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00 プロローグそれぞれ


「さよならだなぁ」


店じまい、いいや閉店を完了させて疲れた。

もともとは祖父が営んでいた小さな酒屋だった。らしい。

それを俺が3年前に遺産相続で譲り受けた。


俺の手に渡った時はすでにボロ屋でかろうじて店をやっていたんだ。って言われて初めてわかる程度にボロボロ。


それでもサラリーマンの少ない休みと給料でYouTubeのDIY動画を見ながらなんとか少しごじゃれたバルに変身を遂げていたんだ。


俺マジすごくない?流行に敏感な妹の意見を取り入れたから女子受けもするし、俺が居心地悪いと意味がないからって理由で野郎にでも入りやすいよう工夫したんだわ。まじで。


俺天才じゃね?そう思ったね。

あの時の感動は忘れられない。


積み上げた結果とこれからの未来が詰まった夢だった俺の城。


でも猛威を振るっているウイルスには敵わず、片田舎とい利便の悪さから補助金では賄いきれずの閉店。

このご時世珍しい話じゃないだろ?


「くそったれが」



店を売り飛ばして、旧家を売って、貯金を崩して、なんとか借金がなかったのは自分でもよく頑張った。


税理士の常連のおっちゃんが助言してくれたんだ。

あの人には後で日本酒でもお礼として贈っておかなきゃならないな。

酒飲むと亡くなったっていう奥様を思い出してよく号泣してた。

そんで時々息子さんを連れてきてたもんだ。


息子さんは今年卒業して、都会の方で頑張って働いてるらしい。

彼は酒は強くないらしくもっぱら一品料理を食べてたもんだ。

細身だが毎回結構な量を食べるのが印象的だった。



旧家を売ることはもちろん姉と妹に相談した。

今は独立して殆ど帰ってくることはなかったけど、それでも3兄弟が住んでいた家だ。


古い建物でよく雨漏りしてたけど、住めば都で今は俺だけが住んでた。


姉と妹は、家に二度と戻るつもりがないから。と旧家を売ることに文句は言われなかった。

俺が生きていくことが大事だと。そう言ってくれた。



「なぁお前ら、これからどうするか」


なぁーん。

くぅーん。


「そうだよな。再就職しないとダメだわ。うん、じゃないとお前らにメシ食わせられないもんな。うん」



「トモーーー!迎えにきたよーー!」

「にいさーん!一旦家族会議しよーー!」



車のライトが俺とかつての店を照らす。


「今行く――!」


しっかり者で泣き虫な姉

要領がよくって料理下手な妹

ハチ割れオス猫きのこ

雑種のオス犬だいず


つくづく俺は家族運に恵まれたもんだ。


「行こっか、だいず」


お座りしていた、だいずに声をかける。


わふん!


なにもわかってないだろう、彼は元気よく鳴く。



うわ、まぶしっ

姉さん、なんでハイライトにしてんだよ。まぶしすぎるわ


ほら見ろ、きのこもだいずも不満気だ。



-------------------------------------------------------------


死にたくない。妻と生きたい。息子と生きたい。

兄上を守りたい。義姉上を守りたい。

国を守りたい。


この土地でずっと生きていきたい。



「行け!愛する妻よ。お前の責務を全うしろ!!」

「私はここにいる!ここで1秒でも食い止める!」

「お前は兄上たちを生き延びさせろ。私たちの息子を育て上げろ!」


国が滅びようとしている今、王である兄を生き延びさせるのが私の仕事なんだ。

怖い。スタンピードも併発している。

妻は瞳に涙を浮かべていた。彼女だって怖いんだ。

だが、彼女は最後まで兄上を守るだろう。そういう女だから。

きっと息子を立派な紳士に育て上げるだろう。私の愛しい妻なのだから。

息子はきっと騎士としての腕も優秀になるはずだ。私と彼女の子供なのだから。



死地への選別に彼女の最後の口づけがうれしかった。



周辺国が徒党を組んで我が国を滅ぼさんと進軍中。

民はスタンピートの兆候が出てすぐに逃げさせた。ここにいるのは自ら残ることを選んだ精鋭立ち。


どんなに勝率が低くても、勝率を上げてみせよう


「なぜなら私は、魔術師で錬金術師なのだから」


魔力続く限り騎士にシールドを張り、ポーションを錬成し、敵を蹴散らす。


「勝利を!!!生存を!!」


生きることが、国民が生き延びることが勝利であるのだから。


どうか全てが終わった時、息子がこの土を踏みしめれるよう。



「愛するもののために今こそ力を振るうとき!!」


鼓舞して、鼓舞して、鼓舞して


「殿下!殿下もお逃げください!」


たとえ絶望的だと知っていても進むしかないのだ。


燃える家屋、森をつぶして迫ってくるのは魔物共。


「逃げぬ!私は王弟!王を守り国を守り、民を守るのが責務!!」


共に戦っていた騎士の数はだいぶ減った。

私の魔力も体力も底が見えている。

それでも止まるわけにはいかないのだ。



王族としての、意地だ。



「もうここは限界です!あなた様は王族!私たちは騎士だ!王族を守る責務がある!」

「国民を守らず、戦わない王族がどこにいる!」

「それでも!私たちはあなたに生きてほしいのだ!!」


父ほど年の離れているだろう、壮年の騎士の声は鼓膜が破れてしまいそうな戦場でもよく響く。


「魔術師!殿下の魔法陣を起動させろ!!」


彼が指示すると私が常に持っている王宮地下への転移魔方陣が強制的に起動された。

魔法陣が強制的に起動されてしまったら、魔力が付きかけている私には贖うすべはないだろう。


ポタリと額から流れ出ている血が汗と混ざる。

もう自分の血なのか汗なのか、それとも返り血か土埃かわからないほどひどい状況だ。


餞別にと頭から振りかけられたもう数が少なくなっているポーションと混ざり合い、首からかけてある魔法陣を刻み付けている魔石へと落ちた。


私の魔力がもっとあれば、アイテムボックスに収納している薬草から新しいポーションを作って彼らの傷を癒せるというのに。

不甲斐ない。



「・・・・貴殿らへ敬意を。そして国を守れ」

「御意!!」


死に行くであろう彼らに我ながらひどい命令を出すものだと、薄れていく意識で思う。


あぁ愛しい妻と息子に会いたい。



共通点:まだその場に居たかった

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