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04宿屋での密会(前篇)



予想外の言葉に息を飲んだ。

だが、目の前の男はそれすら想定内だったのだろう。

クスクスと笑っているだけだ。


「どうして、それを」

「ん?秘密にしていたいのか?確かに言いふらすような内容ではないからね。

あぁ、もう、話口調が面倒だ。君、私は確かに王族だったけど今はただの一人の男だ。

君が私に危害を加えても何も罰なんてなし、権力なんて何もない。だから同じ立場の人間として話をするよ。君も普段の話口調で構わないから」

「え」


男は息を軽く吐く。


「まずはお説教をさせてくれ。

君は目立つんだ。私以上にこの国では異質な見た目で、そんな怪しげな男が金貨をだして酒を奢るなんて、

怪しんでください、襲ってください。って自己紹介してるもんだよ」

「あ~~それは」

「うん。まぁ今の金の価値なんて私もわからなかったし、君は一番欲しかったのは情報なんだろ?冒険者に色々聞いてたし。

君が声をかけた男はまともな冒険者で良かったけど、もしそうでなかったら君は今頃殺されてたかもしれないんだ。もしくは今夜全財産を奪われていたと思う」


自分の甘い行動と考えに血の気が引く。

あの時はそれが最善だと思っていたから、第三者に指摘されて危ない橋を渡っていたことを理解したためだ。


「おそらく君は人を見る目があるんだろう。もしくは運のステータスが高いのか。

それに質問の選択も間違ってはいなかったから、あの冒険者はきっと今頃他の冒険者や傭兵を牽制していると思うよ」

「そんな」

「それは君が気にするところじゃない。冒険者同志で顧客の取り合いや確保はよくあることだ。

仕事をもらえて金払いもちゃんとしてくれそうな客は手放したくないからね。でもすり抜ける輩だっているだろう。

だから私は君にアレを飲んでもらった。なにより君とこうしてじっくり話をしたかったし」

「あの薬?は、なんです?」

「君、口調。本当に気にしないから普段の口調にしてよ。これから長い付き合いになるのに、そんなに緊張した言葉は私が嫌だな。

あれは薬じゃないんだ。私が作ったのも嘘」

「嘘?!薬じゃない?!」


変なものを飲ませやがって!!と慌てる。


そうすると彼はそれが面白いのか腹を抱えて笑った。

きのこからはうるさいとにゃーと文句の鳴き声を貰ってしまう。


「あぁ済まない。うるさくしたね。

あれはね、幻影を見せる植物の種だ。下位種のものだから実際に幻影は見せないんだけど、飲んだ人間を認識しにくいっていう認識疎外の効果がある。

いるけどいない。背景の一部で印象に残らないようなる。時間は1時間程度だ。これ副作用もないから便利なんだよ」

「認識しにくい・・・」

「あの冒険者が離れたときから君を襲おうとするやつらが動き出したからね。先手を打たせてもらった。因みに私は中位種と別のものを飲んでいるよ。

だから今君がこの宿にいるっていうのをわかっているヤツはいないんじゃないかな?」

「え、ぇえ」

「良かったじゃないか。この国を出るまでは一緒に飲むよ?もちろん冒険者にも飲ませるつもりだ。なんせ騎士が狙ってきているんだもの。

襲われて返り討ちにするにも相手の技量もわからないし、面倒ごとは避けておいた方がいい」

「あの」

「ん?」

「貴方の言い方だと、なんか一緒にこの国を出るって言っている気がするんだけど」


彼は驚いたというように目を見開き、今度はもっと声を上げて笑った。

笑い上戸か?こっちは笑いごとゃないんだが。


「勿論!私は君と一緒にいくよ!

気になることもたくさんあるし、魔法も使えるからきっと役にたつ!!

同じ今のこの世界には知り合いがいない仲間だ。仲良くしようじゃないか!」


それに、と続ける


「私はアイテムボックス持ちで、その許容量は兄に劣ってはいたが、一般貴族たちよりはずっと多かった。

生活魔法だって使えるし、精度も高いから飲み水の心配は必要なくなる!

金は逃げ出すときに持ってきたし、ポーションづくりに必要な薬草はもともと私の持ち物だから全て持ってきたんだから!!」


だから心配しないで?とニコニコという彼。

もう溜息しかでないし、きっと断っても後ろからついてきそうだ。

怖いなこの人。



------------------------------------------------------------



結局2人でこの国をでることに決まった。

この男前の交渉、ゴリ押しの脳筋タイプである。



「それで、なんで俺が勇者召喚で来たってわかったんだ?

あんたみたいな綺麗な顔、城で見た覚えがないし、見た目は、確かにこの国とは違うけどそれだけでわかるもんなもんなのか?

それに同志ってどういう意味なんだ」


ヤケクソだ。自分が知らないことでこの男前が知っていることは全部聞いてやる。

男前は、まぁまぁと手を上下させた。その動作は世界共通なのか?


「ちゃんと全部答えるからそう怒らないでくれ。

まず、私は君が召喚された場には確かに居なかったが城にはいたんだよ。

尤も、私の存在を知っている人間はいなかっただろうけど」

「?どういう」

「うん。1つずつ説明するね。

最初に、これが一番重要で全てだが、私はこの土地の人間だが、この国の人間じゃない。

なんならおそらくこの時代の人間でもない」

「は?」

「私は100年、200年、どれだけ月日が経っているのかわからないがかつてこの土地に存在したセルアドス王国の第五王子だった。

でも、スタンピードと他国の侵略が同時に起こり、国を守るために戦った。

だが数の暴力は圧倒的で、一緒に戦った者たちはどんどんその数を減らして、残り僅かとなって、国が落ちる目前となった時、生き残った魔術師に転移の魔法陣を起動させられて、君が召喚された城の地下。かつてのセルアドス王国宝物庫で仮死状態だったんだ。

本来なら危険がなくなれば目覚めるものだけど、魔法陣が完璧じゃなかったからね、目を覚めるには膨大な時間と魔力量が必要だったんだ。

宝物庫は籠城できるよう隠蔽の魔法陣がかけられているからきっと今まで知られることがなかったんだろう」

「・・・・」

「目覚めることは通常ならありえなかった。きっと召喚なんてなかったらそのまま死んでいたと思う」

「でも、今ここにいる」

「うん。条件が満たされて目を覚ました。じゃあどうして目を覚ましたか。って思うだろ?それに国そのものも。

私が魔法陣を発動されたのは、戦いの最中だったんだ。

勝ったのか、負けたのか。どちらにせよ、国がどうなっているのかが気になるのが普通だろ?

・・・私も国を守る王族の一員だからね」

「そう、だな。うん」

「だからまず、遠見魔法で状況を確認した」


彼は手を丸くし、眼の前に持ってきた。

覗くようなジェスチャーだ。


「知らない人間が、見知らぬ外見の人間を囲っていた。そして【勇者】と叫んでいる」

「あの時か」

「そう。君がその後すぐに剣を突きつけられたのを見てたよ」

「・・・」

「で、あぁこれは勇者召喚のせいだなぁっと。伝承は知っていたしね」


沈黙。きっと話していないこともあるだろうが、彼が自分と同じようにこの世界に召喚?されたことはわかった。

そして王は勇者・聖者・賢者の3人の召喚を行ったと言っていたから彼は自分と同じ余分なものなのだろう。


「なぁ」

「なんだい?」

「どうして俺やアンタがこの世界に来たんだ?」


考えることをやめていた内容だ。

偶然。

その一言で済ませられた現状だが、どうしても彼の意見が聞きたかった。


「私は召喚に関しては全く分からない。今のこの国の魔法や魔術、魔法陣や技術も知らないから憶測なる」

「構わない。アンタの意見が聞きたい」


彼はゆっくりうなずいた。


「おそらく、召喚時に必要な魔力量、召喚するべき日や時刻、何より召喚魔法陣に間違いがあったと思う」

「間違い・・・」

「異世界からの召喚は一応系列としては時空魔法に入る部類だ。

時空を捻じ曲げて、無理やり条件に合った人物を呼び出すという召喚魔法だという。

この時使用する魔力量は膨大だ。だが多ければいいというわけではない。

一つの目的で集められた魔力は色を持つ。

それは魔力に方向性を持つことになる。だから多いからと言って余剰分は自然に離散されない。多い分は条件に合う他の人物の召喚、魔力補充になったんだろう。

召喚魔法は魔法陣が必要で、魔法陣は必要な材料、分量、陣の模様。全てが完璧じゃないと発動されても不完全だ。もし完璧なら余剰魔力は【召喚】のみに使われただろうけど、【私】の目覚めに膨大な魔力が流れ出たことから不十分だったことがわかる。

・・・私の時代では異世界召喚は禁術だった。例え召喚が成功したとしてもどんな人間が来るかわからない。そんなリスキーな魔法は普通の感覚ならやらないさ。

今回は目的の人物を召喚できたみたいだが、代わりに私達のように[オマケ]が出たんだろう」

「オマケですか」

「言い方が悪くてすまないな」

「いいや、アンタも同じ立場だろう?謝ることじゃないさ。

‥‥元の世界に戻ることはできると思うか」

「わからないが、私はできないと思う。過去、欲深い国が異世界人を召喚したという伝承はあったが、戻ったという話は知らないんだ」

「・・・そうか」


結局彼も俺と同じだった。

勿論目の前の彼の言葉を全て信じているわけじゃないが、それでも地球の日本に戻る方法を知らない。というのは本当だろう。

それと、召喚魔法の[オマケ]だという点も。

本当に過去の人間なのかは知らないが、この国の人間じゃないのは確かだろう。


「アンタは、俺に何をして欲しい?」

「おや?」

「俺はまだアンタを信用していないが、それでも他の人間よりは信用する。

なにより味方が欲しい。俺には俺自身の他にこいつらがいるから」


例え世界が変わろうともペットの一生は飼い主が責任を取らねばならない。

きのことだいずを俺は守るんだよ!!


「私は味方が欲しい。それも裏切らない絶対的な味方が。

この世界で何ができるかはわからないけど、私は幸せに、不安なく生きていきたいと思う」


「まっじかアンタっ!」

あんまりな解答だ!欲望に忠実すぎるだろ!

味方が欲しい。なんて俺も同じだけど、その目的が素直すぎる。

日本で生きていた時に、仕事に疲れた客が良く言って言ってたけど、まさか異世界にきてまで聞くとは思わなかった。


「っわかった!俺はアンタを信じるし一緒にこの国を出よう!その後一緒に旅をするかは旅の中でお互いに決めよう」

「そうか!」


彼はまばゆい笑顔を浮かべる。

そこまで純粋に喜ばれることなんて現代日本ではなかったことだ。

・・・俺は嬉しくなった。


「では、しばらくよろしく頼むよ。友よ!魔法や私について、君について、国について、お互いに教え合おう」

「そうだな。よろしく頼む」


右手を差し出す。


「これは?」

「あぁこれは握手という。俺の世界で様々な挨拶の時に使うものだ。

右手同士を握り合う」

「なるほど・・・」


彼はおずおずと握手をする。


「君のことを知れたね。

改めて。私は、この召喚魔法でかつての仮死魔法から目を覚ました、セルアドス王国第5王子。

名は、リヒト・セルアドス。セルアドス語で「友」という意味を持つ」


「これからよろしく頼む。俺は荻野友則。親しい人間には「とも」と呼ばれている。

俺の「とも」も俺の世界の日本で「友」という意味を持つ。

あと、こっちの猫が「きのこ」。こっちの犬が「だいず」だ。この2匹は食材の名前からとってる」


「・・・すまない。もしかすれば君がここにきた原因私も関係してるかもしれない」


なんだって?


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