、懐から取り出した真っ赤な林檎をシャクリと齧った。

 そして意気揚々と戦い始めるトレシアらの集団を見ている。

 シャクシャクと林檎を咀嚼するその男。


「あいつら、死ぬな……」


 はるか上空からスクランブル交差点を見ながら男はつぶやき、またシャクリ、と林檎を齧った。

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