大きな暖炉のある、小さな酒場
タイトルに反してダークです。
「よう親父、今日もやってるかい」
「また来たかタンザム、ここ最近はずっとじゃねえか」
「今の家は隙間風だらけでさ。いやあ、ここは暖炉が大きくて暖かいな。おっと、今日は強いヤツにしてくれ、ロックでな」
「おや、珍しいな。お前さんが蒸留酒のロックだなんて、なんかいい事でもあったのかい」
「久しぶりにさ、デカい仕事にありつけそうなんだ」
「へえ、どんな仕事だい?」
「それがな……」
「こん……にちは」
「おう、来たか」
「……」
「そこに突っ立ってちゃ寒いだろう。暖炉近くの席に座りな」
「はい……」
「うむ、ディナ……ちゃんで間違いないな」
「はい、そうです」
「年齢のわりには落ち着いているな。その感じでいけば、先方に目を付けられる事もないだろう」
「ありがとう、ございます」
「さて、さっそく本題だが」
「……」
「お嬢ちゃんが働いて親御さんの借金を返すには、おそらく7年はかかる」
「はい」
「長いと思うかもしれんが、短くなる可能性だってある。仕事ぶりが良かったり、この国の通貨の価値が上がったりすればな」
「はい」
「要は希望を捨てないことだ。仕事を終えれば、人生をやり直すチャンスはいくらでもあるさ」
「……はい」
「じゃあ、すまねえが……これから印を付けさせてもらうよ」
「わかりました」
「暖炉のすぐ近くまで来てくれるか」
「……」
「あちち、ふっ、ふぅーっ。お嬢ちゃん、酒はいるかい」
「大丈夫です」
「この獣の皮は噛んどきな。痛みが和らぐ」
「はい……ありがとう、ございます」
「じゃあ、いくぞ。楽にしてな」
「……」
「……」
「ぎっ!」
「……」
「う、うう」
「……」
「……」
「……終わったぜ」
「……はあ、はあ」
「お嬢ちゃんは強い子だな。その強い心があれば、きっと生き延びれるだろう」
「あ、ありがっ……う……」
「夕方になれば迎えが来る。それまでゆっくりしときな。いいか、決して希望を捨てるんじゃねえぞ」
「……うん」
「よう親父、今日もやってるかい」
「待ってたぜタンザム。初めての仕事は上手くいったかい」
「ああ、馬車の護衛の仕事、大したトラブルもなくて楽勝だったよ」
「そうか」
「あまり深入りはしたくねえが、あの馬車は何なんだろうな。子どもが何人か乗っているのが、チラッと見えたが」
「そうか」
「……? どうした、親父」
「なあタンザム……ここの酒場、そんなに暖けえか?」
「何言ってるんだよ、あんなに大きな暖炉がある酒場なんて、どこを探してもねえよ」
「……そうか」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。