第二章 第六十四幕 北欧神話との戦い
山本勘助と彼に率いられた死人の群れを倒すことができた。しかし、その跡に巨大な陽炎のロキ。その脇には二匹の巨大な狼がいた。
まるで殺した人の血を勲章の如く自慢するように胸元を真っ赤に染め上げている狼。
地獄の業火を思い起こさせる紅と黒を混ぜた火焔を目と鼻の先にたぎらせている狼。
「もう、なんなのよ。茂玄、あれはなんなの?」
蓉子はきつい口調で俺に質問を投げつける。疲れているから余計なのだろう。
「多分だけど……胸元が赤い狼は『ガルム』、地獄の番犬。炎の狼は『フェンリル』、世界を喰らう狼にして、ロキの子」
こんな時に役立つゲームの知識。しかし、ゲームの画面とは全然違う絵柄だ。
とても倒せる、それ以前に戦える自信すらない。いくらバランスの悪いゲームでもこれは酷すぎる。
スタートの街にラスボスが攻めてきた位い、クソゲーだ。しかし、これは現実。なんとかしないといけない。
「吾の地に、無粋な獣を入れるでない」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。先日お世話になったばかりの日本の女神、豊受気媛。
神にも縋りたいと思っていたから、豊受気媛の出現はとても心強かった。
豊受気媛が手を振るうと、どこからか様々な狐が現れ、ガルムに群がる。蓉子が憑依した様な普通の狐から、尾が幾つもある狐、しっかりと実体は見えないが空気の歪みからうっすら感じられる狐。
妖怪大戦争とはこんな感じなのだろう。ガルムは豊受気媛の眷属により動きを封じ込められた。と言っても互角の戦いではあるのだが。
しかし、これで一体の動きは封じられた。でも、俺たちが不利な事に変わりはない。
「ロキは子だくさんだけど、まともなのが居ないわね」
豊受気媛と同じように、俺たちの後ろに人が現れる。正確には北欧の戦乙女オルルーン。蓉子以上に口は悪いが、今これほど頼もしい助っ人もありがたい。
「行け、光の精霊たち。水の妖精たち」
水の妖精と呼ばれた者たちは、フェンリルに対して次々と矢を放つ。水の属性を持つためか、フェンリルの炎も一時弱まったが、再び強さを増し水の精霊との力比べが始まる。
光りの精霊は、フェンリルの周りを飛び回り、その体にぶつかり攻撃を加える。
フェンリルもオルルーンの援軍により動きを封じることはできた。
残るは、ロキである。
豊受気媛とオルルーンが相手にして倒してくれるのだろう。俺たち一般人には出る幕がない……と思っていたが、そうは問屋が卸さないらしい。
豊受気媛は朱莉に何かを伝え、朱莉は俺をちらりと見て、豊受気媛に分かったと首を縦に振る。
オルルーンは、なんらかの紐を持ち、フェンリルの動きを注視している。あの紐は北欧のグレイプニールか? あれで、フェンリルを縛り付ける作戦なのだろう。
ロキに対しては、葵衣と蓉子がにらみを利かせている。一方ロキの方は「無駄なあがきを」といった風で、大して気にしていないのだろう。なんとか一矢を報いたいが。
遥か後方で巨大な稲妻が落ちた音がする。振り向き方向を確認すると諏訪。きっと諏訪湖だろう。
諏訪湖から現れたのであろう、巨大な龍が俺たちの上を通り過ぎ、ロキに絡みつく。ついに余裕を見せていたロキは実力を出さないと対応できない相手とまみえることになった。
何分ぐらいであろうか。
北欧の巨人と二匹の狼。豊受気媛の眷属、北欧の精霊と妖精、諏訪湖の龍。両者の死闘が続く。
これほどの戦闘が起きても周りへの被害が及ばないのは豊受気媛がなんらかの結界を張って、異次元にでもいるのかもしれない。
力では圧倒的に勝っていても数には勝てなかったのだろう。二匹の狼の抵抗は無くなり、フェンリルはオルルーンのグレイプニールで捕縛されていた。
ロキと龍の戦いは、未だに続いている。どちらの血か。おそらく両方の血であろうか、周りは赤くなり何か巨大な物がうごめいている様にしか見えない。
巨大なうごめきが止まった。決着が着いたのであろう。できればロキが負けていてくれれば良いのだが――。
龍はそのとぐろを解き、諏訪湖方面に飛び去ってしまった。残るはかすかに息をしている巨人ロキがいた。
「葵衣、ロキに止めを刺しなさい」
オルルーンにいわれ、はっと我に返った葵衣はロキに向かって駆け出す。気合と共に飛び上がりロキの頸を東西の神秘を組み合わせた薙刀が断ち切る。
ロキの動きは完全に止まった。
「勝った……のか」
この場で戦った者たちはみな消えていた。一部の者を残して。




