寄付金詐欺・・
「ふざけやがって!!・・俺だってな!「嘘吐き」って才能持って生まれ変わりたくなかったわ!!・・てか、なんであんなに馬鹿にされなきゃいけねぇんだよ?・・ふざけんなよ!!」
錬太郎はやり切れない思いを民家の壁にぶつけ、思い切り蹴り飛ばした。
すると、その家の中から男の声がした。
「うるせぇーぞ!!いい加減にしないとぶち殺すぞ!!」
「あ゛ん?殺れるもんならやってみろ!!このくそ野郎が!!」
錬太郎は再び壁を蹴り飛ばした。すると、中から筋骨隆々のガタイの良い大男が現れた。
「誰がくそ野郎だって??」
(ヤバい・・これはこれは死亡フラグ立ってるだろ。ヤバいな。どうすれば・・おっ!?)
「うん?てめえか?さっきから人の家の壁をガツガツ蹴ってる野郎は??」
「ち、違いますよ!ほらっ!!私は丘にある修道院の者ですよ。さっきすれ違い様になんか数人ほどの方々が逃げるように走って来ましたけど・・見た感じ、物乞いの方々のようでしたけど・・」
「はぁ??なんだと!あのクソッタレ共が!!・・今度会ったらぶっ殺してやるぜ!!てめえは確かに修道服の感じからして、修道院の奴に間違いはねぇみてぇだしな・・てめえが嘘を付くとは思えないし・・疑って悪かったな。」
(アホだなコイツ。声色少し変えてるとは言え、気付こうと思えば気付けるだろうによ。)
錬太郎はシメシメ顔で笑った。すると、その男が錬太郎に尋ねた。
「ところであんた。なんでこんな夜に、こんな所でうろちょろしてるんだい?街とは言え、完全に安全でもないぜ?あんたの言ったように物乞いや追剥、スリもいる。なのになんでわざわざ、こんな所を歩き回っているんだい?」
「実は・・」
錬太郎は、ある事ない事をでっち上げ、修道院の運営為のお金の寄付や物資の寄付を各家庭にお願いして回っている事をその男に伝えた。
「なんだ。そうだったのか・・でもなんでわざわざ夜なんかに?朝・・いや、昼間の方が安全で確実じゃないのか?」
「安全性を取れば、確かに朝や昼間でしょうね。でも皆さんが在宅してる確率が高いのを狙うなら、夜の方が良いじゃないですか?」
「うん?なんでだ?」
「夜は確実に家で寝泊まりをする方が多いです。なので寄付を集めるのには効率的なんです。」
「!?確かに言われて見ればそうだな。あんた頭良いな!!」
(てめえが馬鹿なだけだろ。って言っても今適当に作っただけの言い言い訳だけどな。)
男は錬太郎に感心して、錬太郎に少しの寄付金と食料を寄付した。錬太郎はそれを受け取ると感謝の意を示して、その場を後にしようとすると、その男は錬太郎を急に引き止めた。
(うん?・・もしや感付かれたか?・・どうする。ダッシュで逃げるか・・でも逃げ切れるのか・・・・)
錬太郎が後ろ向きで悩んでいると、男が錬太郎の肩を掴んだ。
(ヤバい!考え過ぎて逃げるのが・・遅れた・・こうなったら、何かで詰められても、また嘘で乗り切ってやる!!)
錬太郎は意を決して振り返った。勢い良く振り返った拍子に膝小僧を強打した。思わずその苦痛にその場に沈み込んだ錬太郎が見上げると、そこにあったのは、それは木製の小型の荷車であった。
「痛てててっ・・」
「大丈夫かい?あんた?・・いきなりそんなに勢い良く振り向くとは思ってなかったからよ。これもし良かったら使ってくれ。寄付集めて荷物手に持つだけってのは限界あるだろうしよ。」
(・・なんだよ。全然疑いもしてねぇじゃねぇかよ。むしろこんなありがてぇ事はねぇぜ。)
「ありがとうございます!!有効に活用させてもらいます。」
錬太郎は荷車を受け取るとすぐに周辺の民家を訪れ、寄付を募っていく。最初は微々たる寄付だった寄付金や物質も軒数を追う毎に増えて行く。そして、荷台の寄付金や物資が増えて行くと、それを見世物状態にして、寄付を募る相手から更に寄付を煽るように絞り取って行く。気が付けば荷台一杯の物資と、それなりの寄付金が集まった。
「これで当面の活動資金は得られそうだな。」
錬太郎は、その荷台の中の物資を商店に持って行くと買い取りをさせ、その資金で身なりを自分なりに整えた。資金面から、修道服も売り払い、旅人が愛用するオーソドックスな服に着替え、更に銅製のショートソードを購入して装備する。
「やっぱり冒険者と言えばこういう装備だろ。なんかドラクエみたいでワクワクしてきたぜ!!えぇ~と残りはまだまだあるな・・まだ屋台やってるかな?動いたら腹が減ってしゃーないからな。」
錬太郎は屋台へと向かって行く。夜も更け、屋台も大分軒数が無くなっていたが、まだあの屋台はやっている。
錬太郎は屋台に着くと早速亭主に向かって串焼きを注文した。
「マスター!串焼き5本くれよ!!いや!やっぱり10本くれ!!」
「はい!!毎度あり!!銅貨・」
「はいはい、分かってるよ!通常一本銅貨2枚だから・・20枚ね。はい!20枚!!」
「・・お客さんどこかで会いませんでしたっけ??」
「うん?俺はこの街初めてだよ?」
錬太郎は金を支払い、平然と屋台の亭主の前で串焼きを食らう。
「でも顔に見覚えがあるんですよね?それにうちの串焼きの値段知ってましたよね?」
(・・やべっ!さっき要らねぇ事喋ったからバレちまったか?・・ここは強硬突破で・・)
「だから!俺は初めてだって言ってんだろが!!」
その時、錬太郎の目が少しグレー掛かった。すると、亭主は先程まで、どこか納得の行かないような顔を見せていたのが、晴れるように錬太郎の言葉を受け入れた。
「あっ!そうでしたか!すいませんね。最近勘違いが多い物でして・・」
(なんだ?コイツ?さっきまであからさまに疑っていたのによ?うん?なんだこの視界の端っこにある小さい文字・・なんか書いてあるぞ・・・)
錬太郎は、視界に映る文字を読んでみる。
すると、そこには名前と職業欄に「嘘吐き」、
更にはランクで「下級詐欺師」、
スキル「嘘の上塗り」「それなりの嘘」「それなりの詐欺」
と言う事が書き連ねられている。
(うん!?・・俺が「下級詐欺師」だと!?・・上等じゃねえかよ!!何がどうなって、このランク付けなのか知らねえが、「下級」ってのは、とにかく気に入らねぇ。絶対に「上級」いや・・「神様レベル」に俺様はなってやるぜ!!)
「・・あの・・お客さん?どうしました??」
錬太郎は一人悦に入ってポージングを決めていた。その状態を見た亭主は錬太郎を心配して声掛けしたようである。錬太郎は我に返ると、恥ずかしさを打ち消すように、亭主に更に追加で20本注文した。
「はい!ありがとうございます。お客さんよく食べてくれて助かりますよ。ありがとうございます。」
すると、暗闇の奥から一人の男の子が現れた。
「父ちゃん。まだ仕事終わらないのかよ!」
「悪いな。このお客さんの分が終われば帰れるからね。」
「父ちゃん。腹減ったよ。今日は串焼きのあまりどれくらいあるの?」
「悪いな・・もうこの一人に焼いてあげる分でほとんど無くなってしまうんだよ・・だから、今日は串焼き我慢しとくれよ。」
「えぇ~・・嫌だ!嫌だぁ~!!お腹減った!!お腹減った!!」
「いい加減にしなさい!!」
亭主の一喝で子供は仕方なく泣き止んだ。その子供を見て、錬太郎の子供時代の貧しい記憶が蘇ってしまった。食べたくても食べられない。母親は仕事で夜遅くまで帰って来ない。あの当時とても辛かった事を思い出す錬太郎の前に亭主が、先程の子供とのやり取りを謝りながら、串焼きを差し出した。料金を支払い一串食べると錬太郎は言った。
「あぁ~・・なんかお腹一杯になっちまったよ。なんかもうこれはいいわ。残りはそっちで処分してくれよ。」
「えっ!?」
「もう食べる気無くなったからよ。悪いな。これは処分させる代金のチップだと思って取っといてくれ。」
錬太郎はチップとして銅貨20枚を手渡した。
「えっ!?お客さん!!これは・」
「あっ!!あぶねぇ、あぶねぇ・・あとこれは、修道院から代理で預かってた串焼きの代金、銅貨100枚だ!!じゃあな!旨かったぜ!!」
「えっ!・・えぇ~!?」
驚く亭主を背に、錬太郎は振り向く事なく手を振り、その場を去って行くのであった。
続きが気になる&面白いと思った方は、ブックマーク、☆評価等して貰えると作者の励みになります。よろしくお願いします。