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第四章 第十二幕 里見義尭

安房国を覆う闇の元凶の巨大蜘蛛「ウンゴリアント」。

俺が先走ったせいで、信用を失っていた。葵衣の気転で秘術を見せ、日本寺で日我上人との対面を行う事ができた。


日我上人は蓉子に不思議な感覚を覚えたらしく、その点を指摘。葵衣は、朱莉や蓉子の正体を明かし、自分たちがどの様な旅をしてきたか、闇の原因が何であったかを説明した。

もちろん、俺や葵衣が未来の人間という事は伏せてある。信じてもらえないだろうし、信じられて歴史を変えられても困るからだ。


ウンゴリアントが蜘蛛であり足が八、

朱莉が八岐大蛇のイメージを行った事、

日本寺が安房国札観音霊場巡りの八番目

等、非科学的ではあるが、奇妙な共通点を見出した事を説明した。

そして、安房や里見家に何か八に関する情報がないかと。


日我上人は腕を組み、色々な記憶を呼び起こしている様ではあったが、心当たりは無かったらしい。


長年安房を治めてきた里見家。その里見家の事は里見家に聞くのが一番だろうと、上人は執り成しを買って出てくれた。

「私が祈祷しても問題は収まらなかったのだから、報告もしなければならないしな」

と。上人も責任は感じているのだろう。摩訶不思議の出来事であって、人知を超えた存在。非科学的ではあるが、実際に存在する不思議な世界。

早く解決して、上人の自責の念が減る事と、安房の回復を願うばかりだ。


戦国時代の事である。この里見家にも血塗られた歴史がある。

関東管領足利家との縁、小田原北条家との縁と戦、家臣団正木家や真里谷家との関係、そして、直系での内紛。

近々では十五年前の天文二(注西暦1533年)に天文の内訌が起こり、里見義尭の父実堯が殺害。

翌天文三年には犬掛の戦いと呼ばれる合戦で義尭が父の仇を討ち、家督を継いだのだという。

日我上人は、この頃から義尭の信頼を得初め、相談役になったという。


日本寺から里見家の拠点金谷城まで、約一里。半時も歩けば到着する。

日我上人は、寺の小僧に明日伺う事を事付け、里見義尭に使いを出した。


日我上人にいとまを請い、俺たちは部屋を出る。

葵衣に、八犬伝の話を説明してもらった。

滝沢馬琴、もしくは曲亭馬琴が書いた空想歴史小説。正式には、「南総里見八犬伝」。

滝沢馬琴が半生を懸け書き上げたもので、後年は失明し、義理の娘に口頭で伝え書き上げたとの事だ。

仏教での重んじる心得を八字で表し、その字を持つ英雄を描いたという。その字とは「仁義礼智忠信孝悌」。馬琴自身は、中国の事も詳しく、四大奇書の一つ「水滸伝」を倣いつつ書いたのではないかと言われている。水滸伝は百八人が縁で結ばれ、その八人が八犬伝になったとの事だ。


内容としては、安房には里見家と安西家が居て、里見家の不作を期に安西家が攻め込む。里見家の滅亡が決まりかけたとき、飼い犬「八房」が頭首義実の前に現れる。義実は、冗談めき安西の首を取ってきたら娘の伏姫を嫁にやると約束する。八房は安西の首を持ち帰り、伏姫は約束だからと八房を連れ出し山に隠遁する。伏姫を助け出そうと山に入った家臣が八房を鉄砲で射貫くが、伏姫も貫く。伏姫が首にかけていた百八個の球からなる数珠がバラバラになり、大玉で八字が書かれた珠が各地に飛び散った。


時は経ち、各地で牡丹の痣と不思議な珠を持つ八人の侍が誕生する。各侍は時には対峙し、時には助け合い、自分たちの不思議な縁を知る。舞台は安房だけでなく、関東、中部、北陸、京などにも及ぶ。そして伏姫の礼に導かれ、八犬士が里見家に集い、関東管領軍との合戦に参加し、里見家に勝利をもたらす。八犬士は八人の姫と結ばれ、城を与えられ子をなす。

その後、八犬士は揃って隠居をし、山で仙人になったという。


八犬士が持っていた珠は、散らばった小さい百個の珠と共に一つの数珠にまとめられた。そして、安房を囲むように四方に建てられた仏の目として納められたという。


歴史をベースにしているとは言えど、ここまで想像が膨らませられるのは凄いと思う。江戸時代に八犬伝を読んだ人は興奮したであろう。でも、俺が居た時代のフィクションは武将が女性化したりしているのだから、江戸時代の人はどう思うのだろうか。


などと考えながら、夜を明かすことになる。


翌日、日我上人の供として、俺たちは里見家現当主、里見義尭の居る金谷城に向かった。半時で到着するので直ぐと言えばすぐなのだが。


城に到着し次第、案内の侍が出迎え、上人と俺たちは義尭の前に座る。

「刑部殿、この度はお目通りありがとうございます。拙僧の徳が足りず、この闇を払う事ができず面目次第もございません」

上人は深々と頭を下げる。

「日我上人、面を上げてくだされ。上人ほどの徳と力を持ってしても、払拭できぬ闇。これは一重に我の不徳の致すところか、もしくは血塗られた里見への祟りかもしれぬな」

里見義尭は、見た目は四十前。日我上人と同じくらいの年齢であろう。

ただ、違うのは上人は穏やかな顔をしているのに対し、義尭は精悍な顔つきであった。幾多の合戦、血塗られた歴史を渡ってきたからであろう。


「ところで、上人。言伝にて伺ったが、何やら解決方法の手口が見つかったとか」

「はい、この者たちでございます」


上人は、少し下がり、俺たちの後ろに控えた。


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