第22之幕 殺戮の幕開け④ 【渋谷駅前ハチ公広場】
第22之幕
「まさか! トレシアさんのギルドがですか?」
唯は驚く。ついさっきレストランでニアやエリユリから、トレシアのギルドの名声をつ聞かされていたばかりだったからだ。
「ああ、そうだよ。だから神官たちは、この『TOKYO』ダンジョンのモンスターに対抗できる世界の人間たち……つまり、あんたらを召喚したのだと思う」
「そんな。私たちなんて、普通の高校生なのに……」
これに『最終旋律』の一角、白狼族のアーシャが答える。
「なにか、存在の大系そのものが違うんじゃねえのか。実際、アタシだってこの『TOKYO』ダンジョンの怪物たちにどのような攻撃をしていいのか分からない」
ドラゴンニュートのユマが続いた。
「まったく攻撃が効かないというわけではないんです。現に私の火炎攻撃はある程度のダメージを彼らに与えられました。ですが私の斧……地上のモンスター相手では敵なしと私自身、自負しているものですが、なぜか手応えのようなものが違って。クリティカルしないといいますか……」
「いわば、私らにとって『TOKYO』ダンジョンの怪物は、昼間、空に浮かぶ月のようなイメージって感じかな」
トレシアも言う。乱れた金髪を整えながら。
「眼には見える。だがそこに本当に存在するのか……。いくら手を伸ばしても届かない、まるで空に浮かぶ幻想の海月でも相手しているかのような、そんな不思議な感覚なんだ」
トレシアの自信なさげな表情を見て、これはただ事ではないと唯は息を呑んだ。
これに反応したのは意外にも吉岡鮎だ。
「そ、それじゃ、私たちの攻撃だったら倒せるってことですか? 私たちなら……」
トレシアは頷く。
「伝承ではそうだ。ゆえに私たちはあんたらを勇者と呼ぶ」
「じゃあ、俺のこの魔剣の攻撃も当たれば……」と久世。
「そうだね。『TOKYO』ダンジョンの怪物にダメージを通すことができる不思議な存在。異世界の戦士、それがあんたらだ。もしあんたが本気で戦えば……。間違いなく大きなダメージを与えるだろう」
トレシアが答えたと同時に、久世と虎井は顔を見合わせた。
「お、俺たち、あいつらぶっ飛ばせるんだな」
「ああ、俺らならできるって」
「だとしたら」
久世と虎井の表情に冷静さが戻る。
「面白くなってきやがった」
先ほどまでの怯えはどこへやら。久世と虎井はそれぞれの武器を勇壮に構えた。
「この魔剣だったら、あいつら切り裂けるんだな」
「俺の槍だってきっとそうだ。最初からこの槍を使えば……」
「ようやっと顔つきが変わったな」
トレシアは満足げな笑みを浮かべる。
「ならば、この状況、任せられるかな」
「この状況……?」
トレシアはすでに身の丈を超えそうなほどの大きな両刃剣を構えていた。
アーシャは、刃の部分がノコギリ状になった青竜刀のような刀を。
ユマはその小さな体に似合わぬ巨大な斧を両手で握る。
トレシアの言葉に、やっと久世らもその気配に気がついた。
柱の陰。
自動販売機の隣。
アオガエルと呼ばれる旧車両の上。
地下鉄入口の屋上部分。
まるで彼らを囲むように、ありとあらゆる場所に。
首が逆を向いたオカッパ頭の幼女たちが。
何十人も群れをなして。
それぞれ彼らを睨みつけていた。