02広場で情報収集:報酬は酒
俺は城下町の中でも平民で賑わっているという東区にきた。
王宮でたたき出された際、俺を摘まみだした騎士様に
「すみません、俺みたいな風貌が怪しい人間が万が一にでも貴族様の居住区にでも迷ってしまったら問題です。こちらから一番近い平民で主に賑わっている場所はどの方向になりますでしょうか」
て聞いておいたからな。
ザ・日本人顔にパーカー姿はこの世界では異質だし、王宮内だと俺が異世界人ってわかっているからいいけど、一歩外にでると俺のこと知っている人間なんて皆無だ。
・・・・寂しくなんてないからな!
下手に出たのが良かったのか、それとも本当に貴族に俺という異分子を近づけたくなかったのかは判断できないけど、騎士様は東区に行けと、その方向に指を指して教えてくれた。
雑な扱いだしデフォルトで睨んでくるからめちゃくちゃ怖いけど、こっちが礼儀をもって対応すればそれなりに欲しい答えを返してくれるから、性根まで腐ってないぽいな。
彼はこれから昇格してほしい。
で、その東区は平民の人たちで確かに賑わっていた。
日本に居たときはもう殆ど日が暮れていたけど、こっちでは夕暮れ時のようだ。
晩御飯を買いに来た様子の母親や仕事後の一杯だろう酒を購入する労働者、それに多分冒険者や傭兵?と思える人達で賑わっている。
時代的には中世ヨーロッパと近代の中間あたりだろうか?
よくあるファンタジー映画かゲームみたいだ。ちょっと背景に凝ってる綺麗なファンタジーもの。
俺有名どころしか知らないから詳しくないけどさ。
顔を変えることなんてできないから最優先は服装をこの世界に合わせること。
それで少しはこの視線はマシになると思う。
あとはお金の価値と宿だな。
異世界初日で手元に金貨があるのに野宿は避けたい。
1時間後、俺は見事服と情報と酒、あと串肉を手に入れた。
東区はどうやら平民の買い物市場といった具合だ。
あちこちに店舗はもちろん出店が出ている。
富裕層と貧民層の間、本当にザ・平民が集まっている区らしい。
強面騎士様そこまで考えてくれたんだな。
きっと富裕層地区だと俺は門前払いだし、貧民層だと一瞬で何もかも奪われただろう。
ありがとう強面の騎士様。昇進してほしい。仕事と気配りができる男だった。
服は古着の出店で購入。
服は割と高級品扱いで平民は古着を買うのが一般的だそう。
店舗で買う平民もいるけど、そういう場合はどこかに出入りしていて貴族や富裕層に会う場合ある人達ぐらいだそうだ。
支払いは貰った金貨。金貨で払ったら古着屋のおかみさんはちょっと驚いてたな。
次は冒険者や傭兵ぽい人達で賑わっている屋台に出向いた。
どうやらここは酒と串肉を売っているらしい。
「すみません、この金貨1枚でここの人達にお酒と串を奢ってください」
金貨は勿体ないがここでケチって情報が間違っているのは避けたかったのでこれは必要経費。
店主さんは一瞬目を丸くし、「今日はこの兄ちゃんの奢りだ!!」と宣言した。どうも金貨1枚はこの店1日分の売り上げより高いらしい。
なんで、おつり代わりに色々と教えて貰うことにした。
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貨幣について
・その国の記念金貨以外は貨幣ギルドが全てを担っている。
・これは様々なギルド、またそれに属する人間は国を超えて活動するためである
・記念金貨はその国では価値が高まるが他の国では通常の金貨と同格になる
・記念金貨は大抵人が描かれている
・貨幣ギルドの製造している貨幣には偽装防止の魔法が掛かっている
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俺が持っているのは貨幣ギルドが製造している金貨らしい
貨幣の種類について
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鉄貨・・・10円
銅貨・・・100円
半月銀貨・・・1000円
銀貨・・・10000円
金貨・・・100000円
白金貨・・・10000000円
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服は銀貨1枚
酒(麦酒。あまりうまくない炭酸無しのビール)は銅貨2枚
串肉は鉄貨5枚
つまり王様は500万円俺にくれたってわけだ。
え、やば俺かつてないほど金を持っている。
やっぱり王様の価値観は庶民と違うね。500万は大金なのに、あの人「少ない」って言ってたぞ。
あと古着なのに服すごく高いな・・・
それに冒険者と傭兵は正しく冒険者と傭兵でした。
ギルドの種類は
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・冒険者ギルド(魔物狩りやダンジョン踏破、また道中の護衛など)
・商人ギルド(販売を行うためのギルド。またギルド内での商談も可能)
・貨幣ギルド(この世界での貨幣を作成している)
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がメインどころで他にも傭兵や薬師、服飾など人の職業に応じてギルドあり。とい感じらしい。
冒険者ギルドと商人ギルドがこの世界で一番大きく、融通が利くので人気だ。
例えば冒険者ギルドで依頼したものが傭兵ギルドでも募集をかける。
商人ギルドで商談依頼したら各ギルドで見合ったものを紹介してくれる。
等があるらしい。
ギルドが大手会社で細かいギルドは組合みたいな感じか?
また冒険者と商人、あと傭兵ギルドは登録すれば登録料、更新料がランクに応じて必要にはなるが国や都市への出入りする際に1回1回の支払いが免除になる。など特典もあるそうだ。
この3つは基本的に人の移動が必要になるからだな。
宗教についても教えてもらった。
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・日本と同じく多神教でどの宗教を信仰しても罰則も強制もないとのこと。
・主神はいるが別に宗派というわけではないとのこと。
・それぞれの神でそれぞれ教会がある。
・主神の教会はお布施という名の治療費は払う必要があるが、どの宗派や種族でも平等に治癒を施してくれる。
・主神の教会はどの国でも同じ作りとなっているためすぐにわかる。
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これは冒険家と傭兵の人がこの国の人から隠すように教わったが
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・この国及び周辺国家は人至上主義
・宗教も人至上主義の教会が一番大きく、また国民は他の宗教を信仰しないよう国で定められている(主神の教会だけは別)
・亜人(エルフ、獣人、ドワーフ、ホビット)は人至上主義の国では尊厳も権限も持たない
・ダンジョンも鉱山もあるこの国は裕福に見えるが貧困も差別も酷い
・王様を初め貴族は他国侵略を推進していて他国との衝突が絶えない
・奴隷にされると男は基本的に戦場か鉱山行きのどちらか
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だという。欲しい情報が一気に手に入ってしまった。
金と酒の力は偉大なり。
これは一日でも早くこの国から脱出しよう。
周りの国も危険だ。できれば反対方向で、差別がないような平和な国で生きたい。平和ボケの日本人に戦争が身近な国は無理だわ。
俺はこの国の事情を教えてくれた冒険者さんに質問を続ける。
「あの、もし私が商人とか冒険者ギルドに登録したい。ってなったらどうすればいいでしょうか?」
「登録ならそのギルドに直接行けばいい。アンタ細いし軟弱そうだから冒険者にはなれんだろうけどな」
「あはは、ですよねぇ。私荒事とか苦手ですし。もし護衛を依頼するってなったら冒険者ギルドでしょうか?」
「だな。ほらここから正面に見えるのが主神様の教会。その隣にあるすげぇ豪華なのがこの国が信仰してる人至上主義を掲げてる教会。
んで、その手前にある建物。主神様の教会側にあるのが冒険者ギルド。その向かいにあるのが商人ギルドだ。」
「なるほど、ご親切にありがとうございます」
「いいや、アンタにゃ酒にメシを奢ってもらってるしこんな情報なら嘘もつきようがないから問題ない。どの国でもギルドは固まっていることが多いし、建物は大体似てるからな」
「そうなんですね。あ、あの」
俺の直感がこの冒険者は信用できると言っている。
酒を片手に上機嫌に酔っているように見えるが、ちょっとでも様子がおかしい酔っ払いや騒がしくなったらすぐにその方向へ視線を向けている。
常識がないです。って言っているような俺の質問でも嫌がらずに完結でわかりやすく教えてくれる。
何より筋肉の圧迫感や大型の剣の圧迫感はさておき、この人から威圧っていうか、おっかない雰囲気がないんだ。
猫が好きなのかきのこにデレデレしてるしな。
「もし、私が国を移動したい。と貴方に依頼するとなるとどのくらいの予算と準備が必要でしょうか?」
そういうと、彼はフヘっと軽く笑いそして少し考えた。
「俺はソロじゃなくチームだからな。俺のチームに依頼することになる。チームに指名依頼という体で話を進めるぞ」
「はい」
「必要なものは自分の食糧と飲み物だ。途中で村や街に立ち寄るが最低3日分は確保しておけ。依頼を受けた冒険者は自分たちの分は自分で確保するから問題ない。だが、依頼主も自分で用意する必要がある」
「なるほど」
「食料は主に携帯食料。黒パンや干し肉だな。これは冒険者ギルドの売店でも購入できるぞ。味は保証しないがな。飲み水は飲めるまで熟練した生活魔法が使うことが可能なら話は別だが、そうでなければ金に余裕があれば飲み水が出る魔道具と水属性の魔石を買っておけ。冒険者ギルドにも確か置いてたはずだ。荷物がずっと少なくなる。もしアイテムボックスや空間カバンがあるなら荷物量は考慮する必要はない」
「アイテムボックスですか?」
「そうだ。個人スキルに近い天性のやつだ。エルフとホビットが持っていることが多いが人間でも持っている奴はいる」
「へぇ」
アイテムボックス、後で持っているか確認だな。
「アイテムボックスを持っているってどうやればわかります?」
「ん?俺も持っているわけじゃないから人から聞いた話だが持っているやつは自然とわかるらしい。自分が魔法でどんな属性があるか無意識にあるかわかるようにな。あとは冒険者ギルドと商人ギルドだと登録した時に簡易の鑑定がされるからその時だな」
「鑑定ですか?」
「そう。言っとくが鑑定魔法なんて便利なもんはおとぎ話だ。だが契約魔法の応用で簡易だが鑑定できるみたいだ」
「へぇ・・・簡易ってどのくらいわかります?」
「なんだお前、知られちゃまずいことでもあるのか?」
はい、異世界から来ましたのでバレるとまずいです。
なんて言えません。
「わかるのは性別、種族、属性魔法、鑑定魔道具に記録があれば個人スキルだな。」
「あれ?名前は?」
「名前は血からじゃわからんそうだ。役職で改名するやつもいるし、そもそも名前は数が多すぎて鑑定魔道具に設定したらそれだけで使い物にならなくなるらしい」
なるほど。【鑑定】とはついているけどある程度予想できる範囲で登録して、その情報に当てはまるものを表示する。
という感じぽいな。
これなら異世界人なんて特殊すぎる情報は登録していないはずだ。
「依頼料としては、俺たちはBランクの冒険者でグループ指名。さらに国越えだからだから相場としては金貨5枚だな。勿論移動する手段と距離で値段は変わるが、最初の目的地に着いたところで更新になる」
「なるほど・・・ちなみに値引きとかあります?」
「ふはは!冒険者相手に値引き交渉か!大胆な奴だなアンタ!
基本的にはない。が、例えば途中の食事を依頼主が払うなり、移動が徒歩じゃなく馬車持ちだったり、金以外の報酬があるなら多少は変わるだろうさ」
「そうなんですね。それにしても金貨5枚ですか」
「おっと、依頼するならギルドを通せよ?道中は魔物が出てくるだろうし、失敗すれば俺たちに罰金が発生する。5人でチームを組んでいるしBランクは高ランクだから依頼料は高くなるのは当然だろ」
「そうですよね。・・・しかし」
「なんだ?」
「冒険者って儲かりますね」
「その分危険と隣り合わせだ。Cランク以上になれば高ランクの仲間入りとされて金額が高くなる。その分の安全を買っていると思え」
「はい」
「ま、冒険者の中にはSまで行って簡単な仕事の依頼料だけで生活してるやつもいるがな」
彼、Bランク冒険者のリーダーをしているというゴーンさんは少し苦々しくそういった。
そのSランクとはひと悶着あったそうだ。
「依頼するなら冒険者ギルドにいって、目的地と指名することを受け付けに伝えるといい。この街にいるならその日中に知らせがくるだろう。早ければその日中には移動できる」
「その日中ですか。ずいぶんと早くできるんですね」
「俺たち冒険者はスピード勝負でもあるからな。必要なもんは冒険者ギルドで仕入れすれば問題ない」
「なるほど」
「あぁアンタ無知っぽいから一応言っておくけど、目的地がわからなかったら受付嬢に言えば地図を見せてくれるぞ。あと買える」
「地図!そうですね。そうします」
やっぱり知らなかったか!
ゴーンさんは楽しそうに笑うと、今の話を仲間にも共有しにいった。
明日にでも彼らを指名してこの国を出よう。
「よ!お兄さん!この酒あんたの奢りだってな~~!」
こんな風に知らない酔っ払いのイケメンにいきなり肩を組まれないためにも。