第四章 第一幕 茂玄のプライド
伊豆での出会い、そして別れ。
どこを旅しても常識は通じない。それが、この世界だ。
俺たちは、旅をしながら異界からの招かざる客を駆逐している。流れの用心棒と言ったところだろう。
山本勘助の時とは違い、時間との戦いはあまり気にしないのは楽だ。
北欧の小鬼、トロルド。
初めて俺たちに命の危機を与えた相手だ。
油断はならないが、今の俺たちには十分優勢で戦えている。
しかし、最近での村の問題は破壊だけでは無くなっていた。
物が盗まれたり、壺が壊されたりと、トロルドとは違う問題が増えてきた。
トロルドなら返り討ちにして、逃げたトロルドを追って巣を壊滅させれば良いのだが――
新たな敵は『インフ』。いたずらをする妖精だ。インフは団体行動をしないので、出てきたものを退治すればよいのだが、トロルドよりは知恵が回る分対処が難しい。
ある村で、インフを退治して一休みしていた時の事である。天から北欧の戦乙女オルルーンが降りてきた。
「まだ、解決しないの? 蛮国の人・化物に頼んだのが失敗だったかしら」
「なら、他に頼めばいいんじゃない? 天狗のご主人様は頭脳明晰、戦もお強いのでしょ?」
こういった時の蓉子はとても頼りになる。
葵衣や朱莉があんなセリフを吐いた日には、俺はどうするだろう。
「失礼しました。オルルーン様は何か御用でしょうか?」
葵衣は丁寧に質問した。
「汝たちが戦っているトロルドは我が世界の物。しかし、この蛮国とは違う世界と繋がりはじめたみたいで、世界の混乱が広がっていてね。さっさと解決するよう言伝を預かったというわけ」
なるほど、インフは北欧神話ではなかったのか。ゲームなんかでは古今東西、神も悪魔も一緒くたに扱われているから気が付かなかった。
「あ、なるほど。だからトロルド以外の物怪が襲うようになったんですね」
朱莉が納得したように言葉を継いだ。
「ということで、伝えたから早く片付けてね」
オルルーンは立ち去ろうとする。
「オルルーン、ちょっと待ってくれ」
俺は、オルルーンを呼び止めた。
オルルーンは面倒くさそうな顔をしながら動作を止めた。
「あの、ちょっと相談があるのですが……あちらでいいですか?」
「あらあら、茂玄は天狗をナンパ? 趣味が悪いわね」
「うるさい!」と蓉子に反撃。オルルーンに蓉子の非礼を謝りつつ三人から離れる。
「で、茂玄は何か用? 暗がりに連れ込んで……発情中? でも、相手にはしないわよ」
「いやいや、そうじゃなくて」
俺は、自分の想いを告げた。
葵衣には多くの知識と薙刀術がある。
朱莉には、陰陽師としての能力がある。
蓉子には、精霊魔術と西洋魔術の知識がある。
明らかに俺には役に立つものが無い。
前世で聞きかじった知識は、元の伝説を無視して書かれた物ばかり。体験では違っていた。
つまり、俺が持っている知識は役に立たない。
「そこでオルルーンには、この国には無い情報を教えて貰いたいんだ。何か本の様な物でいいから、準備してくれないだろうか? 主神オーディン様は、すべてを見通す知識があるんだろう? この通り頼みます」
俺は土下座をして、オルルーンに頼んだ。
「ま、虫けらが地面に這いつくばった所で、普通の事ではあるけど……オーディン様には伝えておくわ。ただ、忙しい方だから期待はしないでね」
オルルーンは飛び去って行った。
葵衣たちの所に戻る。
「茂玄ったら、土下座なんてして、オルルーンに交際でも迫ったのかしら。ダメ同士お似合いだとは思うけど」
確かにオルルーンは美人ではあるけど、そういった感情はない。
「まぁ、ちょっと頼みごとをしただけだよ」
敵の情報が解れば、攻略法も解る。
オタクとして人生を送ってきた分、基礎情報はある。だからそれの修正と追加をしていけばいいのだ。俺は俺なりに三人の役に立つことをしたい!
まぁ男として、今後の能力を語るのは無粋だ。それは自慢より格好悪い。これはオルルーンからの情報を得てから、そっと役立てよう。
「でも違う世界とも繋がったとすると、今後も多くの世界と繋がる可能性が高いですね」
葵衣が、気を引き締めるように言葉を出した。
「まぁ、葵衣と朱莉、そしてわたしがいれば何とかなるわよ」
蓉子はいつもの調子で、俺を山車につかう。でも、この旅が挫折せずに進められているのは蓉子のお陰だ。それも十分に分かっている。これくらいの揶揄われは、甘んじなければ。
さて、俺たちの旅はこうだった。
志賀城の戦いから始まり、山本勘助をなぞる旅。
山本勘助が目的地とした小田原北条家始祖の出発地伊豆に行った。
今度は、北条早雲こと伊勢新九郎の通った旅になりそうだ。




