差別と嘘吐き
錬太郎は、行く当てもなく修道院を出た。
「とりあえず、早めにここを離れた方が良いよな・・うん?なんだ?あの光は・・もしかして街か!!」
錬太郎は丘の上に建つ修道院から、その光の見える方に向かって行くとやはり光の源は街であった。
中世ヨーロッパの街並みような夜の街並みを電灯のようなライトが所々照らしている。街には屋台や飲み屋などもあり、活気に満ち溢れている。
「おぉ!!これだよ!これだよ!俺が待っていたのはよ!!」
錬太郎は街並みを散策する事にした。屋台や飲み屋から漂ってくる料理の薫りが錬太郎の空腹感を更に刺激した。お腹の音が鳴ってしまい、屋台で焼かれている串焼きが食べたくなった錬太郎は、亭主に勢い良く言った。
「おい!!マスター!!串焼きくれよ!!」
「はい!!ありがとうございます!!ちなみに何本お買い上げですか?ちなみに一本銅貨2枚になりますけど・・」
(・・うん?そう言えば、俺ってこの世界の金なんて持ってねぇよな?・・てか、この世界に全裸で来てるし俺・・これって・・始まって早々・・俺の人生詰んでねぇか・・)
錬太郎は分かりやすくその場に崩れ去った。すると、心配した屋台の亭主が駆け寄って来た。
「お客さん!!どうしたんですか?急に倒れちゃって、もしかして具合でも悪いんですか??」
「・・いえ、大丈夫です・・」
(ちくしょう・・どうすれば良いんだ・・俺は今無性にその串焼きが食いたい・・いや、絶対に食いたい!!!)
「・・ちなみに、その串焼きってツケって利かないですよね?」
「えっ!?ツケですか?・・すいません。うちはそういうのやって無くてですね。申し訳ないですが・」
「いや、代金はちゃんとお支払いします!!むしろ、通常の倍お支払いしても良いですよ!!」
「えっ!?通常の倍ですか!?」
「そうです・・実は見て貰えれば分かると思いますが、私は修道院の者でして、今日、修道院に特別なお客様がいるので、その方の希望で此方の串焼きを買いに使いに出されたのですが・・来る途中に賊に追い掛けられてしまいまして・・そのおかげで、持たされたお金を落としてしまったのです・・もし、今回ツケをして貰えたなら、次回来た際には、しっかり倍の値段で払いますので、どうか今回は提供して貰えませんでしょうか!!」
錬太郎はその場で土下座をしてお願いした。
「そうだったのですか・・事情は分かりました。普段なら絶対受けないですが、聖マリア修道院の方と言う事で特別にお受け致しましょう。」
その言葉を聞き、錬太郎は土下座をしながら、ニヤリと笑った。
そして、顔を上げるとなに食わぬ顔で串焼きを25本注文した。暫くすると、亭主が焼き立ての串焼きを錬太郎に手渡した。
「はい!!では串焼き25本です。通常はこれで銅貨50枚ですが、約束で銅貨100枚ですからね。よろしくお願いしますよ!!」
「はい!!本当に助かりました!!では、早く戻らないといけないので失礼します。」
錬太郎は足早にその場を後にすると、頃合いを見て串焼きを食らい出した。
(ふん!・・チョロいなこの世界のヤツもよ。てか昔行ってた焼き鳥屋のおっちゃんの焼き鳥とまではいかねぇが・・まずまず旨いじゃねぇか・・・・あっ!?)
錬太郎はその時、この世界で詐欺師みたいな嘘吐き人生を辞めるはずだったのに、早速やらかしてしまったことに気付いた。
(うわぁ・・人間そう簡単に変われないって言うけど・・本当だな。泥にまみれようが、嘘にまみれようが、得した者勝ちだろって考えになっちまってるしな・・)
錬太郎は組織に入り這い上がる時に作った自分なりのバイブルとして、そんな信念を構築していた。
(いけねぇ、いけねぇ・・次からは無しだ!・・そう、次から無しにする。これはノーカン!ノーカウント!!)
食べ歩きをしている錬太郎の目の前に、物乞いが数人たむろっている。物乞い達は錬太郎を見ると駆け寄って来て、錬太郎の持っている串焼きを物乞いしてきた。どうやら、錬太郎が修道服を来ている事で修道院の者だと思っているようである。
最初はうざったいと思った錬太郎だったが、自分がやらないと決めた詐欺行為をしてしまった罪悪感も手伝い、その罪滅ぼしになればと思い、物乞い達に串焼きの残りを施した。
錬太郎が立ち去ろうとすると、物乞い達は錬太郎に感謝しつつ、串焼きの取り分を取り合いしている。
(これで本当にノーカウントになるだろ。)
錬太郎はその場を立ち去ると、次の計画を考える。
(とりあえず、腹が満たされたのは良いが、金はない。ツテもない・・とりあえず、ダメ元で金稼げる所探すか・・)
錬太郎は街中に戻ると、まだ開いている商店や宿屋などにダメ元で自分を雇ってくれないか?と聞いて回った。だが、その度、「なぜ修道院の者が働く必要ある?」と聞かれて、事情を説明した。そして事情を聞いて納得した街の店の亭主達は、取り出したミレーヌが使ったようなその人物の適性スキルや体質、才能を鑑定するアイテムを使って、錬太郎を鑑定した。
その度錬太郎の特異体質の「嘘吐き」と言う鑑定結果に対して、亭主達は時に、笑ったり、笑いを堪えて吹き出したり、時に罵倒したりして、巌として錬太郎を自分の店には必要ない。と言い誰も雇おうとしなかった。そんな事が積み重なり、錬太郎の中にある気持ちが生まれる。
「・・結局、どこの世界も上っ面だけのくそ世界かよ・・そんな世界なら、俺もやっぱり都合良く生きてやるよ!!」
錬太郎は怒り心頭のまま、暗闇へと消えて行った・・
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