夢の又夢
「錬太郎さん!・・錬太郎さん!!・・起きて下さいよ!!幹部会の時間まであと五分しかないですよ!!」
「うるせぇなぁ~。もう少し寝かせろよ!!・・」
「起きて下さいよ!!錬太郎さん!!ねぇってば!!・・もう・・ゲームやって夜更かしばかりしてるから起きねぇよ・・また、どうせとばっちりで、これも俺達のせいにされて終わりだよ。」
部下の一人が錬太郎を起こそうと必死になっている。その周りにも部下が沢山おり、その動向を見守っている。錬太郎が起きる気配はない。すると、そこにある男がやって来た。その男は錬太郎を刺し殺した男である。
「・・良いんだよ!寝てたいんだろ?なら起こさなくて良いじゃねぇかよ。永遠の眠りに就かしてやるには丁度良いしよ。」
(あ"ぁん?何を言ってやがるコイツ?てか、コイツまだブタ箱にも入らず、組織にも始末されずいたのか、しぶとい奴だな・・俺が逆にてめえを殺してやるわ!!ボケが!!おい!俺なんで寝てやがる!起きろ!!起きろよ!!)
すると、周りの連中がその男の言葉に呼応した。
「・・そうだよな!!コイツさえいなくなれば全て解決だ!!」
見ると、周りの連中も全てなぜか錬太郎を殺した男の姿に変わっている。その手には全員ナイフを握り締めている。
(えっ!?ちょっと待てよ!どういう事だよ?えっ!?・・えっ!?・・てか起きろよ!俺!!起きろって!!おいっ!!)
次の瞬間、皆が、一斉に襲い掛かって来た。
「うあ"ぁ~~~~~!!!!!!」
錬太郎はそのおぞましい光景に思わず絶叫した。
目の前に広がる光景は、馬車の上のから望むのどかな森の街道である。
(うん??・・これは一体どういう事なんだ?てか、なんか体が異常に暑いし、しかも違和感が・・!?って)
「なんじゃこりゃ!?」
自分の体がマントと縄で拘束されてまともに動けない状態に思わず声を上げる錬太郎。すると、馬車の中のお嬢様がその声に反応した。
「ねぇ!じぃや!今のなに?何の声?誰の声?」
「お嬢様!!なんでもありませんよ!家に着くまで、中で大人しくしてて下さいね!!」
「・・分かったわよ!もう・・」
「うん??お嬢様??・・っていうか、あんた誰なんだよ?てか、なんで俺がこんな状態なんだよ?」
「おいおい!少し黙ってくれんか?さっきはいきなり叫ぶし、君は助けてもらった恩人に感謝の意も示せんのかね?」
「はぁ?こんな状態にされてて黙ってられるはずないでしょうが?なんでいきなり気持ち悪い夢から醒めてみたら、いきなりこんな訳わかんねぇ、ドMでもない俺にこんなこんな拘束プレイしやがって、ふざけんのも大概にしろよ!!」
「あっはははは!!」
「はぁ?何が可笑しい?」
「いやぁすまんすまん。私には君の言う「ドエム」とか「拘束プレイ」とか言う言葉は正直良く分からないんだが・・それは一体どこの言葉だね?人が道端で見つけた全裸の男に、わざわざ親切に回復魔法を掛けて、更にわざわざをマントまで分け与えて、とりあえず街までは送り届けてやろうと思っている私に対して、ここまで横柄に暴言を吐ける者は中々いないと思ってね・・もしかして、貴方はどこかの貴族か何かですかな??」
「はぁ?貴族だぁ?てめえ何言って・」
(うん!?ちょっと待て・・俺さっきまで確かに夢見てたよな?・・・・!?!?って事は・・実はこっちが今の現実って事じゃないのか?これは?・・やべぇ~マジで頭パンクして来たわ・・)
先程見た夢で、錬太郎は今のいる世界が自分の存在する本当の世界だと悟った。
急に襲って来た異世界転生の現実に、先程の三つ頭の狼犬の化け物との戦いで死んでいたら、この世界での人生も終わっていたと知り驚愕した。
「マジかよ・・あれが夢で、こっちがリアル・・下手したらさっき死んでたのかよ・・」
洞窟での出来事を思い出し、それを小言のように何度も口走る。
さっきと様子が変わった錬太郎を心配した老紳士は、容態を確認するように肩に手を掛けて揺さぶる。
「おい!大丈夫か?・・もしや毒か何かに侵されていたのか?仕方がない・・」
老紳士は錬太郎の容態を心配して、ステイタス回復の呪文を唱え始めた。すると、錬太郎が突然立ち上がった。それを見て驚く老紳士。
「えっ!?」
「はっははははは!!最高じゃねぇか!!これから全て人生リセットじゃい!!異世界転生上等じゃい!!」
「あっ!?危ない!!」
「えっ?」
次の瞬間、馬車の車輪が街道に転がっていた大きめの石に乗り上げて大きくバランスを崩した。その事により錬太郎は馬車の外に投げ出された。
「ぐぉ!!」
「ありゃ!こりゃ大変だ!!どぅ!どぅ!!」
老紳士は急いで手綱を引き絞り馬車を止めた。
「じぃや!!一体なにがあったの?」
「お嬢様!大丈夫です!そのまま乗ってて下さいね!!」
老紳士は急いで馬車から降りると、錬太郎の元に向かう。錬太郎の額からは落ちた衝撃で切れた傷から血が滲んでいる。
「お主大丈夫か?」
「大丈夫かって?・・大丈夫に決まってるだろうが!一度死んだ人間がまた生き返ってここに存在してんだからよ!!人生をまたやり直せる!!・・まさに「最高」の一言じゃねぇかよ!!」
錬太郎のその様子を見た老紳士は思った。
(・・ダメだ。この世界に生き返る魔法なんて存在しない・・多分なにかしらのステイタス異常を起こして混乱している。これはケアするしかないな・・)
「今回復魔法を掛けてやるからな!」
興奮冷めやらぬ錬太郎を他所に、老紳士は魔法を再び詠唱し始めた。それを見て錬太郎は煽るように老紳士に話し掛ける。
「おぉ~良いねぇ!回復魔法掛けてくれんのかい?そう言ってあの化け物の炎のブレスみたいに炎魔法は辞めてくれよ?丸焼きはごめんだからよ!」
「フルケア!!」
錬太郎の辺り一面を清清しい清色のオーラが包み込む。
「おぉ~良いねぇ!これが本当の魔法か・・これで体が完全に回復して・・・・って、おい!!何も起きねぇじゃねぇかよ!!傷も痛ぇままだしよ。こんなんじゃ人生やり直しの意味ないじゃねぇかよ。特に異世界転生した意味がよ!!」
(!?私のステイタスケアの最上位魔法のフルケアが聞かないだと?・・もしやこれは呪いのレベルの何かを掛けられているのやもしれんな・・それなら私の手には負えないぞ・・これは迷惑になるやも知れんが、聖女様のいるあの修道院に連れて行くしかないかもしれんな・・)
「おい!おっさん!!聞いてるのか?早く傷を治してくれよ!!傷をよ!!」
老紳士は再び詠唱を始める。
「おっ!次はちゃんと治してくれるんだよな?期待してるぜ!」
「フリーズタイム!!」
すると、錬太郎は時が止まったように固まってしまった。
「ふぅ~・・これで呪いの進行も感染もストップ出来るはずだ・・でも念の為に・・・・」
すると、老紳士は錬太郎を担ぎ上げる荷馬車の後方部の荷物を載せる部分に錬太郎を載せて更に落ちないように縄で縛りあげると、再び馬車の運転席に座り込んで手綱を握る。
「じぃや!!何があったのよ?」
「お嬢様!なんでもありませんよ。しっかりと座って下さいね!!行きますよ・・はいやっ!!」
老紳士とお嬢様、そして完全に荷物と化した錬太郎は、聖女のいるという修道院へと向かうのであった。
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