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零咒 ~異世界【TOKYO】ダンジョン~  作者: R09(あるク)
第一章 渋谷七人ミサキ編
17/65

第17之幕 集団いじめ

第17之幕


 久世はその取り巻き数人と、クラスの女子で一番のお調子者である田中幸子、そして美人だがいつも不良連中とつるんでいる吉岡鮎よしおかあゆとで、ここトレシア・レストランへと入ってきた。


 そして脚を組んでドッカと雑に座るやいなや、毒づき始める。


「まったくよう。無駄な広範囲の攻撃でこっちまで巻き込まれちゃたまんねーよな、実際」

「だよな。あん時は肝を冷やしたもん、実際のところ」


 そう答えたのは久世の友人である虎井誠とらいまことだ。


「せっかく俺の剣技がピンポイントでヒットしても、後方支援の魔法で化け物と一緒に焼かれたらどうしようもねえ」

「久世のその剣、すげーよな。『魔剣』っていうんだっけ」

「おう、そうよ」


 と久世は得意げにその剣を抜いてみせた。


「剣技が俺みたいに100を超えないと握れねえみたいだが、実体のないモンスターでもスパスパ斬れやがる」

「俺の魔法の矢『矢蟲やむし』で足止めして久世の一撃……。これほど確実な仕留め方はねーよ」


 どうやら久世は、怪物討伐訓練の時に憂太が見せた『不動明王火炎咒』を、味方をも巻き込む使えない技だと揶揄したいらしい。

 確かに、その炎の柱の巨大さには憂太も驚いた。大嶋唯を救うためとはいえ、周囲にちょうど人がいないタイミングで良かったと自分でも思う。


 落ち込んでいる憂太を見て即座に、唯が耳打ちしてきた。

「気にしないでいいよ。式守くん」

 そして小さくにっこり微笑んだ。

「あれのおかげで、私は助かったんだから……」


 憂太はその近さに束の間、照れさせられたが、「う、うん」と声にならないほどの小さな声で応えた。


 ──久世祐一。

 幼稚園の頃は体は大きいがおとなしい子だった。

 大地主の子である憂太と比べ、小さな商店を営む両親の元で育った久世は、自宅が近所であったこともあり、小さな頃から憂太の家へ遊びに来ていた。


「お前んち、すっげ~でかいよな」


 最初はとても仲が良い関係だったと思う。

 また久世には兄がおり、兄が買ってもらったゲームや玩具のお下がりをしょっちゅう憂太の家へ持ってきてくれた。

 それは憂太が人一倍厳しい環境で育ち、ゲームはもちろんのことスマホやタブレットに慣れさせるための知育玩具すら与えられていなかったからだ。


 久世もこの地域一番の金持ちである憂太には当初、一目置いているところはあった。

 だが元々粗暴な性格だったからか、それとも久世が憂太よりもはるかに発育が良かったからか、その関係性は次第に変わっていく。


 久世の両親も経済的に苦しい上に多忙だったからかいつも喧嘩が耐えなかった。また兄もそんな両親のいざこざに巻き込まれ、その苛立ちを弟である久世にぶち撒けるようになった。

 憂太と久世がともに遊び始めてわずか三ヶ月。

 久世は幼い心に芽生えた両親や兄から得た苦しみを、憂太にぶつけるようになる。自分が得た辛さを、痛さを、悔しさを、その幼さゆえにコントロールできなかった。

 そして人より体が大きいことで、少しずつ彼は不良の道へと入っていく。悪いことをしても同世代は誰もとがめない。とがめる勇気がある者がいない。

 彼の悪事はどんどんエスカレートしていくことになり、今に至る。


 そんな久世祐一はまだ憂太の悪口を言っている。

 さすがに同席していた吉岡鮎よしおかあゆがそれを咎めた。


「ちょっと久世くん、それぐらいにしときなよ。ここへはどうやったら元の世界へ戻れるか、その作戦を立てに来たんじゃなかったの?」

「そうだよ~。久世っち、言い過ぎ。それより今後のダンジョンへの演習訓練での役割分担とか、どのスキルを伸ばしていくかとか、そっちの話をしようよ」


 鮎に呼応したのは田中幸子だ。鮎の親友であり幼馴染。いつもふざけているが根は真面目で、実は臆病な性格であることを憂太も知っている。

 だから美人でクラスでも人気がある鮎といつも一緒にいるし、最も強く自身を守ってくれそうな久世とパーティーを組もうと鮎に言い出したのも幸子からだった。


 久世の憂太への悪口を、ニアもエリユリも無視を決め込んで食事をしていた。二人ともオトナだ。まったく耳を貸すつもりはないようだ。


 だがまったく反応しない憂太側と、鮎や幸子に諭されたことで久世のイライラはさらに増したようだった。


「大体よう。俺らはまだしも、あいつが勇者さまとか言われているのが気に喰わねえ。この国の神官も何を考えてあいつもこっちに世界に召喚したのか」

「それは俺も謎なんだよな。それにどうして俺たちのクラスなんだ? しかも全員じゃなくて、先に帰った部活あるヤツらはこっちに来てねえ。なんでこの25人なんだろうな」

「まあ俺と虎井はいいよ。虎井だってつええからな。だけど、式守だぜ? クラスで一番チビで、気が弱くて」

「でも式守くん、成績はトップクラスじゃない」と幸子が助け舟を出す。

「そうね。あと美術や音楽、作文なんかでも賞とりまくってるし、意外といろんなところに才能があるというか」


 鮎は近くに憂太がいることを気にしている。そもそも八方美人な性格で、クラスで一番の人気者の地位にいたいという願望から、あまり敵を作りたくないのだ。


「だけど鮎だって、式守のこと、いつも無視してんじゃねーか」


 久世はそう言うと大笑いした。


「そ、そんなことないよ!」

「い~や。俺は忘れねえぜ。俺らが憂太を教室のカーテンでぐるぐる巻きにして素っ裸にしてやった時、鮎、お前も笑ってたじゃねえか」

「え。鮎。そんなことあったの?」


 幸子は中学が違う。高校から鮎や憂太と同じ玉響たまゆら高に入学したのだ。

 鮎は顔を真っ赤にして否定した。


「だ、だってあれは……。顔を背けるか笑ってごまかすしかない状況じゃない」

「だよな~。男子のあそこ見たの初めてだったんだろ?」

「し、知らないっ!」

「傑作だったよな。あいつ中二でまだ毛も生えてやがらねえの」

「朝顔のつぼみみたいなあそこしててな」と虎井。

「あまりに小さくて、そりゃ俺だって大笑いだよ」

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