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第四章 第十三幕 始まりの地へ

日我上人の案内で、里見家当主、義尭と対面する事ができた。


「お目通り、ありがとうございます。仲間と武者修行している、草彅葵衣と申します」

葵衣が深々と礼をして、俺たちも倣って礼をする。

「旅の途中にて、西上野の長野様にお目通りもさせていただいたことがあります」


以前、甲斐武田の佐久侵攻に対するため、関東管領上杉家に援軍を頼みに行った。

コネが無いので、もちろん会う事はできず。

ひょんな事から、大胡城主の甥、疋田文五郎と出会い、その伝で長野業正の知見を得られた。

武芸が達者な葵衣たちは気に入られ、書状なども頂けた。


葵衣は、MMOゲームのアイテムボックスの様なスカルダッシから長野業正の書状を取り出し、上人に預ける。上人は里見義尭の元に運び、書状に目を通す。


「長野殿は達者であるか。儂の前の妻は長野殿の妹での。残念ながら鬼籍に入り縁が遠くなってしまっていた」

葵衣は、そのことを知っていて書状を出したのであろう。

「そなたらは、武芸、秘術に長けているとの事。どうか、安房のために力を貸して欲しい」

「ありがたいお言葉」

葵衣は、安房を覆う闇の正体を明かす。異界という言葉は使わず、妖怪の類として「ウンゴリアント」が光を食べている事が原因とした。

「信じがたい事ではあるが」

里見義尭が不思議がるのも自然だろう。いくら科学が発達していなくても、信じるのは難しい。

「拙僧も驚きはいたしましたが、話を伺うと辻褄が合う事も多く、事実かと思います。残念ながら、拙僧の力では解決できませんでしたが・・・」

日我上人も責任を感じている様だ。


「この安房の地に、八つの光の珠があると噂で聞いております。刑部少輔様は何かご存知でしょうか?安房の地を護る光の珠。あの妖怪には効果があると思います」

「申し訳ないが、心当たりがない。家臣共に記録を調べさせ、また聞き込みに行かせよう」

「ありがとうございます」


薄暗い中、記録を調べるのは大変だろうと思う。しかも、未来に書かれた小説の話だ。期待はしない方がよさそうだ。

「このまま、待つのも退屈であろう。ささやかではあるが、席を設ける故、しばらく休むとよい」


俺たちは、里見義尭、日我上人に礼を述べ、部屋をでた。


「なぁ、葵衣。光の珠って本当にあるのかな?」

「確信はないけど。でも、今までも何らかの手口が見つかってきたのだから、きっとあるわよ」

俺の問いに、楽観的なセリフで返す。蓉子なら、あり得ると思うのだが、葵衣のセリフだと少し怖い。


翌朝、まだ周りは暗い。

俺たちは、小姓から呼び出され、里見義尭と日我上人の前にたたずむ。


「里見家総出で文献等を調べましたが、その様な記録は残っていなかったようです」

上人が頭を下げる。

ある意味、無謀な事を頼んでいて、しかも暗い中で作業させているから恐縮する。

「刑部少輔様、上人様。お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」

葵衣も頭を下げる。


「あのぅ・・・」

朱莉が声を出す。皆の視線が朱莉に注がれる。

「あ、あの。確かこの安房国には洲崎神社があると思うのですが・・・」

「安房神社ではなく、洲崎神社だと?」

里見義尭が興味を持って、朱莉に聞き返す。

「はい。安房神社は天太玉命あめのふとだまのみことを奉る社。洲崎神社は天太玉命の后神天比理刀咩命あめのひりとめのみことを奉られております。陰陽道では女性は陰、つまり闇を表します。ですので、須崎神社をと・・・」

朱莉の声は徐々に小さくなる。

「光の珠を探しているのだったら、陽の安房神社に行くのが普通なんじゃ?」

俺は疑問をそのまま返す。

「まぁ、そうなんですけど・・・」


「安房神社は先年、儂が立て直した。しかれども、その様な話は聞かなかったが。日我上人はいかがか?」

「拙僧は仏門故、神道には詳しくはありませんが、先年刑部様が立て直された時にも何も無かったはず」


「わたしたちには、陰陽道の事はわからないのだから、ここは専門家の朱莉の意見を聞くのが妥当じゃないの?」

蓉子の意見はもっともだ。


葵衣を見ると、何かが繋がったような顔をしている。

「では、私達は須崎神社に行ってみたいと思います」

葵衣は、そう告げると旅の支度をはじめた。俺たちも後に続く。


須崎神社に向かう途中、朱莉と葵衣に理由を聞いた。

「安房神社には、天太玉命と主神として祀っていますが、その傍に天比理刀咩命も祀られているのです。ですから、陰陽がお互いに作用して力を十二分に発揮できない場合があるのです」

「なるほど。で、葵衣は?」

「偶然だとは思うんだけど、里見八犬伝の物語の始まりは須崎神社。子宝に恵まれなかった里見の城主妻が参拝し、その帰り道で修験者から数珠を渡させるの。あの八つの光の珠を含む百八の数珠を」


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