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第三章 第二幕 初めての旅

 八月朔の日、僕は蓉子さんたちと出会う。旅芸人として伊豆を巡る話となり、同行する事になった。




 目的地は修善寺。古来から温泉が有名で、怪我や病気の治療に訪れる人も多いという。

 弘法大師様が開かれた温泉と、葵衣さんが教えてくれた。彼女は色々詳しい。




「このまま行けば、夜には到着しちゃうわね。今日はここで練習して、明日から披露しましょう」

 蓉子さんが仕切る。

 屋根のない所で寝る? そんな事は考えた事も無かった。旅とは思った以上に厳しいようである。



「そうだな。朱莉にはもっと多くの歌を覚えてもらいたいし」

 茂玄さんは、歩きながら朱莉さんに歌を教えていた。歌とは不思議なものだ。楽しくなったり、寂しくなったり。朱莉さんも、楽しそうに歌っている。この光景は見ていて心が温まるようだ。



「さて、はこぞうさん。軽業だけどできるかしら?」

 蓉子さんは僕に尋ねる。軽業とは詳しくは何をするものなのであろうか?

 はしごを面白く昇ってみたり、綱の上を歩いてみたり、物を順番に投げて見たり。



「うーん、運動神経は良さそうだけど、難しかったみたいね」

 蓉子さんに、それこそ手取り足取り教えてもらったけ。だけど、どれも上手くできなかった。僕はダメなのだろうか。

 でも蓉子さんに教えてもらっている時、鼓動が早くなっていた。これはなんだろう。


「まぁ、気にしない気にしない。お酒でも呑みましょう!」

 葵衣さんと朱莉さんが食事を作る。蓉子さんは、お酒を呑んでいた途中で寝てしまっていた。




 翌朝。いつもの調子で起き上がろうとするが、頭が痛くて起き上がれない。

「蓉子、おまえ呑ませすぎただろう」


 茂玄さんが、蓉子さんを叱っている。いや、蓉子さんは悪くない。僕がいけないのだ。

「茂玄ったら、美人のお酌を受けられなかったからって、妬いているのね」

 蓉子さんは、叱られているとは思えない態度だった。不思議なものだ。



「はこぞうさん、立てます? 無理はしなくていいんですよ。旅も初めての様ですし」

 葵衣さんが、優しく声をかけてくれた。そして温かい汁ものを出してくれた。

「二日酔いには味噌汁がいいんですって」

 出された味噌汁。しょっぱいけど美味しい。



「はこぞうさんさえ良ければ、もう一日ここで過ごしてもいいんだけど。どうします?」

 茂玄さんが気を利かせてくれた。足を引っ張りたくない気持ちと、この時間に永く浸りたい気持ちで綱引きが起きる。しかし審判はもう一日過ごすことを下した。つまり動けなかったのだ。




 二日目は、無事に起きられた。そして、修善寺へ到着する。

「美味しいお酒と、おひねりをいっぱい貰うわよ!」

 蓉子さんは気合が入っている。この人の仕草、言葉には不思議な魅力がある。

 庄屋に入って、裕福な旅籠(はたご)のを紹介してもらう。

 三人はそれぞれ芸を見せ、御座敷に出ることを許してもらったらしい。




 夜。宴が始まり、彼女たちはお座敷で芸を披露している。僕と茂玄さんは、むさくるしく無いよう別の部屋にいた。朱莉さんの歌や、拍手喝采(はくしゅかっさい)が聞こえてくる。蓉子さんはどの様に舞っているのだろう。


「茂玄さんは、彼女たちとどういった関係なのですか?」

「たまたま知り合った旅仲間だよ。ひょんな事から、事件に巻き込まれてしまった。どたばたしている内に一緒に居るのが当たり前になっていた。のかな?」


 蓉子さんは不思議な魅力がある。僕の知らない、蓉子さんを知りたい。茂玄さんが知っている蓉子さんの姿を。

「蓉子さんって、どんな人なんですか?」

「まぁ、あのままの自由な性格だよ。でも、いつでも俺たちをしっかり見ていてくれる。なんだかんだで面倒見は良くて、頼りになる。ちょっと悪ぶったお姉さんといった所かな」


 蓉子さんを知っている茂玄さんを羨ましく思う。旅先で知り合っただけで、姉弟の様に思える。とても羨ましい。僕も蓉子さんに家族の様に思われたい。




 宴は夜遅くまで続いていた様で、僕はいつの間にか眠っていたようだ。


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