イビルエッグ ~その卵を割ってはいけない~
ある日、とある星に魔力と欲望に包まれた隕石が落下した。その中から出現した『イビルエッグ』のレプリカにより、人々の生活は一変した。その卵に選ばれると自分の願いがなんでも叶うからだ。回数制限はないが、持ち主の欲望がなくなると消えてしまう。タブーはいくつかあるが、その中の一つに『その卵を割ってはいけない』というものがある。その卵を割ってしまうと、その中に圧縮されている魔力と欲望が暴走してしまい、持ち主を人ではない何かにしてしまうからだ。まあ、もし割ってしまってもイビルエッグのオリジナルに選ばれし者が割れてしまった卵を回収しに来るから何も問題ないのだが。
「マスター、お仕事の時間だよー」
「そうか。分かった」
俺はアーモンド入りのチョコを一つ食べると相棒のサチと共にアジトを後にした。
「場所は?」
「その前に豆電球モードやめていい? そろそろ人型モードになりたいんだけど」
「好きにしろ」
「わーい! ありがとう、マスター。愛してるー」
人型になったイビルエッグ(オリジナル)は俺の背中に飛び乗る。どうやら今日は小学生になったようだ。たしか昨日はバニーガールのお姉さんで一昨日は最近まで病弱だった俺の母親だったかな? 今のところ法則性はないからおそらく気分で決めているのだろう。
「マスター! あっちに割れた卵あるよ!!」
「あっちでどっちだ? あっ、感覚共有するの忘れてた。今からしてもいい?」
「好きにしろ」
「はーい!」
彼女が手を叩くと僕と彼女の感覚がつながった。
「なるほど。クラブハウスの中か」
「そうそう!」
感覚共有している時に心の中で小言を言うと相手にも聞かれてしまうため、注意しなければならない。まあ、こいつはいつも「マスターなんか眠たそう。でも、かわいい♡」とか「早くマスターと結婚したいなー♡」とか「マスター、もっと私を頼ってー♡」みたいなことを常時考えているのだが。
俺たちがクラブハウスに入ると中には誰もいなかった。物が散乱しているため、何かに驚き逃げ出したということが分かる。ミラーボールがその何かの位置を教えてくれる。いた、掟破りだ。
「よう、気分はどうだ?」
「……最悪よ。なんでこんなことに」
「あんたはまだマシな方だ。背中からコウモリの翼が生えただけなんだから」
「そう。じゃあ、とっとと私を始末しなさいよ」
「なあ、あんた死にたいのか?」
「死にたくないわよ。でも、これからどうすればいいのか分からないのよ」
「なら、分かるまで生きればいいじゃねえか」
「簡単に言わないで。生きるのって結構大変なのよ。それにこんな体じゃ誰も雇ってくれないわよ」
「そうか。なら、俺があんたを元に戻してやるよ」
「あんたみたいなガキにそんなことできるの?」
「さて、どうだろうな。まあ、とりあえずやってみるさ。サチ、エッグモード」
「はーい!」
俺はエッグモードになったサチを手の平の上に乗せると割らないように気をつけながら抱きしめた。
俺がそれを体内に押し込むと同時にサチは元気よくこう言った。
「カタルシス!!」
その直後、俺の体から白い光が出始めた。
「カタルシスって……あんた、まさか! オリジナル持ちなの!?」
「ああ、そうだ。それより早く背中をこっちに向けろ。その翼、消してやるから」
「あー、うん、分かった」
「よし、じゃあ、浄化するか。よっと」
「……っ!!」
俺が彼女の翼に触れるとそれは徐々に彼女の背中から消滅した。その直後、彼女の体からイビルエッグのレプリカが出てきた。俺がそれを手の平の上に乗せると彼女はほっと胸を撫で下ろした。それと同時にサチは人型になった。
「俺の知り合いにこいつを直せるやつがいる。この白い紙にそいつの住所とか電話番号が書いてあるから、なるべく早くそいつに連絡しろ。じゃあ、俺はこれで」
「ま、待って! ねえ、あんた、名前は?」
「さて、なんだったかな。オリジナルと契約した時、名前をこいつに預けちまったから覚えてねえんだよ」
「あー、そうなの。なんかごめん」
「いや、いい。まあ、好きに呼んでくれ」
「そう。じゃあ、リベレイターなんてどう? 解放者って意味なんだけど」
「解放者か……まあ、悪くねえな。じゃあな、コウモリ女。次から気をつけろよ」
「だ、誰がコウモリ女よ! 私の名前は『森野 光子』よ!!」
「そうか。分かった。じゃあな、みっちゃん」
「みっちゃん、言うなー!!」
そんな感じで俺はこれからもイビルエッグのレプリカの被害者たちを解放していく。さて、次はどんなやつと出会えるんだろうなー。