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第四章 第七幕 次なる手

北欧の巨大蜘蛛「ウンゴリアント」。食欲を逆手に取り、強力な酒を呑ませるが・・・


蓉子の精霊魔法を洞窟奥に打ち込んだが、熱は感じるものの明るくならなかった。

つまり、巨大蜘蛛は酔わなかった事になる。

酒が少ないのか、アルコールが効かないのか。


蜘蛛の攻撃が来る前に、洞窟の入り口で待つ葵衣と朱莉の所に逃げ帰る。

「折角のお酒が、もったいなかったわね」

いくらでも酒が出るのに、そんなに独り占めしたいのだろうか。蓉子のボヤキにふと思う。


「兄様、失敗だったのですね。ごめんなさい」

朱莉が申し訳なさそうに謝ってきた。

「いやいや、あいつが蓉子以上の化け物だったんだ。朱莉のせいじゃないよ」

俺自身も、随分と口が悪くなったなと思う。

「それはちょっと、蓉子さんに悪いのでは?」

朱莉の素直さがまぶしすぎる。


再び日本寺に戻り、次の対策を考えることにした。

「なぁ、朱莉の作戦だけど。大蜘蛛は酒を呑まなかったのか、酒が足りなかったのか、そもそも酔わないのか。葵衣はどう思う?」

「アルコールだけど、相手によって効果が違うのよね。

菌やウイルスの場合、膜を破壊して殺す事ができるの。これがアルコール消毒ね。

小型の昆虫とかだと、アルコールの気化熱によって体温が奪われて、凍死。

中型から大型の動物だと、体の中の酵素が変化して、気持ちよくなったりするのね。でも、結局は毒のはずなんだけど・・・」

葵衣は、チラリと蓉子を見て、最後は言葉を濁していた。蓉子は、毒なんて無意味よ、といった顔をしている。蓉子の心配は無い様だ。


「でも、あれだけ濃いアルコールの樽を壊していれば、近くの空気中に充満。体内に取り込んでいると思う。となれば、あの蜘蛛にはアルコールは効かないと思った方がいいんじゃないかしら?」

「あんなバケモンにやるくらいなら、わたしが全部呑み干す」


具体的な方法も思いつかず、すっかり陽が暮れる。もっとも、最初から薄暗いのだが。

寺の一角で会議をしていた俺たちに、一匹の白い狐が現れた。

あれは・・・

俺が山で遭難したときの狐か?


俺が気が付いて立ち上がると、狐は着いてこいと言わんばかりに、鋸山に向けて歩き出した。

俺は葵衣たちを促し、狐の後を追う。


山道は暗く、歩けないと思っていたが、白い狐のオーラなのか足元は見える。

普通の夜道と同じくらいだ。松明などが無いから、いつもの夜道よりは暗いのだが。


白い狐が茂みに飛び込んだかと思うと、目の前に女性が現れた。

その女性は、俺たちを導いてくれる古来の女神「豊受気媛(とようけびめ)」。道案内をした狐を労わる様に、優しく抱きかかえ撫でている。当の狐は、使命を果たし、主人の元でゆっくりできたのであろう。

()の国から光を奪うとは、異界の魔物はほんに育ちが悪い」

豊受気媛も状況を知っていたのか。稲荷神社はどこかしらに存在するので情報は早いのかもしれない。

「うぬらは、酒で酔わすとは考えたが・・・義理の母を救った父の策。いささか不快ではあるや」

神の世界でも女の意地による対決はあるのか。まぁオルルーンとの関係をみれば、理解はできる。

二人とも、人間くさいところはある。


「豊受気媛様。何か策はおありでしょうか?」

葵衣が思い悩んだ末、女神に問う。

「あやつは、世界中の光を食し尽くし、しまいに己からを食し果てたのであろう?」


「ということは、洞窟の入り口を塞いでしまえば、空腹で自分を食べて、自滅するかもしれない。よし、みんな行こう!」

俺は光明を見つけ、急ぎ村へ向かって走り出す。そう、出口を塞ぐ人手を借りるために。

蓉子はヤレヤレといい、葵衣と朱莉は豊受気媛に礼を言ってすぐに着いてきた。


俺が、お礼を述べている葵衣と朱莉を確認した時、豊受気媛が「まったく」といった顔をしていたのを見過ごしていた。


翌日、村長の家を訪ねる。

「ご無事でしたか。一向に収まらないので、心配しておりました」

「あぁ、心配かけて申し訳なかった。倒すことはできなかったけど、正体と対処法が解ったんだ!」

「なんと。それは吉報です。流石は日本寺を有する山。神も仏も我らを見捨てなかった」

「それで、ちょっと協力してほしいのですが・・・」

「なんでも言ってください。喜んで協力いたします」

「実はこの怪異、巨大な蜘蛛が光を食べていたんです。なので、その穴を塞いでしまえば、中は真っ暗闇。食べ物が無くなれば飢え死にするという寸法です」

「なるほど。では、近隣の村にも伝え、若い衆を遣わせましょう」


翌日、真昼間だが夕暮れ時の明るさの中、俺たちは村の若い衆を連れて洞窟の入り口を埋めに行った。


これで、事件は解決。

オルルーンの本と豊受気媛の知恵があって初めて成功する。流石は人を超えた存在。本当に、何かを御馳走してあげたい!


しかし、何日経っても、安房を覆う闇は無くならなかった。


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