第一話 悪夢
死という概念を知ったのは、もう十年も前の話だ。
あの時の俺はとても幼く、何も考えずただひたすらに楽しく生きていた。
父と母はとても優しく、弟は少し生意気だったが嫌いではなかった。
毎日がとても楽しかった。
ただ、そんな日々も長くは続かなかった。
とあるショッピングモールでの事だ。
その日、家族でたくさん買い物をしようと出掛けた。
多くの物を買い、ゲーセンで遊んだり、外食をしたり、本当に楽しかった。
そして、夕方となって日が沈みかけたその時、悲劇が起きた。
大きな揺れと共に地面から何か大きな物が飛び出してきて、意識を失った。
そして、目が覚めるとそこには今まで見たことのないような地獄があった。
人で賑わっていた筈のショッピングモールの中には、見たこともないほど大きな植物のようなものが張っていた。
何が起こったのか理解できなかった俺は、まずその場から動こうとした。
その時、身体に違和感を感じた。
ベッタリとドス黒い液体が、身体のあちこちに付いていた。
幼い俺はそれがなにか理解できなかったが、体がなにかに縛られるようなとてつもない恐怖を感じた。
そして、液体は近くの植物のような何かの下へと続いており、そこで目にしたのは胴体の潰れた母だった。
何か悪い夢でも見ているのではないか、怖い夢を見ているのではないか。
視界が歪み、嗚咽を吐きながら泣き叫んだ。
幼い俺には、どうすることもできずあまりの恐怖に泣くしかなかった。
目の前の凄惨な光景、幼い俺には重すぎたのかそれから覚えていない。
その後の俺は、とある特殊部隊によって助けられた。
気を失っていたという。
生存者は俺しかいなかった。
それから、俺は特殊部隊を仕切るとある人に引き取られることになる。
この世界で起きる俺を襲った悲劇、後にラディクスと呼ばれる真相を解明するために。