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3月18日の夜

作者: 類字

安心と安全はお金で買える。不安は安値でも売れない。

いつもと変わらない日々だった。ただ、あの日は大きな雨粒が降っていた。


隣室からは人の気配なく階下からは何か重たいものが落ちる音がして、外では虫の鳴き声が聞こえる。


私の住むアパートは高級とは言えないが安物でもない普通より高めな値段設定の賃貸である。壁の厚みも薄くなくペットも暮らせるほど。しかしながら隣人の声は聞いたことなく、たまに出かける際に見かけて挨拶する程度であった。


ある日のこと私も布団に入りまどろんでいたところ階下からガラス窓をたたく音が聞こえる。何事かと思い意識をそこに向けたところ「開けて」と聞こえた。


痴話げんかでもしているのだろうかと私は思いつつも、さも珍しいものでないためそのまま眠りに落ちた。


「あけて、私が出ていくから。私の荷物だけ取ったら出ていくから。」


薄い意識の中ぼんやりと聞こえてきたが、やはり痴話げんかのようだ。


10分、30分、1時間と女は訴えかけるが誰も反応しない。


私の中で少しづつ苛立ちが募り、無心に携帯電話を持っていることに気が付いた。


どうする、警察に連絡を入れるか。私はただ静かに眠りたかったので現状解決するにはどうべきかと重い頭を精一杯働かせたものの睡魔に勝てず携帯電話を握りしめたまま眠りに落ちた。


「あけて…開けて…」


相変わらず声は聞こえてくる。心なしかさきほどよりも近くで聞こえる気がするのだ。


女はあきらめずに声をしぼり必死に訴えかけているのだろう。もはや私は瞼を閉じたまま思考するがもうどうでもよかった。


「開けて!助けて!」


突然寝室のドアをノックする音が聞こえ、私は思わず飛び起きてしまった。


「早く、開けて!助けて!お願い。」


私も状況がつかめなかった。階下で聞こえていた音が今私の寝室を破る勢いでノックを打ち付けている。


心臓が苦しいくらい脈打っているのがわかる。私は恐怖に陥っていた。


昨日、帰ってきたとき施錠を忘れていたのか、女は私の家にあがりこみ私に助けを求めているのか。


冷静さとは皆無な状況で私は静かにできるだけ冷静さを装い、警察に連絡した。


「助けてください。知らない女が私の住居に入り込み寝室の前でわめいているのです。」


私はもはや自分でも何を言っているのかわからないものの必死に助けを求めていた。


寝室の扉をたたく音が聞こえる。夢であるなら素直に覚めればいいのにと願うもののこれは現実であると言い聞かさんばりに強烈なノック音が聞こえる。


「開けろ、開けろ、起きているんだろう?」


逃げ場はない。ここは2階で窓はひとつ。


飛び降りても構わないが恐怖でそれどころではない。


「早く開けろ!助けろ!私を中に入れてくれ。」


女の要求は徐々にエスカレートしていき口調に弱弱しさを感じない。


「開けろ!わかってるんだよ!何をしている!」


私にできることは静かに警察を待つことだけであり、布団にくるまり女が去るのを待つだけであった。


今でも寝室の扉は打ち付けるように激しいノックの音が聞こえる。

恐怖は何も怪異が引き起こすばかりでない。怖いと思うことが恐怖なのだ。


ルーティンは人が安心するための作業で確認を怠ると人は不安になる。

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