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第四章 第十四幕 水場の修験者

朱莉の陰陽師としての知識、葵衣の博識が合致して、俺たちは天比理刀咩命あめのひりとめのみことが祀られている、洲崎神社へと向かう。


滝田城から須崎神社までは約五里。二刻程歩けばつく距離だ。


山道を抜け、西に向かい海岸に出る。館山だ。

今は一番明るい正午ではあるが、周りは暗い。

皆既日蝕で、一時的に暗くなる事を体験した人々は色々想像する。

日本神話で言えば、天照大御神がお隠れになった話などがそうであろう。

日蝕は、一時的に暗くなるもの。それですら、神懸っていると感じるのだから、この続く暗さはこの地に住むすべての者を恐怖、いやそれを通り越した絶望を与えているのかもしれない。

早く何とかしてあげたい。

その為には、里見八犬伝に出てくる八つの珠が鍵となるだろう。


海を眺めながら簡単に食事を済ませ、洲崎神社に向かう。

右手に海を見ながら海岸に沿って歩みを進めた俺たちは、不思議な庵を見つけた。

葵衣に尋ねると、多分と前置きして「矢尻の井戸」だと教えてくれた。

なんでも、鎌倉幕府初代将軍源頼朝が洲崎に漂着。飲み水に困っていた時、持っていた矢の先端、つまり矢尻を地面に刺したところ水が出る様になったという。それで、矢尻の井戸と名前が付けられたそうだ。


折角なので、水をいただくことにした。豊受気媛(とようけびめ)から常糧袋を貰っているから、水に困る事はないのだが、こういった聖地での水はまた違った味がする。気がする。

井戸の水で、喉を癒していると、奥の山から修験者がゆっくりと歩み寄ってきた。俺たちは瞬時に戦闘準備に入る。修験者の気の強さを一瞬で悟ったのである。

「害を加えるつもりは無い。儂にも水を飲ませてくれ」

修験者はそういうと、井戸から水をすくい美味しそうに呑み干した。修験者という事は、山で修行をしていたのか。修行で疲れていたのかもしれない。


「さて、お主らは何故ここにおるのだ?」

修験者は呑気に話しかけてきた。

「あの、修験者様も、この闇を払拭するために山に籠られていたのですか?」

修験者の答えになっていない、朱莉の質問が飛ぶ。

「いやいや、儂はまだまだ修行の身。怪異などに対抗する事など叶わぬて」

この修験者の顔は老齢に達していると思うのだが、肉体は壮年で体力のありそうな体つきをしている。修験の道を極めんと努力した結果なのであろう。

「失礼しました。私達は須崎神社にお参りに行こうと思っていまして」

「お主らは、その神社に、この怪異をなんとかしてもらおうと参拝に向かうという事か?」

「はい、そんな所です」

葵衣と修験者はお互いに笑顔でいるものの、何かお互いに対立心が有る様に見えた。

修験者からすれば、陰陽師の少女を連れた薙刀の乙女。そして、俺と蓉子。不思議な組み合わせに緊張しているのかもしれない。葵衣はその緊張に対して対立心を保っているのだろうか。


「そこの美人のお嬢さん。お主には不思議な気を感じるのだが、何か憑き物でもいるのかな?」

「まぁ、そうかもしれないわね。修験者様には何かお見えになるのでしょうか?」

「いやはや、修験者となると山に籠りて人との交わりが少なくなるもの。別に何も見えてはおらんよ。ちいと、酒の匂いがしての。その気に当てられ少し幻覚が見えたようなものよ。気を害したら謝ろう」

この修験者はなんとも掴みどころがない。正直どの様に対応すればよいのだろうか。


「さて、そこの若造。お主は、その女性方を連れ、何をなす?」

連れ?今までパワーバランスで葵衣たちにリードしてもらっていたから、意識してこなかったけど、一般的に見れば俺が連れ立っているのが普通なんだよな。

「えと、なんというか、彼女たちの望みを叶えるために、何かしら力になってあげたいと」

「なるほど。お主の行動は、そこのお嬢さんたちから生まれるととのことか」

修験者は、俺を半分揶揄った様にいいはなつ。そして、最後に朱莉に向く。修験者の顔は今までとは異なり、飄々としてはいるが眼力が違う感じがする。

「兄様・・・」

朱莉が俺の後ろに隠れるように逃げてきた。

「陰陽師の娘よ。修験者、僧、そして陰陽師は不思議な力を使う者。時には敬わられ、時には蔑まれたりするだろう。陰陽師は我らと異なり血がつなげる奥義。ゆめゆめ忘れるでない」


少し説教じみた事をのべた後、また先ほどの飄々とした顔に戻る。

「陰陽師の娘よ。お主には、儂はどう映っておる?」

「えっと、正直申し上げますと、陰陽師の様な気配を感じます。ただ、綿々と受け継がれた陰陽道ではなく、生まれつきのというか。上手く説明はできませんが、普通の修験者様ではないと思います」

「よかろう。では、お主にはこれを授ける」

修験者は首にかけていた数珠を外し、朱莉の首にかけた。何かの術にかけられたのか、修験者の動きが自然だったのか、だれも動けなかった。

「では、儂はお暇しよう。お主らの旅に幸が有らんことを願って」

修験者は、元来た山に向かって歩き出した。修験者の後ろに、大柄の男と小柄の男がうっすらと現れ、後をついて山奥に消えていった。


朱莉の首にかけられた数珠は元の主を見届ける様にうっすらと光っていた。


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