03英国風男前と塩顔日本人
男は平民が集まる広場にいるには似つかない人物だった。
広場及び王城内で見た覚えはない。
単純に忘れた可能性も考えるがそれはないと言い切れる自信がある。
(すっげぇイケメン。で、この人貴族だよな・・・?)
だってすっごく顔が整っているのだ。
王宮で見たこの国の王子様もなかなかのイケメンだった。
さわやか系で自信に満ち溢れていて、性格の悪さが隠し切れてない悪役系だが。
この男は、男前と表現したほうが正しいだろう。
(イケメン、男前、二枚目は同じ格好良いでも分類が違うって妹も言っていたな)
この男前はイギリス俳優系だ。
王子様みたいにキラキラしているけど、そこに少しだけワイルドさがありつつも、温厚な雰囲気がある。
間違いなくモテルタイプだ。こんな顔が良い男前を見たら、印象的で暫くは忘れないと思う。
もっと、俺は女の子が大好きだし、同じ男の造形に興味は薄いが。
「た、楽しんでもらって何よりです」
「あぁ!すっごい楽しい!久しぶりに此処に来たが今日はとても善き日だな!友よ!」
すっっごい力強くないか?!この男前!
肩にかけられた腕を下ろそうとした。そう下ろそうとしたのだ。
けれでも男前の腕はピクリとも動かない。
彼は優男風に見えるしどう見ても筋肉粒々な冒険者には見えない。
どちらかといえば酒瓶の持ち運びで鍛えられている自分の方が体格は良いように見えるのに、全く動かせないのだ。
「友って・・・私とあなたは初対面だと思いますけど」
「ん?なんだ、このうまい酒と串肉はお兄さんの奢りだろう?」
「え、あ、はい」
「なら、それを楽しく飲んでいる私達はすでに友だ!!常識だろう?なんだ?酔ってしまったからそんなことも忘れたのか?それはいけないな」
うんうん。と頷いているが俺としては酔っているのは男前の方だ。
それに、正直酒も串肉も上機嫌になるほどうまくない。
日本で飲食店を経営していた身から言わせてもらうとまずい部類だ。
素材の味を活かしていると聞こえはいいけど、物足りなさがある。
(というかどうして誰もこの人を見てないんだろ)
こんなに目立つ人なのに、誰も彼に目にしないのが違和感だった。
男前な顔立ちに気品のある姿はきっと間違いなく貴族なはずだ。
着ている服は他の誰よりも上品だし装飾も凝っている。
見事な服ではあるが、この国の服装とは違い違和感が残る。
もっとも着ている本人にはとても似合っているが。
「聞いているのか?友よ」
「へ?」
「なに?聞いてなかったのか?それは本当に酔っているな?なら私が酒を奢ってもらったお礼に良いものをあげよう!!」
そもそもザ・ヨッパイに絡まれているのに、周囲に気を配っていたゴーンさんさえこの男に気が付いていない様だ。
男前は何やら空間をゴソゴソと漁っている。
ていうか手首が途中から消えている。あれがアイテムボックス?というものだろうか。
手探りでわかるようなものなのか?
「あった。これだこれ。お兄さん、これを飲むといい。私が拵えた酔いにとてもよく効く薬だ。
昔酒に弱かったときに作っていたんだがまだ残っていたんだよ。これは次の日の頭痛や胸やけがない良品だぞぉ」
「あ、ありがとうございます」
渡されて思わず受け取ったのは白い錠剤のようだった。
米粒を一回り大きくしたようなソレは匂いはしない。
「安心して飲んでいいぞ?」
「いえ、これっていつのものですか?」
「あ~~~いつだったか・・・忘れたな!ま、気にするな!友よ!」
「いえいえいえいえ、気にしますって!!」
「なんだ?小さい男だな」
なんとでも言え。
俺は品質に厳しい日本で育っているんだ。
ましてや異世界で知らない人間から貰う薬なんて怪しすぎる。
けれども、男前は俺の態度は想定内なのか、同じものをを自分も持っていた。
「古さを気にするなら必要ない心配だ。私のアイテムボックスは時間経過はないから、いつだって作り立ての状態だぞ?
あぁもしかして薬そのものが心配なのか?なら私も同じのを飲んでやるから心配するな!
今日はいつもより量を飲んでいるからな。飲まないときっと明日はベッドとも友人になってしまう」
ニカっと笑う。
「そうそう、噛まずに飲め。噛んでしまうと苦いし、何より中から匂いが出てしまう。そうなると暫く身体が臭いからなぁ。
あれはひどい臭いだ。噛まなければ臭いはでないから安心しろ!」
そういってさっさと男前が薬を口の中に放り投げ、酒で流し込んでた。
(薬を酒で飲むって駄目だろ)
とは思いつつ、じぃっとこちらを見ている。
視線に耐えかね、真似るように酒で薬を流し込んだ。
(これだけ弱い度数だ。問題ない、はず。だ)
でもできればすぐに安静になりたい。この人がいないところでさっき飲んだ薬を吐き出しておきたい。
万が一この薬で体調が崩れてた明日この国を出ることができないかもしれない。
「よしよし、飲んだな。嬉しいぞ友よ」
「あの、確かに俺は酒奢っていますけど、それは貴方だけじゃなくって、ここにいる皆さんにですからね」
「わかっているぞ!友よ!その心意気から私は君のことを友と呼ばせてもらってる」
「はぁ」
「いや、私は暫くここに来れなかったからな。ようやく戻ってこれたがなんだか賑わっている場所があるじゃないか。
それも喧噪ではなく、皆が同じものを飲み、食べ楽しそうにしている。
最初にこの風景を目にしたときはそれはそれは驚いたさ」
「はあ」
「聞けば見慣れない男の奢りだという。店主は機嫌よく私にも酒と串肉をくれたよ。いや、私も暫くぶりのまともな食事にありつけて嬉しいのさ」
なんだか途中途中に気になる単語が出てくる。
串肉がまともな食事扱いになるとはこの人の食生活が心配になる。
もしかして、[武士は食わねど高楊枝]のタイプなのだろうか。
「ところで君」
「は、はい?!」
「今夜の宿はもうとっているかな?」
問われてふるりと首を横にふる。
王宮から出てまっすぐこの東区の広場に来たのだ。
宿をとるのはもちろん、どこに宿があるのかわからない。
「なに?とってない?そうかそうかそれはいけない。
君は今日は人に奢ることができるくらいには懐に余裕があるんだろう?
なら野宿はお勧めしないな」
「そうですね。私もできれば屋根があるところで眠りたいです」
「そうだろう。それにもうじき日が暮れる。そうなると危険だ。
ここは森ではないからそうそう魔物は出ないとは思うが、どの時代にも荒くれ者はいるかなら。襲われてたら大変だ」
「そ、う、ですね」
「友よ。私もまだ宿をとっていない。それに君にはそこの2匹もいるだろう?
私ならその動物が同じ部屋にいても気にならないからどうだ?一緒の宿をとらないか」
この男、まさか男色か?
「あの、私初対面の男性と一緒になる趣味はないんですけど」
身の危険を感じ、言ってしまった。
だが、男前は発言が面白かったのかケラケラ笑っている。
「私も一緒に寝るなら固い男よりも柔らかい女体が良いさ!それに私には妻がいるから浮気はしないよ」
意外、この男結婚していた。
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「まさか風呂桶があるとはな!素晴らしいじゃないか!」
「・・・ですね」
結局宿は同じ、しかも同室になった。
この男前、顔に似合わず交渉はゴリ押し、脳筋タイプである。
基本的にこの辺りの宿は2人で一部屋で、一人で借りようとすると相部屋するらしい。
勿論もっとランクが高い、貴族が止まるような宿屋なら1人一部屋もあるそうだが、選んだのは似たような宿屋が立ち並んでいる平民向けの宿だ。
この宿の女将は最初から二人組の俺たちの宿泊を喜んでくれたが、男前が言っていたように俺が連れている猫のきのこと犬のだいずに難色を示した。
従魔(魔物)ではないし、小型だから同じ部屋で問題ないという男前と、他の宿泊客からのクレームが嫌な女将。
通常なら女将の意見が正しいため俺たちが出ていく、または一晩だけだが従魔の小屋に2匹を預ける。のどちらかだった。
でも異世界で俺もそうだが慣れない環境で2匹も神経をすり減らしているだろう。
普段室内飼いの2匹がこの異世界の夜に安全で過ごせるとも思えない。
男前が察したのかはわからないが、拒否をする女将相手に、その整った顔を全面に、ほぼ強制的にYESといわせていた。
なんなら許可もらうまできっと彼は女将を見つめてただろう。
50歳に近いと思われる女将だが、顔が真っ赤になり彼が手を離したら腰が砕けてた。
顔って凶器になるんですね。
初めて知ったよ。
彼が風呂にテンションが上がっている間俺は2匹にご飯を上げる。
キャリーバックには、震災避難に備えていつもカリカリが備えてあるのだ!
震災はおろか世界変わっているけど。
(意外と2匹とも落ち着いてるな)
今日一日パニックになることなく、大人しく俺の側にいた2匹は男前にも多少心を許したようだ。
俺が風呂から上がると、なにやら「うんうん」と男前がきのこの鳴き声に合わせて返事をしていたから。
もしかしたら彼は動物好きなのかもしれない。
<乾燥>
彼が呟くとぬれていた俺の髪が乾く。
「へ?」
「サービスだ。これが魔法、その中でも生活魔法といわれるわずかな魔力でも使える魔法だよ」
「へ?」
男前はにっこりと笑い、
「今のこの世界についてはそこまで詳しくはないけど、たぶん君よりは詳しいはずだ。
私や魔法について明日までに多少話しておきたい。君の話も聞きたいしね。勇者召喚に巻き込まれたもう一人、異世界人さん」