第2話 万能との出会い
あれは高校3年の春くらい。まだ、暑くなる前の過ごしやすい時期だった。
その時にとある女のことを耳にするのであった。
「よ〜。アウラ。あいつのこと聞いたか?」
「あいつって誰だよ」
「お前、浦城の話は有名だろ。知らないのか。」
「そんなこと言われてもな〜。」
「あいつ、水泳の地区予選大会で優勝したらいぞ。凄くないか?」
「お前、何言ってんだよ。別にそんなに凄くはないだろう。うちの学校って結構スポーツのできる部活多いしさ。」
「アウラこそ何を言ってんだよ。あいつはこれで陸上・テニスに続いて3つ目なんだぞ。」
「そして、何より可愛いんだぞ。学校で知らないのはアウラくらいなんじゃなのか?」
「ま、確かにそれを聞くと凄いとは思うけど、それがどうかしたか?特に仲の良い知り合いってわけでもないし、他には何も感じないな。」
「でたでた。アウラの無関心主義」
「いや、でたでたって言われても興味ないものは興味ないんだからしかたないだろう。」
「キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン」
「おい、もう予鈴なったぞ。席につかなくていいのか?」
「ヤベ。んじゃ〜アウラまた後でな。」
今、俺に話をかけてきたのは俺の中学からの連れで名前は『中島聖人』普段から、俺を理解してくれる数少ない友人の1人である。
そして、今の話に出てきたのが、学年でスポーツ万能な女、『浦城麻美』というらしい。
普段の学校の事情に詳しくもない俺が耳にするくらいだ。相当有名なのだろう。
しかし、俺にはそんな女もいるのか。ぐらいにしか感じていなかったのである。
(え〜と、今日は5限までだったから4時前までには学校からでられるな。ってことは家に着くのは4時30頃か)などと俺は考えていた。
本来、俺も部活動というものに所属しているのだが、今日は顧問の先生がいないため活動はなかったのである。
そんな、俺の帰り道、自転車の置いてある駐輪所まで歩いていると、遠くの方から声が聞こえてきた。
「×△□先輩〜〜頑張ってください」
(どこの部活だ。ってか何言ってるかよく聞こえないな。)
そして、普段、こんな声は無視して帰る俺なのだが、この日は立ち止まり声の聞こえる方に視線を向けて見た。
そうするとさっきまでは聞き取れなかった声が聞き取れるくらいまでになってきたのだ。
「麻美先輩〜〜〜ファイト〜〜〜。」
(なるほど、あいつが聖人の言っていた運動万能女か。確かに聖人の言っていた通りルックスも悪くはない。もてそうなタイプだが、俺には関係ないな。)
と思い、俺は再び足を進め始めたのであった。
次の日、朝練のある俺は学校に着いた。
実際、俺は運動に興味があるわけでない。
では、そんな俺がなぜ、運動部に所属しているのかというと、この高校は1年次に必ず部活に入らなきゃいけないという校則があり、迷っている俺に聖人がこう話してきたのがきっかけである。
「おい、アウラ部活決まったか?」
「いや、まだだ。むしろ、入らなくてもいいだろう。運動に興味ないし。」
「んじゃ〜決まってないんだな。よし、バレー部に入るぞ。」
と、半ば強引に男子バレー部に所属させられたのである。
そして、なんだかんだで俺は3年間続けてしまったのであった。
そのバレー部の朝練に向かっている俺の目に走っている人が映ったのだ。
(ん?あいつは昨日、どこかで見たような・・・。あっ。あいつは運動万能女か。)
「ま、そうだろうな。いくら万能っていたって練習なしにいい成績はだせないよな。」
「おい、アウラ。何を1人でぶつぶつ言って・・・」
「あそこで走ってるのは浦城じゃないかあいつも頑張ってんな〜。」
「よし、アウラ。俺らも早く朝練行こうぜ。」
そう言うと聖人は走って行った。
(何をそんなにがんばる必要があるのか俺にはよくわからないが、俺にも朝練があるのは確かだからな急ぐとするか。)
そして、朝錬が終わり、自販機の前で俺と聖人が座っていた。
遠くの方から登校する生徒達も現れはじめ下駄箱が込み始めてきた。
「んじゃ〜俺らもそろそろ登校しますかね?アウラどの。」
「わかったわかった。んなこと言ってねえでとっと行くぞ。聖人。」
「そんな怒らんで下さいよ〜アウラ殿〜」
と聖人のいつもの茶化しが入り教室に行くことにした。
教室に向かうための階段の最中で、俺はバックのチャックが開いていて、携帯電話がないことに気が付いた。
「わり〜聖人、携帯どっかに落としたっぽいから先に行って俺のバック机の上に置いといてくれ。」
「了解。たぶん、自販機のとこじゃね。」
「わかってる。んじゃ頼んだぞ。」
自販機の前に着いた俺は探してみるがどこにも見当たらない。
(やばいな〜早くしないと朝のHRに間に合わなくなちまうな。)
っとそこに1人の生徒が声をかけてきたのだ。
「美崎君、何か探し物でもしてるの?」
「あ〜ちょっとな。(この忙しい時に話しかけるなよな)」
「ひょっとして、この携帯電話じゃないの?」
「えっ。おう。これだこれだ。」
「ありが・・・。」
「どうしたのよ。人の顔なんてじっと見て。」
「どうして、万能女が俺の携帯を・・・。」
「ちょっと、美崎君。一応、私はあなたの落し物拾った人なんだけどな。」
「万能女って失礼じゃないの。」
「あっ。悪い。声出してたか。ってかお前、何で俺の名前を・・・?」
「何々、次はお前呼ばわりなわけ。とりあえず、私に何か言うことあるんじゃないの?」
「あ り がとう・・ございます。」
「分かればよろしい。」
「あっ。美崎君、早くしないとHRに間に合わなくなっちゃうよ。」
「マジだ。とりあえず、急がないとな」
これが万能女との出会いだった。