1 「ドキッ☆ 死んだらちっぱい!」
よろしくお願いします、とだけ言っておきます。
俺は大学に向かっていただけなんだ。
大事な講義に間に合うように、二日酔いに耐えながら電車に乗ってた。
よりによって部活の新人歓迎会の翌日に、絶対に落とせない講義があるなんて……。
気持ち悪くて立っているのも辛かったから座りたかったけど、どこも満席。
なんとな〜く優先座席に座ってる、元気そうなサラリーマンに「席を譲って欲しい」なんて言えるはずもなく。
気弱な俺は両手でつり革を持って、ゆらりゆらりと揺られながら立っていたら……。
突然、電車が急ブレーキをかけてバランスを崩す。
目の前には女子大生か? その子のご立派な谷間に顔を埋めてしまって、そのまま倒れ込む。
突然の衝撃の為、ほぼ全員が倒れていた。
俺はさっきの谷間に挟まったまま……。
本来なら女性の大きな胸の間に顔を埋めてたら、どんな状況であれ悲鳴を上げられ、痴漢扱いされることを覚悟していたんだが……。
俺は仰向け、女子大生は俺の上に乗っかる形で気を失ってしまってるようだ。
ラッキースケベ、だと思っていただろう。本来なら――。
(ぐ、苦しい……っ! 胸に完全に挟まれて……っ、息が出来ん!)
遠くからアナウンスが聞こえる。
人身事故とか、それで急ブレーキとか、なんとかかんとか。
その間も俺は、密着してくる柔らかい脂肪の塊に、完全に顔が埋もれてしまって、呼吸が出来ずにそのまま意識を失ってしまった。
◇◇◇
「ミリシラ様! しっかりしてください!」
「聖女ミリシラ! 気をしっかり持つんだ!」
ふぁ?
真っ暗な場所から、聞き覚えのない声と……何かが焦げる臭い。
事故のせいで火事か?
いや、それより……。
「おっぱい!!」
ガバっと起き上がると、そこは電車の中でも、救急車の中でも、病院でもなかった。
「ミリシラ様! よかった!」
赤い髪の美人……、誰?
「心配したんですよう! ミリシラ様!」
ピンク色の髪をした可愛い女の子……、誰??
「無事で良かった! 我が未来の妻、ミリシラ!」
金髪の男……、誰だお前ーっ!
俺が両目を大きく見開いて、全員の顔をもう一度確認する。
うん、やっぱり全然知らない顔ばかりだ。
つーか、すげぇ髪の色してるけど。ここコスプレ会場か何かか?
それにさっきからミリシラミリシラって、ミリ知ら?
俺が何の反応も出来ずにいると、ピンク髪の美少女が俺に抱きつく。
ぽにゅん。
柔らかい……っ!
完全に崩れないプリン状態の豊満なお胸が、むにゅむにゅと俺の頬に容赦なく押し付けられる。
こいつ……っ、可愛らしい顔をしてるくせに、かなりデカいぞ!?
「あ、あの……っ! 当たってますが!」
巨乳で窒息しかけたことを思い出した俺は、二の舞いを繰り返さないように、せっかくのご褒美を軽く拒否する。
涙でたっぷり瞳を潤ませた美少女が、今度は俺の顔に頬ずりしてきた。
これは一体、何が起きてるんだ!?
すると赤い髪の美女が、安堵の表情で話しかけてくる。
「ミリシラ様は、ドラゴンの攻撃を受けたんだよ。みんな、貴女が死んだのかと思って、すごく心配してたんだからな」
「ドラ……ゴン……?」
「覚えていないのか!? やはり攻撃のショックで、頭を強く打ってしまったせい!?」
金髪イケメンが、俺から豊満美少女をはぎ取り、俺の両肩を鷲掴みにして揺さぶってくる。
いやいやいやいや、仮にも怪我人なんだろ!?
揺さぶんなっ!
「痛い! やめろっ!」
両手で金髪を押しのけようとするが、あれ?
なんだこの、細い腕は?
俺は目の前に映った、自分の両手を見て愕然とする。
小さい……? 少なくとも男の腕じゃない。
ぺたぺたと自分の顔、頭を触る。
薄紫色の長い髪、これが俺の髪の毛か!?
そしてごくりと生唾を飲み込みながら、俺は高鳴る鼓動を抑え、自らのお胸に手を当てて確かめた。
つるーん。
あるぇー?
なにも、ない……だとぉ?
そんなバカな。てっきり幼女の体に変化してしまったものだと……。そう思いながら、なんとなく股間を触る。
「んなあああ!?」
ない! 明らかに股の間のものが無くなってる!
えっ? えっ?
俺が焦り気味に動揺していると、訝しんできた3人が俺の顔を覗き込む。
「さっきからどうした、ミリシラ様」
「やっぱり頭を強く打ったせいで!?」
「はうう、私の回復魔法が効いてないのでしょうか?」
落ち着け俺、この状況は……あれだ。
例の列車事故で、俺の身に何かあったに違いない。
それで、そう! なんやかんや、俺はその時に死んだか何かして、異世界転生してきた……とかじゃないのか?
でなけりゃ説明つかないだろ、いきなりこんな……えっと、今さらながら見渡してみると、ここはジャングルかってくらいの森の中。
明らかに見覚えのない、少なくとも俺が住んでいた場所にはないような森の中だ。
そしてコスプレ以上のクオリティを放つ派手な髪色、出で立ち、わけのわからん展開。
「本当に大丈夫か? ミリシラ様」
赤い髪のお姉さんが、俺の頭を撫でたかと思ったら、そのままぎゅうっと抱きしめる。
こ、これは……っ! メガトン級のぱいおつ様!
ピンク髪の美少女といい、ここに二人の巨乳が揃うとはなんという幸運!
しかも俺はどうやら彼女達にとって、とても大切な存在らしい。やけに心配してくるから、勘違いとかではないはず!
「やっぱりもう一度、私の回復魔法を!」
そう言いながら美少女の方が大接近して、俺の後頭部に立派なお胸を押し付けてくる!
前門の爆乳! 後門の巨乳!
最高だけど、割とマジで窒息しそうなんですが!?