第三章 第一幕 旅芸人
いつから、こうして働いているのだろう。
仲間はいつの間にかいなくなっていた。
僕は何をしたいのだろう?
黙々と畑の手入れを行っている。畑の仕事をするのは当たり前だと思い、それ以外の生きるすべを知らず、考えた事すら無かった。
そう、あの四人を見るまでは。
今日は八朔。収穫を祝い、豊穣の神に感謝をささげる。そして、故知の人々への贈り物をする日だ。
稲荷様にお参りに行くと、風変わりな四人が楽しそうに食事をしていた。
若い侍、乙女、巫女のような格好の少女、そして長身の美人。
「あら、あなたもこちらに来て食べなさいよ」
長身の美人が声をかけてくれた。
「え、僕の事?」
「あんた以外に誰が居るのよ。さっさと来なさい」
誘いに釣られるように、彼女らの輪に加わる。
「どうぞ、召し上がれ」
乙女が食べ物を差し出してくれた。美味しい。知っている言葉ではあったが、これがその意味なのだろう。
『美味しさ』に我を忘れて、食べ物を無心で食べ続ける。焦った結果、喉につまり咳き込んでしまった。
「大丈夫ですか? はい、お水」
少女が水を差しだしてくれた。
食べ終わり、彼らの話を聞いていた。
知らない言葉を使っていた。喜怒哀楽が交じっている。
「あの、こんな物でよければ、貰っていただけませんか? 今日は八朔なので」
食べ物のお礼に、今日刈り取った稲穂を渡す。
「ありがとうございます!」
少女は笑顔で受け取ってくれた。
鳥居の向うで、誰かが微笑み、こちらを見守っているようであった。
お互い、自己紹介を行う。
「僕は『はこぞう』です。茂玄様、葵衣様、朱莉様、蓉子様ですね」
「様はよしてくれよ。恥ずかし」
若い侍、茂玄様が言ってくれた。
「そうそう、こんなのは茂玄で十分。あなたの方が年上なのだし、もっと気楽にね」
蓉子さんは気さくに話しかけてくれていた。
「あのう、皆さまは旅をされているとか。その楽しさを各地に配っておられるのですか?」
「旅芸人って事かしら? それはそれで楽しいわね。しばらく旅芸人で行きましょう! わたしの舞は凄いわよ!」
蓉子さんは明るくて、親しみやすさを醸し出している。
みんな笑っている。これは何の感情だろうか? この時を永く浸っていたい。
「暫くの間、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「畑仕事はいいのかい? 俺は一向に構わないが」
「畑仕事より、大事な物を見つけた気がするのです。そして、これから人生で最大の物を得られそうだと」
「では、はこぞうさんも一緒に行きましょう!」
葵衣さんが手を差し出してきた。思わず両手で握ってしまう。何故か茂玄さんに一瞬睨まれたような気がした。
「この伊豆地方は、温泉もいい。山海の幸も美味い。面白い旅になりそうだ」
「ところで、茂玄。わたしは舞えるけど、あんた達はどうするの? 太鼓持ち」
蓉子さんは茂玄さんに対して嫌味の交じった声で質問する。しかし、茂玄さんは嫌がっている節はない。
「私は剣の舞ならぬ、薙刀の舞で行こうかしら」
「あの、あたしは芸なんてできませんが……」
「朱莉は歌なんてどうだ? 声も可愛いし」
茂玄さんの言葉に、朱莉さんは恥ずかしそうにしている。
「俺が教えてやるよ。さしずめ俺はプロデューサーか」
「あの、僕は?」
「そうね……それは歩きながら考えましょう!」
「それでプロデューサーを語る茂玄は、結局何もやらないわけね」
蓉子さんの言葉で、またみんなが笑いだした。




