第二章 第二幕 野営
不思議な組み合わせの四人で、パーティーを結成した。未来を知る葵衣のアドバイスにより、関東管領上杉憲政に助力を頼みに行くことになった。
とりあえず、この旅を導く女神豊受気媛に、俺自身を知る人々の記憶から消してもらっている。故に、この場に留まるのは危険だ。
俺とチームを組んだ若い侍の斥候たちが、ここに見回りに来るのは自明の理。顔を覚えていなければ不審者だ。それ以前に、この面々は怪しい限りである。
関東管領とは云え、その力は微妙ではある。南関東は北条家・里見家、東は佐竹家など有力な家が大名と化している。また同族でもあった四つの上杉家とも勢力争いをしていたので勢力としては一大名と等しい。ただし未だに旧権力を神格化している小領主も多い。
上野に抜けるには、北の佐久に行き東に進路をとって移動する事にした。と言っても、街道は使えないので山道を行く。
一日目の夜は、とりあえず斥堠場所から離れて一夜を明かす。
二日目。俺は昨日のドタバタで精神的には疲れていた。全員の体力も残っていて割と距離を稼ぐことができた。しかし夕方になると、流石に疲れの色が皆に見え始めた。
「あー、もうこんな獣道。草は邪魔だし、虫はいるし」
蓉子が文句を言い始める。ストレスが溜まっている証拠だ。
朱莉は、まだ体ができていない。体力はたかが知れている。
実は俺も疲れているのだが。
鍛えていた葵衣は、黙々と歩き続けるが――疲れも溜まっているだろう。
「少し早いけど、ここで野営しよう」
初めての野営に入る。まずはどうするかだが――
朱莉の野宿火で、獣除けはできるだろう。食料は女神から貰った常糧袋でなんとかなる。残りは妖魔と人間か。
「妖魔の気配や人間の足音なら、私の耳で察知できるわよ」
伸びと欠伸をしながら蓉子がだるそうに言う。一抹の不安はあるが、任せることにした。
葵衣が、そっと耳打ちする。
「蓉子さんを信じていない訳では無いですが……蓉子さんと別に、私と茂玄さんで交代で番をしましょう」
耳元で囁かれる、葵衣の出すセリフは優しい声色ながら、頼もしく感じた。
夕食も終わり、それぞれがくつろぎ始める。酒を呑んで、大いびきをかいている蓉子は流石だ。宿主の狐の性か、憑依した蓉子が大物なのか。
刻が過ぎる。葵衣は交代でと言ったが、男として少しでも永く番をし、葵衣には休んで欲しい。
野宿火を見ながら丸太に腰かけ、女神や天使から貰った恩恵を整理してみる。武器、糧秣もさることながら多くの物を準備してもらえた。争いも、こういった時には有効なんだなと苦笑いする。
俺の懐には『山海経』が残っていた。それ以外は無銘の脇差だ。
マンガやラノベ、ゲームがあれば最高なんだけど。この戦乱の世では過ぎたるものだ。これで、満足しよう。
玄晏和尚の元で武経七書を読まされていた。しかし正直つまらない。隙を見ては、この地誌と逸話を集めた『山海経』を読んでいた。和尚にも忘れられているのか。少し寂しい気がする。
ページをペラペラめくり、物の怪の類のページを流し読みする。
眼の端で、何かが動いた気がした。視線を移すと、朱莉が起き上がっていた。そして眠そうな目をしながらも俺を見ていた。
「どうした?」声をかけると、朱莉はトコトコ近づき隣に座る。
陰陽師として育てられてても、やはり子どもだ。術を使っている時の頼もしさは今は感じられない。
「あの……茂玄様」
小さな身体をもたれかけてくる。俺は彼女の頭を軽く撫でる。
「えと……」
肩をすくめ、少し顔を紅くし、恥ずかしそうに下を向く。
「兄様と呼んでもよろしいですか?」
一瞬何事かと思ったが、笑顔で応える。
「良かった」
満面の笑みを浮かべ、ほっとしたのか俺の膝の上に頭を乗せ寝息を立て始める。過去に何かあったのか、それとも不安なのか。こんな俺でも役に立てるなら嬉しいものだ。
しばらく寝顔を見ていたら悪寒が走る。
首を上げると、蓉子が肘枕をしながら含み笑いをしている。
「ロリコンめ」
葵衣と交代してもうまく眠れず、夜が明けた。




