05宿屋での密会(後編)
「古今東西、名前というのはそれだけで力を持つ。
私の名前とトモ殿の名前の意味が同じだとするならば、最後のひと押しが名前の持つ力だったかもしれない」
「そんな・・・・」
「勿論これは憶測だ。だが・・・他の対象者から最後の後押しになったかも」
それなりによくある名前だという自覚があった。
なのに、こんな人生に関わるほどの重大な場面に影響するとは・・・
でもそれはこの人のせいではない。
「・・・教えてくれて感謝する」
「すまないね」
「なんで謝るんだよ」
「少なくとも私がいなければ、トモ殿はこの世界に来なかったかも知れないだろう?」
にゃあ にゃん んなぁ
「ふふ。きのこ殿は優しいな。だが、トモ殿も貴方たちも無理やりこちらに呼ばれたんだ。
その原因の一端が私にあるのなら、それは申し訳ないと素直に思うんだよ」
なん なぉん にゃ
「今度は手厳しいね。大丈夫わかっているよ、私はキチンと責任を持つつもりだ。
君たちを安全な国に。安全な生活の確保ができるまで行動を共にしよう。何より初めからそのつもりだしね」
にゃん
「ありがとう」
「ま、待ってくれ!!!!」
待ったをかけたオレは絶対に悪くない。
「ん?どうしたんだいトモ殿」
「どうした?じゃない?なんださっきの?!アンタ、きのこの言ってることがわかるみたいじゃないか?」
「みたいじゃないくって、実際わかっているんだが」
「なんで?!この世界の常識?!!」
「・・・トモ殿、君会った中で一番興奮してないか?」
「興奮もするさ!!オレの飼い猫なのに!なんで?!」
んな
「きのこもそんなしょうがないなぁ・・・みたいな声出すなよっ」
「トモ殿。正確には、落ち着け。と、きのこ殿は言っているぞ」
「だから!なんで?!」
オレが絶叫のように叫ぶと、リヒトさんは、にっこり笑う。
「私の特殊スキル:意思疎通の効果だよ」
「特殊スキル?」
異世界的な言葉だ。
「トモ殿の世界にあるかはわからないが、この世界では【魔法】があって、その中に【特殊スキル】とういうものがある。
特殊スキルは通常のスキルと違って、その人間個人のものだ。
私の特殊スキルは、<意思疎通>
意識を持って発せられたもの、魔力を含んだものであれば読解可能で、また私の言葉は相手に訳されずとも自然と伝わる。
・・・もっとも君たち異世界からの召喚者を見ていると、異世界人も持っているスキルのようだ」
「・・・動物もわかる?」
「普通なら難しい。ただ、きのこ殿とだいず殿は異世界から渡ってきた点。
特にきのこ殿は長い年月を生きていてトモ殿と同じ言葉を理解している点。7つ目の魂のため魔力持ちだという点で、彼の言いたいことはわかるよ。
私が猫の言葉を言えるか。と言われれば、そればできないけどね」
「・・・つまりリヒトさんは、そのスキル?できのことだいずの言葉がわかる。と」
「そうだね」
「・・・きのこの7つ目の魂というのは・・・」
「猫は何度も生まれ変わり、魂を増やしていく。彼は7回目の生だから7つ目の魂。
魂が多ければ、猫は魔力を蓄え魔女の使い魔になれるし、通常の猫よりこずっと長生きする」
なぁん
「トモ殿。きのこ殿は長生きはするが、貴方のそばを離れるつもりもないらしい。
幸せものだな。君は」
にゃ~~~
きのこは鳴きながらオレの膝に乗り、そのままオレの鼻を一舐めした。
「私は、君たちみんなを守りますよ。」
・・・嬉しいが男に言われても嬉しくないな。