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零咒 ~異世界【TOKYO】ダンジョン~  作者: R09(あるク)
第一章 渋谷七人ミサキ編
20/65

第20之幕 殺戮の幕開け② 【ハチ公像前】

第20之幕


 憂太らの前にしずかに佇む、夜のハチ公像。

 いつもは若者や観光客で賑わっている場所だが、今は人っ子一人いない。


「何これ……!?」


 先ほどまでの陽気さは神隠しにでもあったかのように田中幸子は恐怖を帯びた声を出す。


「さっきまで食堂にいたのに……!」


 そこにいた異世界転移組の誰にとっても見知った光景だった。

 そう。ここは渋谷。新宿、池袋とともに山の手3大副都心の一つであり、若者文化の発信地。

 新宿が「山の上の街」であるのに対し、渋谷や「谷底の街」。武蔵野台地を侵食する渋谷川と宇田川の合流地点であり、それゆえに坂も多い。


 渋谷が独特のドブの匂いがするのは、渋谷駅北側までその支流が下水道として使用されているためだ。その上には道路などが走っており、いわゆる「暗渠あんきょ」と呼ばれる構造になっている。


「ここ……渋谷だよな」


 虎井がかすれたような声で言う。


「俺たち、帰って来れたのか……?」


 久世は逆らってきた大嶋唯に殴りかかろうと拳を上げたところだった。

 その前に、いつの間にか憂太が立ちはだかっている。

 久世も突然のこの異変に気づき、上げた拳を下ろした。


「でも……誰もいねえぜ……」


 渋谷駅ハチ公口は渋谷の玄関口となっている。

 世界最大と呼ばれるスクランブル交差点の向こうにはセンター街。数多くのデパートやファッションビルや専門店、飲食店などが立ち並んでいる。


 だがそんな渋谷が。


「若者の街」として24時間眠ることをしらないこの地域一帯が。


 今はひっそりと静まり返っている。


 スクランブル交差点から見えるビルに設置されたいくつもの巨大モニターの画面も暗い。だがそれ以外の明かりはすべて灯っており、故にこの無人が不気味さを増していた。


「もしかして、私たち、これでお家に帰れるのかな……?」


 幸子が親友である鮎に訊く。


「ここ、渋谷……だよね。電車に乗ったら、みんな帰れるんだよね……!」


 だがその鮎の顔は恐怖で歪んでいた。

 真っ青になりガタガタと震えている。


「さ、幸子……。そ、そこ……」


 鮎は指を差そうとしているが体がすくんでいるのかうまく動けていない。


「ん?」


 幸子は周囲に何かあるのかとキョロキョロと見渡した。

 見えるのはハチ公像、渋谷駅、そしてスクランブル交差点。……特に変わった様子はない。


「どうしたの? 鮎」


 幸子がそう言った時である。

 何者かに腰のあたりの服を引っ張られ、幸子は視線を下に向けた。

 そこで幸子が見たのは。


『……捕まえた……』


挿絵(By みてみん)


 ワンピースを着たおかっぱ頭の幼女だった。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 幸子が驚いてその指が逃れると、おかっぱ頭の幼女は首をぐるりと180度回転させ、そこにいた全員を見た。

 そして、にぃっと笑った後。













 ──()()()












「うわあああああああああああああああ!」

「消えたぞ!」

「首が、首が!」

「化け物だ!」


 一斉に久世、虎井、鮎、幸子らが散り散りに逃げ出す。

 同時に走り出そうとした唯だったが、その肩を強い力で握られた。

 振り返るとそれは式守憂太。


「し、式守くん……!?」

「しっ……!」


 そんな唯に憂太は立てた人差し指を唇に当てるジェスチャーをした。


「ど、どうして……!」

「騒いじゃダメだ」

「でも、でも」

「ここは渋谷だけど渋谷じゃない」


 憂太の瞳には不思議な力のようなものが宿っている。


「ここはダンジョン……。これが災厄を呼ぶと言われた『TOKYO』ダンジョンの中なんだ」


 唯はその言葉に目を見開いた。


 一方でトレシアと白狼族のアーシャ、ドラゴンニュートのユマの「最終旋律デスワルツ」の三人は、その魔法で、何もない空間からそれぞれの武器を取り出していた。

 ニアとエリユリも同じように、魔法で空中から自身の武器を取り出す。

 格闘家であるニアは、グローブのような「虚無の拳ナックル・オブ・ヴォイド」。

 後方支援のエリユリは自身の弓矢と、治癒・支援魔法用のスタッフ

 憂太もベルトからぶら下げていた小さなバッグからヴァジュラを取り出す。


「え……! どうしたら……? 私、どうしたらいいの?」

「大嶋さん、ダメだ!」


 そう言いながら憂太は、フォーメーションを組みつつあるアドリアナ大公組の輪の中へと唯を押し込む。


「ここじゃ何が起こるかわからない。まずは様子を見てっ……!」


 そんな憂太たちを渋谷のランドマークである忠犬ハチ公の像は静かに見つめていた。

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