~とある詐欺師男の逸話~
良くも悪くもマイペースに投稿していきます。
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暗い洞窟の中で一人の男が全裸で寝そべっている。 その額に冷たい雫が落ち、突然立ち上がるように男は目覚めた。
「冷たっ!!・・うん!?・・ここはどこだ?なぜ俺はこんな所にいるんだ?・・しかもなぜ裸なんだ?」
男は一人状況を飲み込めず困惑している。だが、少しすると男は暗闇の静寂さも手伝ってか落ち着きを取り戻すと、再びその場に寝転んだ。そして、男はどうしてこうなったっているのか、この状況になる前の事を思い出し始めた。
この男の名前は鷺ノ宮錬太郎。
生業を半グレからなる組織詐欺の中堅リーダーを持ち前の頭のキレと洞察力から若くして任され、日々オレオレ詐欺や押し入り詐欺、送り付け詐欺などの指示役を任されて、あくどい手口で老人や情弱な者を騙し稼いでいた。
対策がどんどん打たれる詐欺に対し、錬太郎は持ち前のアイデアで新しい詐欺や商売を提案し、それを実際に成功させ、若くして頭角を現した。
そんな錬太郎を古参の構成員の中には疎ましく思う連中もいたが、組織の取り纏めのお偉方には錬太郎の存在は有り難がれ、そして可愛いがられていた。
そんなある日の事だ。錬太郎に田舎の母親から一本の電話が来た。内容はつい先日仕送りを送って貰ったけど、突然紛失したらしく、お金が必要だからお金を送って貰いたいとの事だった。錬太郎は最初は断ったが、片親ながら中学までしっかり育ててくれた母親には、将来的に返せる事はしてやろうと決めていた事もあり、最初は断っていたが、再三に渡る催促もあり、仕方なく了承した。
そして、次の日、事務所で部下達に指示を終えるとお金を送金する為に事務所を後にした。
すると、それを待ち伏せていたかのように、数人の警察官に取り囲まれた。
「ちょっとお兄さん。ちょっと良いかい?」
「あ゛ぁん?・・なんだてめえら?」
「見りゃ分かるでしょ?警察!!・・お兄さんね。申し訳ないけど、職質させてもらえるかな?」
「・・あぁ~面倒くせぇな!!どうせ断った所で面倒くせぇ事なるだけなんだろ?」
「お兄さん賢いね。」
「・・こっちはどうせ何調べられたって何も出ねぇよ。やるなら早くしてくれよ。」
最初は横柄な態度で応じていた錬太郎だったが、母親に早く送金して用事を済ませたい事もあり無抵抗に職務質問に応じる。
荷物検査で母親に送金しようと思っていた100万を封筒や、大金の入ってる自分の財布が手持ちのセカンドバックから出て来て警察官に質問されても、内心は終始イライラしていたが、平然と職務質問を受けていた。
(なんなんだ?コイツらは?もう大方荷物も探し終えたのに、明らかに何かを探してやがる感じがしやがる・・これは臭うな・・)
「お兄さん。ちょっと悪いんだけど、ボディチェックもさせて貰うよ。ついでに出来ればその上着も脱いでくれるかな?」
「はぁ?・・分かったよ!もう何でも良いから早くやってくれや!!」
大人しく警察官に従う錬太郎。すると、
「巡査部長!!ここに怪しい物が!」
一人の警察官が錬太郎のジャケットの内ポケットから、錬太郎自身の見覚えの無い白い粉の入った袋を取り出した。
警察官はそれを取り出すと、あからさまにニヤリと錬太郎に笑い掛けた。
「あれれれ~?この白い粉はなんでしょうかね??もしかして大事に取って置いた小麦粉か何かですか?」
「おいおい!そこは違うでしょうが!これは小麦粉じゃなくてカ!タ!ク!リ!粉!!・・そうだよね?ねぇ?お兄さん??」
警察官達はケラケラと笑い始めた。
その袋と警察官の様子を見た錬太郎の脳裏に、日頃錬太郎の事を嫌っている古参の構成員が、錬太郎のジャケットの所で何かこそこそをしているのを見た光景が過った。
(もしかして、これはアイツの仕業か・・そして、この職質もアイツ・・もしくはアイツらの誰かが仕組んだのか?)
すると、警察官の一人がその袋から粉を取り出し、専用の違法薬物検査キットの中に入れた。すると見る見ると色が変化した。
「はい~、お兄さん分かる?色が見事に変わったねぇ?残念だけど、これは小麦粉でも片栗粉でもなく、立派な違法薬物だね。はい!残念だけど違法薬物所持の現行犯で逮捕します。時刻は・・午後1時・」
「・・あっ!?」
「うん!?・・」
錬太郎は突然驚いた表情を浮かべ、空を指差した。すると、警察官達は皆同時に指差した空の方向を見上げた。
その隙を付き、錬太郎は全力疾走で走って行く。
「・・あっ!?待てぇー貴様!!」
警察官達が笛を吹きながら追い掛けて来る。錬太郎はセカンドバックから封筒に入っていた母親に送金する為の現金を取り出すとばら蒔くように自分の後方に投げ放った。すると、ばら蒔かれた現金を見た歩行者は、最初状況が飲み込めず唖然としたものの、状況を飲み込むと、こぞって我先にと現金を拾い集め始めた。
「おい!その金は俺のだ!」
「私のよ!!」「あっ!あそこにもまだあるぞ!!」
そんな人々が障害となって警察官達の進路を塞ぐ。
「おい、、おい!!貴様ら!私達の進路を邪魔するんじゃない!!・・おい!!・アイツを捕まえないと・・」
すると、屈強なパンチパーマのおばちゃんが警察に向かって怒鳴り散らした。
「うるさいわね!!犯人なんて知らないわよ!!私達の税金で食ってる奴らが偉そうにするんじゃないわよ!!私に取ってみればね、あんたらなんかよりさっき金ばら蒔いて行ってくれたあの「ねずみ小僧」みたいなあの人の方がよっぽどありがたいわよ!邪魔するんじゃないわよ!!」
おばちゃんは強引にその大きなお尻で警察官達を弾き飛ばした。その攻撃に警察官達は尻もちをついてしまった。
「・・くそが!!せっかく奴を捕まえて、組織を一網打尽に出来るはずだったのに・・おい!!貴様!何をしてる?」
その目線の先には、同僚の一人の警察官が我先にと、先程錬太郎がばら蒔いたお札を拾い集めてる。
「えっ?何って小遣い稼ぎに決まってるじゃないですか?」
「小遣い稼ぎ?」
「そうですよ。だってアイツはいずれ捕まるでしょ?仮に捕まらないとしても、そんな奴は持ち主だって名乗り出る可能性は低い。仮に捕まってこの金の事を主張しても最悪揉み消せば良いでしょ?」
「・・確かにそうだな。よし!!皆で拾い集めろ!!拾っている歩行者も逃がすなよ!歩行者には持ち去りは窃盗だと周知して回れ!!」
「はい!!」
現場の警察官達は、拾い集めた現金を持ち去ろうとする歩行者を制止し、無理やり回収した。更には、自分達で集め終わると、その場にいる現場の警察官で分け合っている。
「分かっているだろうが、この事はここだけのみんなの秘密だからな!」
「分かってますよ!!安心して下さいよ。わざわざ小遣いを捨てたりなんてしませんて!!」
そう言うと警察官達は笑いながらその場を立ち去っていった。
一方その頃、警察官達を振り切った錬太郎はなんとか路地裏の細い道に逃げ込んでいた。荒く息切れをする錬太郎。
「はぁ~・・はぁ~・はぁ~・・くそが!!アイツに嵌めらたのか!!・・あのくそ野郎・・事務所帰ったら、絶対に制裁してやるからな!・・」
「・・やれるもんなら、やってみろや!!このクソガキが!!」
「えっ!?」
次の瞬間、何者かに背後から体当たりして来たかと思うと、腹部に激痛が走った。見ると、背後から腹部を刃物で刺され貫かれている。体の力が自然と抜けていき、地面に倒れる錬太郎。
腹部を刺された事も手伝い、口から血を吐いて、地面に寝そべるように倒れてしまった。
(くそっ・・誰だ・・声には聞き覚えあったけどよ・・)
すると、上の方から声が聞こえた。見上げるとその声の主はやはり例の古参の構成員の者であった。
「はっはははは・・やってやったぜ!!これであの組織のリーダーは・・いや、あの組織は俺の物になる!お前はずっと目障りで生け簀か無い奴だった・・これでスッキリだぜ!!」
「・・はははは・・・・」
「うん?・・まだ生きてやがったか?しぶてぇ野郎だな。何が可笑しい?」
「可笑しいに決まってるだろ。てめえみてぇな奴が!組織を仕切れると本気で思ってやがるのか?笑い話も大概にしやがれ!どうせするなら、お笑い芸人にでもなってコンテストでも出やがれ!!・・まぁ初戦突破も出来ないだろうけどな!!」
「てめえ~・・言わせて置けば・・早く彼の世に送ってやるぜ!!」
古参の構成員は弱り切った錬太郎の体を容赦なく、サッカーボールキックで何度も蹴り飛ばした。そして、最後には腹部に刺さっていた刃物を取り出すと、最後には首元に容赦なく突き立てた。
錬太郎は自分の血みどろの血溜りの中に顔を埋めて、そのまま絶命したのであった。
(俺は一体なんの為に生きて来たんだ?・・金を楽に稼いで楽に生きる為だったのか?・・他人に恨まれる為だったのか?・・いつから俺は道を踏み誤ったんだ・・次・・生まれ変わるなら・違う人生を・・出来るだけ良い人生を歩み・たい・・)