厨二男と馬車の老紳士
良くも悪くもマイペースに書いていきます。
よろしくお願いします。
なんとか光の射す出口に入ると、そこはどことも知れぬ森の中の街道であった。
錬太郎はなんとかその身を全て洞窟から抜け出すと、空を見上げるように寝そべって呼吸を整える。
「はぁ~・・・はぁ~・・はぁ~・はぁ~・・・・よっしゃ!!やったぞ!!どうだ!!あの犬ッコロめ!ざまぁみやがれ!!」
両手の拳を天に突き上げる錬太郎。そして、相変わらず弾け飛んだ右手の指を見つめ、もの想いに耽る。
(いたたたたっ・・それにしても、さっきの化け物って一体なんだったんだ?てか、夢ならこの指もいきなり回復したりするんじゃねぇのか?いきなり、「超速再生!!」「ホイミ」とかって言えばよ。それとか、ドラクエみたいにって呪文唱えれば、いきなり回復するとかさ・・・・とりあえず唱えてみるか!)
「よし!超速再生!!」
「・・・」
「何も起こらねぇな・・じゃ次だ!ホイミ!!」
「・・・」
「チクショウ!!なんで回復しやがらねぇんだよ!!・・なんて雑魚スキルだからか?じゃ、ベホイミ!!・・最強回復呪文のベホマズンでどうだ!!くそったれ!!」
「・・・・・・・」
「あ"ぁ"~~!!なんでなにも起きねぇんだよ!!くそが!!こうなりゃやけくそだ!!思い付く限りの回復系の魔法や呪文の文言言いまくってやるぜ!!」
シングルマザーの家庭で育ち、貧乏な家庭で育った錬太郎。欲しいオモチャは勿論の事、ゲームもまともに買って貰えず、我慢の少年時代を送った。そんな錬太郎は詐欺組織に入り、生計を立てるようになると、昔買えなかった漫画やオモチャは勿論の事、ゲームを買い漁った。最初の方こそ下働きで殆んど時間が作れず遊ぶ事が出来なかった。だが、組織の中心人物となってからは、悠々自適に時間を作る事が出来るようになり、挙げ句には事務所にそれらを持ち込み楽しんでいた。指示役や新たな詐欺やビジネスアイデアの草案作りをしていた為、上の幹部連中は何も文句を言う事はなかったものの、部下の中にはそんな錬太郎が鼻に付いた連中が数多くいたのであろう・・・・
「このくそが!!夢のくせしやがって!!夢の主・・この俺様の言う事が聞けんのかい!!・・てか、俺のやってる事完全に厨二じゃねぇか・・うん!?てか、俺の出て来た洞窟が無くなってやがるじゃねぇかよ!・・これはどういう事だ?」
錬太郎は改めて自分が出て来た洞窟の方向を見るとそこにあった筈の洞窟の洞穴が消えている。それ所か周りと一緒の森と同化したのか、洞窟自体が存在していたその痕跡が跡形も無く消え去っている。錬太郎はあまり事に驚き、立ち上がると念の為に洞窟があった場所の所まで確認しに行った。
「おいおいおい!これは一体どういう・・あっ!そうか!だってこれは夢なんだもんな。全然あり得るわ。何びっくりしてんだ俺・・だっせぇーな・・あれっ・・急に目の前が・・」
当初からの出血多量と急に立ち上がった事も手伝い、錬太郎は意識を失いその場にバタリと音を立てて後ろ向きに倒れ込んでしまった。
しばらくすると、一台の馬車が通り掛かった。荷馬車の装飾を見る限り高貴な家柄の馬車のように見える。馬車を運転する白髪の老紳士が街道に倒れ込んでいた錬太郎の存在に気付いた。
「うん!?あれは??・・・・えっ!?裸!?!?・・どぅどぅ!!止まれ!!」
手に握っていた手綱を一気に引き絞り馬車を止める。すると、馬車の中から少女の声がする。
「うん?じぃや??どうしたの?」
「お嬢様!出て来てはなりません!!ここには盗賊も出る可能性があります。内鍵を閉めて出て来ないようにお願いします!」
「分かったわ!!じぃや気を付けてね!」
「はい!!」
老紳士は馬車から降りると携えた剣を抜き取り構えながら、周りを警戒しながら錬太郎の元に向かう。
(なぜこの男は裸なんだ?・・うん!?手の指が無くなっている!?出血も酷い・・やはり盗賊か何者かに襲われたのか・・これは急いで手当てしなくては!)
老紳士は素早く呪文を詠唱し終わると、呪文を発動した。
「リメイクハイヒーリング!!」
見る見る内に、錬太郎の指先が再生して行く。更に錬太郎の容態も回復し、血色が良くなって行く。
「ふぅ~・・とりあえずこれで応急処置は出来たな・・でも、このままにはして行けないしな・・でもこの怪しい全裸男を連れて行くのは・・・・あぁ~考えてても仕方ない!!」
老紳士は錬太郎を抱き抱えると、馬車へと近付いて行き、荷台に積んであった暴雨用のマントで錬太郎を羽織らせると、更に万が一の為に、縄でその体をぐるぐる巻きにして拘束し、自分の馬車の運転席の横に座らせた。
「よし!これで安心だ!!」
「じぃや!!一体何があったの??」
「うん?あっすいません。もう大丈夫ですよ。では出発しますから、ちゃんと座ってて下さいね。」
「だから!何があったのよ!ねぇ!ねぇ!」
「家に着いた時には分かりますよ。では出発しますよ。」
老紳士は馬車を再び動かし始めた。
暖かい太陽の下、異世界転生したとも知らない鷺ノ宮錬太郎は、馬車の心地良い揺れに揺られながら夢を見るのであった。
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