第四章 第八幕 八つ
豊受気媛との話から、兵糧攻めを行った俺たちではあったが、効果は無かった。
洞窟の入り口は確実に塞いだ。
しかし、明るさが戻らないという事は、失敗でしかない。
「なぁ、葵衣。なんでだと思う?」
「考えられる可能性としては・・・」
・巨大蜘蛛の住む洞窟には、他に光を取り入れる口が有る
・巨大蜘蛛は物理的な遮蔽があっても、光を食べることができる
・巨大蜘蛛が原因ではないか、もしくは、他にも同じような生物みたいなのがいる
確かに、どれも可能性はあるな。
「さて、大口を叩いた茂玄君。君はこれから、どう行動するのですか?」
蓉子の口調が、いつもより厳しい。
というのも、穴を埋めて数日経っても状況が変わらないからだ。
村長も口では慰めてくれてはいるが、失望はしているだろう。村人の視線も痛い。
かといって、逃げられる状態ではない。幸い、辺りは暗いため強引に逃げることも不可能ではないが、葵衣や朱莉への心のダメージが心配だ。
「あの、兄様。もう一度、豊受気媛様にお話を伺いに行きませんか?あの時、途中で話が途切れていたようなので・・・」
確かに、俺は勇み足を踏んで、いの一番に駆け出していた。蓉子はヤレヤレと言った感じだった。葵衣と朱莉は礼を述べていた様に見えていたが、実は話の腰を折った事を謝っていたのかもしれない。豊受気媛も少し呆れていたような顔をしていた気がする。
「そ、そうだな。もう一度、豊受気媛に話を聞きに行こう」
「では、私は村長さんの所に行って、事情を話してきますね。戻ったら行きましょう」
本当に葵衣はいい娘だ。逃げたと勘違いさせない様に。ある意味俺の失敗の尻ぬぐいで、冷たい視線の中、村に入り、説明してくれるというのだから。
葵衣が戻ってきて、鋸山の山頂に向かう。先日、豊受気媛と出会ったところに着いたが、そこには既に居なかった。呼んでも出てこない。一昼夜待っても変わらなかった。
「茂玄さんだけのせいじゃないから」
葵衣が俺に声をかけてくれた。正直精神的に参っていて、凄い顔をしていたと思う。
どうすれば、よいのだろう・・・
「ねぇ、もう一度、可能性を検証してみない?」
食事が終わって、意見を述べた。
正直、今が何月何日で時間感覚もかなりずれている。
「それしか無いようね」
蓉子も腰を上げる。
先日、葵衣が推理してくれた物の内、どの可能性があるかを検証する訳だ。
洞窟の入り口で、朱莉の野宿火と蓉子の精霊を使う。
野宿火は姿を現すや否や消えてしまう。蓉子の精霊魔法もどちらの打ち込んでも、山肌に吸われていく。
「とりあえず、奴が生きている事。そして、物理的な遮蔽は意味が無い事が証明されたわけだ」
「他に同様の化け物が居ない証明にはなっていないけどね」
確かにその通り。蓉子も頭が切れる。
「しかし、こうなると次に打つ手をどうするかだよな・・・」
巨大蜘蛛「ウンゴリアント」の対策基地として利用させていただいている日本寺。
すでに夜で闇なのだが、時間感覚はあまりない。
さっきから葵衣が何か考え事をしている。
「ねぇ、朱莉ちゃん。巨大蜘蛛を酔わせる方法って、どうして思いついたの?」
「深く考えた事は無かったんですが・・・。このお寺に戻ってきた時に、八岐大蛇の話を思い出したんです。なんでなんでしょうか?」
「あれかもね」
朱莉の答えを示すかの様に、蓉子が指さす先には、八股の巨木が立っていた。
「人間の脳は、見ていないようでも何気なく目に入った物から想像する事もあるんですよね」
葵衣は何でも知っているな。
「なぁ、葵衣。ところで、なんで急に朱莉の策を聞いたんだ?」
「うーん、非科学的ではあるけど、ちょっとした法則に気が付いてね」
それは何だろうと興味を持って聞く。
巨大蜘蛛、蜘蛛だから足は八。
八岐大蛇の頭も八、蒸留した回数も八。
この日本寺は、安房国札観音霊場巡りの八番目。
そして、安房と言えば里見。里見と言えば八犬伝。
「つまり、八が関連している事が多いのよ。さっきも言ったけど、非科学的でなんの根拠もないけどね」
偶然と言ってしまえば、それで終わりだが、でも面白い考えではある。
「陰陽道でも、八は重要な数です。そういった繋がりがあるのかもしれません」
朱莉が断言した。陰陽道の事なら自信があるのだろう。いいことだ。
「里見八犬伝は滝沢馬琴が書いた小説だから、事実ではないのだけど。でも実在の人物がモデルの登場人物とか、中国の水滸伝、そして多くの軍記物を参考に書かれているから何かヒントは得られるかも」
非科学的な事ではあり、信憑性は皆無であるが、葵衣が発見した喜びを感じているなら、それはきっかけになるかもしれない。
「蓉子さん的にはどうですか?」
「女の勘は鋭いと言うし、試してみる価値はあるんじゃない?」
滝沢馬琴作「南総里見八犬伝」。この道を辿れば、何か解決策が見つかる様な気がしている。




