第18之幕 嫉妬
第18之幕
──耐えろ。耐えるんだ……。
これみよがしに周囲の客へも聞こえるように言いふらされる憂太の恥ずかしい話に、憂太は必死で耐えていた。
『なるほどな』
と胸ポケットから声が聞こえた。道満だ。
『あの久世祐一という男。ヤツは自らの力を示すことで自分の弱さや不安を紛らわせているタイプだ。青いのう。ケツが青いにもほどがある。ありゃあ、自分の苦しみに向き合えておらんの。それを他者にぶつけて自己防衛を図っておるんだ。まだ自分の弱さに気づいておる貴様のほうがマシだな』
(そ、そんなことまで分かるのか?)
憂太は驚いた。道満は得意げに続ける。
『おうよ。人の本質も見れずして何が陰陽師よ。儂の占術は一級品だ。ほぼ間違うことはない』
(もしかして……僕を慰めてくれているのか……?)
その憂太の心の声に、胸ポケットでピンクのウサギのぬいぐるみがジタバタと動き、ぷんぷん怒っているのが分かった。
『わ、儂は本当のことを言っただけだ。仮にも貴様は今後、儂の肉体となる重要な容れ物。儂が見込んだんだから貴様は、ああも馬鹿にされるような器ではない』
思わず憂太は微笑んだ。芦屋道満の怨霊がただただ、安倍晴明の末裔である土御門後を引く憂太の肉体を欲しているだけに過ぎないのかもしれない。
その自分が選んだ肉体をバカにされて腹がたっただけなのかもしれない。
それでも憂太はうれしかった。
これまで他人に褒められたことはなかった。
母だけが、憂太が『零咒』の修行をしていることだけを褒めてくれた。
憂太の今までの人生は、その唯一である母に認められるためだけにあったと言ってもいい。
だが、怨霊とはいえ、自分を認めてくれるようなことを言ってくれる存在がいるなんて……。
そして今、憂太の味方は道満だけではなかった。
「ちょっと! 久世くん。私もさすがに今のは言い過ぎだと思う」
突然、憂太と同席していた大嶋唯が立ち上がったのだ。
「黙って聞いていれば。なんか式守くんに恨みでもあるの!?」
憂太は初めてこんな怒りの形相を見せる大嶋唯の表情を見た。
「いつも式守くんばかりいじめててさ。いつも見下してて。私、そっちの方が全っ然、弱い人間だと思う!」
「確かにそうだよね~」
話し口調はゆるいがニアの眼も不快感があふれそうになっている。
「それに憂太はうちらの大事な仲間なの。いくらあんたが勇者さまの一人だって言っても、そこまで言われたらうちだって、さすがにカチンと来る、つか」
そう言うとニアは食卓の上で拳を握りしめた。
「あっ。そっか~」
次にエリユリが間の抜けたような声を出した。
「久世さまって言ったっけ。久世さまは憂太さまに嫉妬してるんですよね~。今まで見下していた人が、第三位階魔法クラスの炎の術を使ったから、ビックリしちゃってるんです。子犬みたいにキャンキャン吠えてるんですねー。わーかわいいなー」
「な、なんだお前ら……!」
図星をつかれて久世が怯む。その瞬間をエリユリは逃さなかった。
「あれ~図星だったみたいですね~。なんだか最初に憂太さんの悪口を言い始めた時はまだ、ニートの恋煩いぐらいの不快感だったんですけど、今は自分はすごいんだ自分はすごいんだって言葉が見え隠れしていて無理です。普通に本当は短小なのを誤魔化してるみたいで最悪です」
「た、短小?」
「短小、包茎、でんでんむしむし皮ツムリ」